第213話 伊豆の踊り子

文字数 973文字

とりとめのない話をしながら人混みをかき分けながら歩いた。東京駅にいる人達は皆どこか急いでいるようで自然と歩幅が大きくなる。

ふと横を見るとデパートのショーウィンドウに綺麗なウェディングドレスが飾ってあった。マーメイドラインの綺麗な純白のドレスで裾が3メートルぐらい伸びている。
思わず一瞬見惚れ、また会話に戻ろうと視線を駅を歩く人達へと戻した。

「着せてやろうか?」
思わぬ一言に彼をみた。
「知り合いのスタイリストさんに頼めばそれくらい」
彼は女の気持ちなんて何にもわかっちゃいない。ウェディングドレスはただ着れればいいってもんじゃないってことを。小さな溜息をついた。
「いいって、あのドレスは誰かと愛し合って結婚する時に着たいの、コスプレ大会しても楽しくないから!」
そう言うと彼は遠くを見てすぐにまた視線を戻した。
「じゃあ俺と結婚する時に着させてやる」
彼のあまりに軽い言いっぷりに私は半ば呆れ返り笑った。
「軽すぎるよ」
彼が急に真面目な顔になりこう言った。
「なぁ亜紀、俺たちが結婚するにはまだ早すぎる。その段階までいってない」

彼が真面目な顔で言った。確かに言われてみると付き合って数ヶ月しか経ってないし、そこまで彼の事をまだ知らないような気もする。けれどそんな事口に出す必要ないでしょ。

心の底でかなり苛ついているけれど、悔しいのでそんな事絶対に口に出せないからわざと何とも思っていないフリをした。

「そりゃそうでしょう、まだ付き合ってちょっとしか経ってないから、よく知ってるようで知らない人って感じだし」
「言いたいことはわかるけど言葉が悪い、やり直し」と彼は機嫌悪そうに言った。

「じゃあ近いようで遠い人」
「尚更悪くなってるから」
「じゃあわかってるようでわかってない人」「それ俺が亜紀ちゃんにいつも思ってること」
「出世できるようでできない人」
「もうそれサラリーマンの啓発本だろ!」

「わかった、じゃあ好きなようで好きじゃない人」さっきの怒りもありふざけて言うと、彼が急に足を止めて真剣な眼差しで「俺のこと好きじゃないの?」と言った。

「ううん、好き」と笑うと彼は人目を憚らず抱きしめてキスをした。すぐにまた彼に手を繋がれて歩き出した。

「まさかのキスオチ」と呟くと「一番スッキリ落ちただろ?俺神経質だから一度北澤とこれやったら3日吐き気と目眩がやまなかった」と笑った。
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