第66話 ちゃんとした場所
文字数 985文字
警察署から二十五分で佐久平駅に着いた。駅前は夜九時を過ぎているので人気が無い。駐車場に駐めた車から一歩外に出ると、冷たい秋風が体を冷やした。
丸山さんは半袖Tシャツとジーンズという格好だったから「半袖だったら寒いですね」と声をかけた。
「流石に寒いよ。もっと冬は寒いんだろ?」
「寒いですよ、晴れてる日が多いし雪もあんまり積もらないけれど、そこら辺のスキー場より寒いです」
「俺じゃあ厚手のコート買うよ」と丸山さんが空を見上げながら言うので「そうした方がいいかも」と私も相槌を打った。
言った直後に自分が言った言葉の重みに気がつく、これは完全に付き合うっていう流れなんだよね。
駅の改札口まで繋がる階段を二人で登っている時に彼がおもむろに口を開いた。
「祐一くんだっけ?俺先生と丸ちゃんが付き合ってるなんて誰にも言いませんって言ってたよな?」
彼は一番触れてほしくない所に触れてくる。何食わぬ顔で「そうですね」と答えると、「俺てっきり付き合ってませんって言われると思ってたからびっくりした」と何か言いたげに言ってきた。
私は笑って誤魔化した。
彼は人の心を読む天才だ、だから何も言わなくても私のこの気持ちを察してくれてると思う。
丸山さんがふと階段を登る足を止めた。
私も足を止めて丸山さんを見ると、彼が「亜紀ちゃん、キスしようか?」と言った。
私の心を読み取って今ならいけると思われたことに腹が立つ。
絶対断ってやる。
そう思ったけれど、緊張して口がまた勝手に話し始めた。
「もうちょっと、ちゃんとした場所でして下さい」
私の心の中では「ちゃんとした場所ってどこ?!」と言うセルフツッコミを声が枯れそうなくらい叫んでいた。
丸山さんはわざとらしく頭を抱えた。
「ちゃんとした場所ってどこですか、先生教えて下さい。教科書の何ページに載ってますか?」
「そんなこと自分で考えて下さい。ほら新幹線来ましたよ。明日6時に羽田で北海道ロケなんですよね。早く行かないと」
丸山さんは不服そうに「じゃあちゃんとした場所考えてきます、先生さようなら、皆さんさようなら」と言って改札に切符を通すとホームへと続くエスカレーターを登っていった。
彼の姿が見えなくなって十秒後、私は声を抑えながら叫んだ。
「ちゃんとした場所って、どこ?!!」
丸山さんは半袖Tシャツとジーンズという格好だったから「半袖だったら寒いですね」と声をかけた。
「流石に寒いよ。もっと冬は寒いんだろ?」
「寒いですよ、晴れてる日が多いし雪もあんまり積もらないけれど、そこら辺のスキー場より寒いです」
「俺じゃあ厚手のコート買うよ」と丸山さんが空を見上げながら言うので「そうした方がいいかも」と私も相槌を打った。
言った直後に自分が言った言葉の重みに気がつく、これは完全に付き合うっていう流れなんだよね。
駅の改札口まで繋がる階段を二人で登っている時に彼がおもむろに口を開いた。
「祐一くんだっけ?俺先生と丸ちゃんが付き合ってるなんて誰にも言いませんって言ってたよな?」
彼は一番触れてほしくない所に触れてくる。何食わぬ顔で「そうですね」と答えると、「俺てっきり付き合ってませんって言われると思ってたからびっくりした」と何か言いたげに言ってきた。
私は笑って誤魔化した。
彼は人の心を読む天才だ、だから何も言わなくても私のこの気持ちを察してくれてると思う。
丸山さんがふと階段を登る足を止めた。
私も足を止めて丸山さんを見ると、彼が「亜紀ちゃん、キスしようか?」と言った。
私の心を読み取って今ならいけると思われたことに腹が立つ。
絶対断ってやる。
そう思ったけれど、緊張して口がまた勝手に話し始めた。
「もうちょっと、ちゃんとした場所でして下さい」
私の心の中では「ちゃんとした場所ってどこ?!」と言うセルフツッコミを声が枯れそうなくらい叫んでいた。
丸山さんはわざとらしく頭を抱えた。
「ちゃんとした場所ってどこですか、先生教えて下さい。教科書の何ページに載ってますか?」
「そんなこと自分で考えて下さい。ほら新幹線来ましたよ。明日6時に羽田で北海道ロケなんですよね。早く行かないと」
丸山さんは不服そうに「じゃあちゃんとした場所考えてきます、先生さようなら、皆さんさようなら」と言って改札に切符を通すとホームへと続くエスカレーターを登っていった。
彼の姿が見えなくなって十秒後、私は声を抑えながら叫んだ。
「ちゃんとした場所って、どこ?!!」