第256話 深夜の訪問者
文字数 1,303文字
彼は急に口をつぐんだ。けれど私の口はもう誰にも止められない。
「私だって言いたい事があるから、今日お母さんに私は美咲さんとそっくりだって言われた」
彼の表情が一瞬にして変わったのがわかった。
「そんな事言ったんだ……似てないよ」
彼は大きな溜息と共につぶやいた。何なのそのため息とその表情、やっぱりそうじゃん。
「美咲さんって幼馴染で結婚しようとしてた人なんだよね?凄くいいお家のお嬢さんで25歳の時に違う人と結婚して外国に行ったって人」
彼は悲しそうな顔をして何にも言わなかった。
「私それ聞いた時にショックとかよりも先に「やっぱりか」って納得しちゃった。だって普通に考えてこんなドラマみたいなこと起こることないもん。私ってやっぱり誰かの代替品だったんだなって」
「そんな訳ねぇだろ!」
彼が声を荒げるのを初めて聞いた。
でも私の口は止められない。
「じゃあもし美咲さんが今海外から戻ってきたらどうするの?私のこと放り出すんでしょ?」
彼は何も言わなかった、言えなかったんだろう。
「お願いだから正直に全部話してよ」
彼はゆっくり目を閉じるとやっぱり何も言わなかった。
涙が出て頬を濡らす、声が震える。
「先週あんな事しなきゃ良かった、そしたらまだここまでショック受けずに引き返せたのに」
彼を見るのが辛かった、ついていないテレビを見ながら私の口は暴走を始める。
「あーまんまと甘い言葉信じちゃってさ私って馬鹿なんだよ、本当に付き合うんじゃなかった」
自分で言っておいて余計に涙が頬を伝った。彼を傷つけているという自覚はある。けれど止められない。
「元相方さんが得意気に言ってた、美咲さんと関係持ったことあるって、あの人貧乏そうな私にお金投げつけるしさ、何であんな女の人のこと好きだったの?」
自分でもかなり酷いとわかっている、誰もその人の思い出にケチなんてつける資格はない。それなのに
「そんな事されても許してその人のこと好きだったんでしょ?私はこれだけ束縛する癖にさ、私が浮気したら絶対に許せないんでしょ?酷いよ本当に」
遠くに救急車のサイレンが聞こえて段々と近づいてきた。
「……ちょっとシャワー浴びてくる。絶対部屋から出ないで、もう電車もないし危ないから」
彼はそれだけ言い残し部屋を出て行った。
部屋に一人残された私は無性に東京の夜景が見たくなりベランダへ出た。遠くにさっきの救急車の音が聞こえる、
精神年齢54歳の私は今言ったことを後悔していた。美咲さんと似ているかどうかは定かではないし、少なくとも今は彼が私のことを愛してくれていることは紛れもない事実だ。
一番最悪なのは彼の昔の彼女を罵倒したことだ。あんなこと言われたら気分を害するだろう、人の大切な思い出にケチつけるなんて最低だ。
確かに彼がまだ美咲さんの事を引きずっているのも事実かとしれない、どうして白か黒をはっきりさせたがったんだろう。世の中は白か黒で分けられることの方が少ないのに。
どうしてこんな幼稚な事を言って彼を困らせたんだろう。
精神年齢54歳じゃないと彼と付き合っていけないのに。
東京のビル風が私の髪を揺らす。ビルの間を駆け抜けていく車のライトをあてもなくただずっと、眺めていた。
「私だって言いたい事があるから、今日お母さんに私は美咲さんとそっくりだって言われた」
彼の表情が一瞬にして変わったのがわかった。
「そんな事言ったんだ……似てないよ」
彼は大きな溜息と共につぶやいた。何なのそのため息とその表情、やっぱりそうじゃん。
「美咲さんって幼馴染で結婚しようとしてた人なんだよね?凄くいいお家のお嬢さんで25歳の時に違う人と結婚して外国に行ったって人」
彼は悲しそうな顔をして何にも言わなかった。
「私それ聞いた時にショックとかよりも先に「やっぱりか」って納得しちゃった。だって普通に考えてこんなドラマみたいなこと起こることないもん。私ってやっぱり誰かの代替品だったんだなって」
「そんな訳ねぇだろ!」
彼が声を荒げるのを初めて聞いた。
でも私の口は止められない。
「じゃあもし美咲さんが今海外から戻ってきたらどうするの?私のこと放り出すんでしょ?」
彼は何も言わなかった、言えなかったんだろう。
「お願いだから正直に全部話してよ」
彼はゆっくり目を閉じるとやっぱり何も言わなかった。
涙が出て頬を濡らす、声が震える。
「先週あんな事しなきゃ良かった、そしたらまだここまでショック受けずに引き返せたのに」
彼を見るのが辛かった、ついていないテレビを見ながら私の口は暴走を始める。
「あーまんまと甘い言葉信じちゃってさ私って馬鹿なんだよ、本当に付き合うんじゃなかった」
自分で言っておいて余計に涙が頬を伝った。彼を傷つけているという自覚はある。けれど止められない。
「元相方さんが得意気に言ってた、美咲さんと関係持ったことあるって、あの人貧乏そうな私にお金投げつけるしさ、何であんな女の人のこと好きだったの?」
自分でもかなり酷いとわかっている、誰もその人の思い出にケチなんてつける資格はない。それなのに
「そんな事されても許してその人のこと好きだったんでしょ?私はこれだけ束縛する癖にさ、私が浮気したら絶対に許せないんでしょ?酷いよ本当に」
遠くに救急車のサイレンが聞こえて段々と近づいてきた。
「……ちょっとシャワー浴びてくる。絶対部屋から出ないで、もう電車もないし危ないから」
彼はそれだけ言い残し部屋を出て行った。
部屋に一人残された私は無性に東京の夜景が見たくなりベランダへ出た。遠くにさっきの救急車の音が聞こえる、
精神年齢54歳の私は今言ったことを後悔していた。美咲さんと似ているかどうかは定かではないし、少なくとも今は彼が私のことを愛してくれていることは紛れもない事実だ。
一番最悪なのは彼の昔の彼女を罵倒したことだ。あんなこと言われたら気分を害するだろう、人の大切な思い出にケチつけるなんて最低だ。
確かに彼がまだ美咲さんの事を引きずっているのも事実かとしれない、どうして白か黒をはっきりさせたがったんだろう。世の中は白か黒で分けられることの方が少ないのに。
どうしてこんな幼稚な事を言って彼を困らせたんだろう。
精神年齢54歳じゃないと彼と付き合っていけないのに。
東京のビル風が私の髪を揺らす。ビルの間を駆け抜けていく車のライトをあてもなくただずっと、眺めていた。