第69話 武道館の後で
文字数 2,704文字
土曜日の朝、せっかくの休みなのに何故だか早く目が覚め、損した気分でテレビをつけた。
さぁ、続いてのニュースです。ネットで怪我についてざわつかれていたラビッツの丸山さんに急展開です。関係者の方がお話してくれました」
画面に釘付けになった。
画面にはモザイクがかかっているが祐一君のご両親が映しだされた。
「最近、丸山さんが怪我のことであることないこと言われてるのできちっとご説明しようと思いました。
私どもには娘がいるんですが、ダムの駐車場で変な男に連れ込まれた所をたまたまそこにいらっしゃった丸山さんに助けて貰ったんです。
丸山さんのおかげで娘は無事だったし、心の底から感謝しています。だから丸山さんについて変な噂を立てるのをやめていただきたい。恩人ですから」
そして画面は切り替わりスタジオに映った。
キャスターが「真相はこういうことだったんですね」というと横にいたご意見番のような人が「自分が泥を被ってでも相手を思いやる、あっぱれ」と言った
「昨日の晩、丸山さんにご本人にもインタビューができました」
丸山さんがどこかの建物の裏口みたいな所から出てくると、沢山集まった報道陣に一斉に囲まれた。
「何?何?俺なんかした?」と少し慌てている。
「ダムで女の子を助けたそうですが?それについてコメントをいただきたくて」
「何それ、誰からきいたの?」
「今日被害に遭われた女の子のご両親がインタビューに答えていただいて、丸山さんに感謝してると」
「あぁ、ご両親、いえどう致しまして」
それだけ言うとその場を去ろうとしたがマスコミがそれを許さない。「一人で二人の相手をkoしたそうですが」
「それ逆。俺がkoされたの、かっこよく助けにいったまではいいけど、俺温室育ちだから喧嘩なんかしたことないから、逆にボコボコにされてちょうど警察が間に合って助かったっていう話です。だからそんなかっこいい話じゃない」
「何故その長野県と群馬県の県境のダムの駐車場にいたんですか?」
「えっ、何故って……俺ダムが好きなんです。だからあの村に一度ロケで行ったことがあって、ダムがあるって聞いたから休みの日に観に行ってたんです。ダムは最高ですよ!それでは失礼します」
そう言うと丸山さんは報道陣を華麗にすり抜けどこかに行ってしまった。
そしてニュースはすぐに他の俳優さんが結婚した映像に切り替わってしまった。
私は「ダムの魅力に気づいたんですか?」とメールをしてまた二度寝した。
夜ご飯を食べてお風呂に入ろうとする八時前、丸山さんから電話がかかってきた。
「もしもしダムの魅力について教えて下さい」「えーっとダムの魅力は…本当は僕の彼女が小学校で働いていてその下見について来ました。イェーイって叫ぼうかと思ったんだけどアキちゃん嫌がるかなと思ってさ」
「あー確かに絶対嫌です」そう言って笑った。
「しかもお陰様でさっきテレビ教育のダム紹介単発番組やるからって、そのmcの話が合った」
「それどうするんですか?」「どうするかって、勿論受けるよ。テレビ教育なんてお堅い所に出られないと思ってたし、コンビで出られるから相方もすげぇ喜んじゃって」
「でもダム好きじゃないこと絶対バレちゃいますよ」「えっ、俺ダム昔から好きだったから、生粋のダム芸人」
「もう、ちゃんと勉強して下さいね」そう言うと彼は何故だか嬉しそうに笑った。
「わかってるよ、じゃあ今から収録だから」「はい、頑張って下さい」そう言って電話を切った。
災い転じて福となす、福となったのかどうからわからないけど、まぁ良かった。
道徳の教科書みたいだけれど、やっぱり神様がいい行いを見ててくれたのだ。道徳の授業なら良い行いを常日頃からするようにしましょうとまとめる所だ。
しかもまた明日東京に行くって言いそびれた。ははは、もう仕方ないか。
そう思いチーズご飯を食べようとすると、健から電話がかかってきた。
「もしもし健、どうしたの?」
「丸山さんのダムの件、亜紀も絡んでるんだろ?」
「ニュース見た?そう、うちの村のダム。本当丸山さんに申し訳ないことしちゃった。でも丸山さんが助けなかったらあの子酷い目にあってたし、あーもうとにかく良かったって感じ」
「女の子に何もなくて良かった、というか俺があれだけ反対したのに、結局丸山さんと付き合ってるんだろ?」そう健は笑った。
「誰から聞いたの?私たかちゃん以外に話してないんだけど、会ったの?」
「去年みたいに歌舞伎町のど真ん中で、ド派手なたかちゃん御一行様に会ってないから」そう言って健は笑った。
「たかちゃんの友達、私服もメイクも派手だから目立っちゃうよね」と私も笑った。「じゃあ誰から聞いたの?」
「丸山さんがラジオで言ってたの聞いたんだよ。今小学校の先生と付き合ってるって言ってたし」
「あーそういえば関東ローカルでラジオやってるって言ってた」
「だから俺本当良かったって思ってさ」
「どうしたの?前は反対してたのに」
「前はどうせ遊んですぐに捨てるんだろ?って思ってたんだけど、ラジオで北澤さんが「だから女遊び止めろ」って言ったら丸山さんが「遊びじゃなくて俺は本気で付き合ってる」って言ってたんだ」
「そんな事言ってたんだ」
何故だかほっとした。いい加減に付き合ってはいないだろうなと思っていたけれど、本人の口から聞いたことがなかったからだ。
「だから俺は一瞬でも本気で付き合ってるんだから、じゃあいいやって思った」
「まぁね、一瞬かもしれないけれど、色んなこと覚悟の上だから」
「どれぐらい持つんだろな」
「私もわかんないよ」
そう言って二人で笑った。
「あっそういえば明日東京行くんだけど、ご飯一緒に食べる?」
「だから、もっと前もって言ってよ、明日女の子と約束があるんだよ、またライブ?」
「ごめんついつい言うの忘れるんだよ。今回は武道館。半年付き合い続いたら紹介して」
「わかった、紹介できるよう頑張る。あっ今度舞台に出られることになったから、時間あったらまた観に来て。小さい舞台のちょい役だけど」
「行くよ、勿論行く。智と美子ちゃんと行くから」
健と電話を切った後に丸山さんのことを考えた。
一瞬かもしれないけれど、もうここまで来たらあの人の気が変わるまで付き合うしかないじゃん。
二週間弱前にあんなに弱気だったのに、気づけばわ何故だか私は肝っ玉が座っていた。
開き直った人間は強い。
さぁ、続いてのニュースです。ネットで怪我についてざわつかれていたラビッツの丸山さんに急展開です。関係者の方がお話してくれました」
画面に釘付けになった。
画面にはモザイクがかかっているが祐一君のご両親が映しだされた。
「最近、丸山さんが怪我のことであることないこと言われてるのできちっとご説明しようと思いました。
私どもには娘がいるんですが、ダムの駐車場で変な男に連れ込まれた所をたまたまそこにいらっしゃった丸山さんに助けて貰ったんです。
丸山さんのおかげで娘は無事だったし、心の底から感謝しています。だから丸山さんについて変な噂を立てるのをやめていただきたい。恩人ですから」
そして画面は切り替わりスタジオに映った。
キャスターが「真相はこういうことだったんですね」というと横にいたご意見番のような人が「自分が泥を被ってでも相手を思いやる、あっぱれ」と言った
「昨日の晩、丸山さんにご本人にもインタビューができました」
丸山さんがどこかの建物の裏口みたいな所から出てくると、沢山集まった報道陣に一斉に囲まれた。
「何?何?俺なんかした?」と少し慌てている。
「ダムで女の子を助けたそうですが?それについてコメントをいただきたくて」
「何それ、誰からきいたの?」
「今日被害に遭われた女の子のご両親がインタビューに答えていただいて、丸山さんに感謝してると」
「あぁ、ご両親、いえどう致しまして」
それだけ言うとその場を去ろうとしたがマスコミがそれを許さない。「一人で二人の相手をkoしたそうですが」
「それ逆。俺がkoされたの、かっこよく助けにいったまではいいけど、俺温室育ちだから喧嘩なんかしたことないから、逆にボコボコにされてちょうど警察が間に合って助かったっていう話です。だからそんなかっこいい話じゃない」
「何故その長野県と群馬県の県境のダムの駐車場にいたんですか?」
「えっ、何故って……俺ダムが好きなんです。だからあの村に一度ロケで行ったことがあって、ダムがあるって聞いたから休みの日に観に行ってたんです。ダムは最高ですよ!それでは失礼します」
そう言うと丸山さんは報道陣を華麗にすり抜けどこかに行ってしまった。
そしてニュースはすぐに他の俳優さんが結婚した映像に切り替わってしまった。
私は「ダムの魅力に気づいたんですか?」とメールをしてまた二度寝した。
夜ご飯を食べてお風呂に入ろうとする八時前、丸山さんから電話がかかってきた。
「もしもしダムの魅力について教えて下さい」「えーっとダムの魅力は…本当は僕の彼女が小学校で働いていてその下見について来ました。イェーイって叫ぼうかと思ったんだけどアキちゃん嫌がるかなと思ってさ」
「あー確かに絶対嫌です」そう言って笑った。
「しかもお陰様でさっきテレビ教育のダム紹介単発番組やるからって、そのmcの話が合った」
「それどうするんですか?」「どうするかって、勿論受けるよ。テレビ教育なんてお堅い所に出られないと思ってたし、コンビで出られるから相方もすげぇ喜んじゃって」
「でもダム好きじゃないこと絶対バレちゃいますよ」「えっ、俺ダム昔から好きだったから、生粋のダム芸人」
「もう、ちゃんと勉強して下さいね」そう言うと彼は何故だか嬉しそうに笑った。
「わかってるよ、じゃあ今から収録だから」「はい、頑張って下さい」そう言って電話を切った。
災い転じて福となす、福となったのかどうからわからないけど、まぁ良かった。
道徳の教科書みたいだけれど、やっぱり神様がいい行いを見ててくれたのだ。道徳の授業なら良い行いを常日頃からするようにしましょうとまとめる所だ。
しかもまた明日東京に行くって言いそびれた。ははは、もう仕方ないか。
そう思いチーズご飯を食べようとすると、健から電話がかかってきた。
「もしもし健、どうしたの?」
「丸山さんのダムの件、亜紀も絡んでるんだろ?」
「ニュース見た?そう、うちの村のダム。本当丸山さんに申し訳ないことしちゃった。でも丸山さんが助けなかったらあの子酷い目にあってたし、あーもうとにかく良かったって感じ」
「女の子に何もなくて良かった、というか俺があれだけ反対したのに、結局丸山さんと付き合ってるんだろ?」そう健は笑った。
「誰から聞いたの?私たかちゃん以外に話してないんだけど、会ったの?」
「去年みたいに歌舞伎町のど真ん中で、ド派手なたかちゃん御一行様に会ってないから」そう言って健は笑った。
「たかちゃんの友達、私服もメイクも派手だから目立っちゃうよね」と私も笑った。「じゃあ誰から聞いたの?」
「丸山さんがラジオで言ってたの聞いたんだよ。今小学校の先生と付き合ってるって言ってたし」
「あーそういえば関東ローカルでラジオやってるって言ってた」
「だから俺本当良かったって思ってさ」
「どうしたの?前は反対してたのに」
「前はどうせ遊んですぐに捨てるんだろ?って思ってたんだけど、ラジオで北澤さんが「だから女遊び止めろ」って言ったら丸山さんが「遊びじゃなくて俺は本気で付き合ってる」って言ってたんだ」
「そんな事言ってたんだ」
何故だかほっとした。いい加減に付き合ってはいないだろうなと思っていたけれど、本人の口から聞いたことがなかったからだ。
「だから俺は一瞬でも本気で付き合ってるんだから、じゃあいいやって思った」
「まぁね、一瞬かもしれないけれど、色んなこと覚悟の上だから」
「どれぐらい持つんだろな」
「私もわかんないよ」
そう言って二人で笑った。
「あっそういえば明日東京行くんだけど、ご飯一緒に食べる?」
「だから、もっと前もって言ってよ、明日女の子と約束があるんだよ、またライブ?」
「ごめんついつい言うの忘れるんだよ。今回は武道館。半年付き合い続いたら紹介して」
「わかった、紹介できるよう頑張る。あっ今度舞台に出られることになったから、時間あったらまた観に来て。小さい舞台のちょい役だけど」
「行くよ、勿論行く。智と美子ちゃんと行くから」
健と電話を切った後に丸山さんのことを考えた。
一瞬かもしれないけれど、もうここまで来たらあの人の気が変わるまで付き合うしかないじゃん。
二週間弱前にあんなに弱気だったのに、気づけばわ何故だか私は肝っ玉が座っていた。
開き直った人間は強い。