第211話 再会は突然に

文字数 1,265文字

その日はあまり仕事がなかったこともあり午後五時きっかりに家まで帰った。家のドアを閉めると靴を脱ぎ鞄を所定の位置に置く。

スマホを取り出し例のアプリをダウンロードした。

さっきと同じ様に検索すると沢山の男性の写真がずらーっと出てくる。ドキドキしながら写真を一つずつチェックした。大人数アイドルグループを見る感じで「この人まぁまぁかっこいい」「この人スポーツ得意そう」「この人自分のお母さんだけに優しそう」「この人農作業得意そう」「この人趣味賭け麻雀っぽい」と独り言を言って笑っていた。

でもわざわざメールのやり取りして会いに行こうなんて到底思えない。色々な条件を変えて探したけれど、やっぱり見つからない。

というかこの神経質な私がアプリで出会った人に会いに行ける訳ない。

大人の恋愛という言葉が私に重くのしかかってくる。こういう時に好みのタイプの人を見つけて気軽に会って行く自分に変われたら人生が変わるのだろうか。


その時だった画面が急に着信中に切り替わった。しげちゃんからだったので慌てて電話に出た。

「亜紀聞いてよ、俺CDデビューが決まっちゃった」
「えっ、どういうこと?」
「企画だよ企画。俺と北澤とベクトルとピーナッツでCDデビュー、ジジイ六人で6gsだってさ。ランキング10位以内に入らないと即解散」

今出てきた芸人さんはみんな40代ぐらいのおじさんだ。

「それ採算取れるの?」
「いきなり豪速球投げて来るな、まぁ売れなくても損するの俺らじゃないからいいんじゃない?凄いだろ?」
「……なんか平成臭が強い企画」
「テレビのメイン視聴者は中高年だからそれでいいんだよ。おまけにCD価格4980円だからな」
「何それ、高すぎ」「CD買うのも中高年だからいいんだよ、1万枚限定生産で直筆サイン入りトートバックと直筆サイン入りDVDと直筆サイン入り写真集付き」
「じゃあ1万枚サインするの?」「そうだよ、誰か大学生にやらせればいいのに今うるさいから」

「じゃあ私も一枚買います」
「北澤の家族も責任とって一枚買うらしいから最低二枚は売れるな。あーあとは事務所で100枚は引き取って、ピーナッツとベクトルの事務所でも100枚、俺達6人のガチファンなんて3000人いないだろうし、残りどうすんだろうな」

「売れるといいね」「売れねえだろうな、あっちょっともう行くわ。じゃあね」

電話を切った後、酷く後悔に襲われた。私は人から潔癖症と言われる、色んな面で。だからかわからないけれどこんなアプリで他の男の人を検索なんかして最低だという自己嫌悪に襲われていた。

私はどうしたらいいのだろうか。


するとまた私のスマホが鳴った。メールが届いた様だ。美香先生からだった。
「ブラジリアンワックスした方がいいですよ」と書いてあって末尾にハートの絵文字が添えられていた。

ブラジリアンワックス?聴き慣れない言葉に検索するとvゾーンiゾーンoゾーンなどのデリケートゾーンのお手入れにというページが出てきた。

それを詳しく読んでしまい後悔している。

お店まで行ってそんな脱毛したくない。

もう何もかもイヤだ。
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