第278話 追撃される

文字数 1,250文字

さも見て下さいとばかりに私の前に置かれた封筒を見つめた。

「一体何があったの?」
彼が気まずそうに私から目を逸らした。
「ちょっと写真週刊誌にとられちゃって」

「えっどういうこと?まだ夜のお店行ってたの?」
「違う、違うそうじゃなくて……とにかく見て」
団蔵さんもポテトサラダさんも私から目を逸らし黙り込んでいる。

何があったんだ、闇営業?金銭トラブル?女?心配し過ぎて手が震える。

おそるおそる封筒の中身を取り出した。

中身を手に取ると「ひぃ」という声が思わず出た。


1ページ全てを占めて大きな写真がデカデカとのっていた。どんな写真かというと私の住んでいるアパートの前で二人でキスしている写真だった。

おまけに私は一般人なのに目線しか入っていない。

その写真の横には「佐久平駅近くの彼女のアパートから朝帰りし、帽子を忘れた丸山に届けに来た所を熱いキス」とわざわざ文章が添えられている。

これは確か風俗通いを週刊誌にとられ、謝りに来た時のものだろう。

その下の方には、伊豆に行って帰ってきた時の電車の写真がこじんまりと載っていた。恐ろしいことにそれは私が彼を抱きしめている写真だった。

「何でよりにもよってこの瞬間」血の気が引いた。「落ち込むのはまだ早い、文章読んで」

彼にそう言われ最下部に載っている文章を読んだ。

「所属事務所に取材した所、現場マネージャーがインタビューに応じた。丸山が交際しているのは事実です。九月にロケで群馬だか長野だかわからない群馬の小学校の登山に着いていったんですけれど、その時の先生です。

行くまでは「何で俺が」「もっと若手にやらせろ」って非難轟々だったのに、実際登ってる最中は珍しくニコニコしてて何か今日凄く楽しそうだなって他のスタッフさんと噂してました。

別れ際に子供達と一緒に撮った写真欲しいのでここに送って下さいってナンパの初歩的な手口やってましたよ、子供嫌いなのに(笑)

付き合いだしてからは、仕事土日休みにしろとか北陸新幹線経路の仕事入れろとか無茶苦茶なことばっかり言ってきて困ってますね。要望は全て聞き入れませんけど。

事務所としては五年前みたいな女絡みの問題二度と起こして欲しくないし、付き合ってる方が学校の先生ですごいちゃんとされてる方だし、あと本人が色々煩いので早く結婚してほしいですよ」

と赤裸々に話す現場マネージャー、とにかく結婚しない男丸山、彼の結婚はあるのか」

全てを読み終えると無言で記事を机の上に置き、肘をついて俯いた。

彼も団蔵さんもポテトサラダさんも何も言わなかった。

「……記者さんはわざわざあなたを追いかけに東京から着いて来たの?」

「木村君の噂だいぶ前からあったから、仲良かった俺のことも追ってたんだろうな。恐らく数ヶ月追って、手間かけて撮れた写真がこの二枚っていう。
そしてなんの話題もない今週、紙面の穴埋めで出てきた。

ほら俺が夜の店行ってない証明になっただろ?あったら絶対出してくるし」

「そういえば来週の金曜日、ロケで学校来るんだったな」と思い出しぼんやりと彼の顔を眺めていた。
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