第336話 四月の風
文字数 1,990文字
新入職員歓迎会の二次会で気分良く酔っていた。
一次会の立派な会場とは違って個人がやっている居酒屋のラフ目な座敷だということも酔いすぎている原因だったと思う。
隣に塚田くんがいて「酔いすぎじゃないの?」と心配して水をくれた。
五年生を担任している島田先生が調子良く聞いて来た。
「山浦先生は彼氏いないんですか?」
そんなこと私に聞く?と苛ついたけれど、島田先生は同じ大学、同じ社会科コースの二年後輩で私のことを覚えているらしい。
私は全く覚えていないけれど。
サークルの先輩でもある塚田君曰く、坂本君的なお調子者で最近二人目が生まれたそうだ。
「いない、最近別れた」
塚田くんが「本当に別れたんだ」と私を見た。
酔いが回りついつい余計なことを口走る。
「昔付き合ってた忘れられない女とより戻されたの!結婚したかったのに」
周りが気を遣って静まり返ってしまった。
すると島田先生が「あー俺結婚してなかったら、山浦先生の彼氏に立候補してました」と叫ぶので「そんな結婚式の二次会でかわいくない子が「彼氏募集中です」って言った時みたいなフォローは要らない」と言うとその場にいるみんなが笑った。
久しぶりのお酒で酔いが回りやすい。
「だから夏休みになったら婚活して適当な誰かと必ず結婚する。絶対子ども欲しいし!」
酔っ払ってそうクダを巻くとみんなが笑った。
今年大学を卒業したばかりのさくら先生の彼氏の写真を見せて貰い「彼氏か、いいなぁ。大学時代って半同棲生活したり、デートしたり楽しそう」を連呼していた。
隣に塚田くんがいることを酔いですっかり忘れ「いいなぁ、大学時代に彼氏欲しかったな。二人で夜景とか見に行きたかった」と呟いた。
さくら先生が私に気を遣う。
「山浦先生、学生時代モテたでしょ?大学時代何してたんですか?」
「何にもしてないよ、親が早くに亡くなったからさ、バイトバイト、弟達の世話、そしてずっとバイト」
何故だか若い人達に同情される。
言わなきゃ良かったかな。
さくら先生もかなり酔っ払っている。
「じゃあ好きな人も作らなかったんですか?」
私もかなり酔っ払っておかしくなっていた。
「好きな人?……そういえばいた!凄く好きな人がいた!」
「その人と付き合ったりしてないんですか?」
「付き合ってないよ」
「その人は今何してるんですか?」
私は今相当かなりスーパー酔っている。
「その人は……今……隣にいる」
そう塚田くんを指差してアハハと笑った。
塚田くんは「山浦さん、酔いすぎだよ」と苦笑いしながら私に水を差し出した。
若い人達が騒ぎ出す。
「大学の同級生だって聞いてたけれど、運命の再会ですね」
流石にまずいことを言ってしまったと気がついた。
「いや、本当に今はそんなんじゃないんだって、昔から塚田くんカッコよくてフェロモン出しまくって女から死ぬほどモテまくってたの。塚田くんを好きな子は山ほどいたの!私はその中の1人!」
それでも若い人は何やら騒いでいる。
「だから。今は本当にそんなんじゃないの!塚田君はあれだよ、すっごい年下の子と結婚するパターンだよね」
塚田くんは「何言ってんだよ」と呆れていたけれど若い人達は「確かに」と納得してくれた。
私の酔いは止められない。
「だって塚田君今何とか中の若い体育の先生と付き合ってるんでしょ?」
そう言うと何故だか悲鳴が聞こえて若い女の先生が二人、泣きながらどこかに行ってしまった。
「何?私悪いこと言った?」
島田先生が「あの二人、去年からずっと塚田先生のこと好きなんですよ。イケメンもつらいですね」と言った。
今年結婚したばかりという四年生担当の奈美先生が「あの二人かなり露骨だから気をつけて下さい」と小声で言った。
「あーここでも無双してるんだ」と言うと塚田は「俺は全く付き合う気ないのに、あんなことになってる」と困った顔で呟いた。
結局三次会まで行ってベロベロに酔っ払って、足取りもおぼつかないまま、車で来て一つも飲んでいない塚田くんに部屋まで送って貰っている。
二次会で帰った教頭先生もさくら先生も同じマンションに住んでいるらしい。
マンションの外廊下で春の風が強めに吹いた。
「いい風だね」
「丸山さんと別れたの?」
久しぶりに聞いたその名前に動揺した。
「一ヶ月前に別れた」
あんなに気持ち良く酔ってたのに、すーっと酔いが覚めていくのを感じる。
「だったら」
塚田君が何かを言いかけたけれど、酔って感情的になっている私の涙腺が限界だった。
「もうあの人の話はしないで、一ヶ月も経つのにまだ思い出すだけで泣ける。何ヶ月経ったら泣かなくなるかな?」
塚田君は凄く軽くこう言った。
「うーん、二、三ヶ月ぐらいじゃない?」
「何か適当」
そう言って笑うと塚田くんも「適当に言った、ごめん」と笑った。
「でも、そのうち忘れるよ」
塚田くんがまたしても凄く軽く言うので少し気分が楽になった。
「そうだよね、そのうち忘れるかな」
そう私も軽く返して笑った。
一次会の立派な会場とは違って個人がやっている居酒屋のラフ目な座敷だということも酔いすぎている原因だったと思う。
隣に塚田くんがいて「酔いすぎじゃないの?」と心配して水をくれた。
五年生を担任している島田先生が調子良く聞いて来た。
「山浦先生は彼氏いないんですか?」
そんなこと私に聞く?と苛ついたけれど、島田先生は同じ大学、同じ社会科コースの二年後輩で私のことを覚えているらしい。
私は全く覚えていないけれど。
サークルの先輩でもある塚田君曰く、坂本君的なお調子者で最近二人目が生まれたそうだ。
「いない、最近別れた」
塚田くんが「本当に別れたんだ」と私を見た。
酔いが回りついつい余計なことを口走る。
「昔付き合ってた忘れられない女とより戻されたの!結婚したかったのに」
周りが気を遣って静まり返ってしまった。
すると島田先生が「あー俺結婚してなかったら、山浦先生の彼氏に立候補してました」と叫ぶので「そんな結婚式の二次会でかわいくない子が「彼氏募集中です」って言った時みたいなフォローは要らない」と言うとその場にいるみんなが笑った。
久しぶりのお酒で酔いが回りやすい。
「だから夏休みになったら婚活して適当な誰かと必ず結婚する。絶対子ども欲しいし!」
酔っ払ってそうクダを巻くとみんなが笑った。
今年大学を卒業したばかりのさくら先生の彼氏の写真を見せて貰い「彼氏か、いいなぁ。大学時代って半同棲生活したり、デートしたり楽しそう」を連呼していた。
隣に塚田くんがいることを酔いですっかり忘れ「いいなぁ、大学時代に彼氏欲しかったな。二人で夜景とか見に行きたかった」と呟いた。
さくら先生が私に気を遣う。
「山浦先生、学生時代モテたでしょ?大学時代何してたんですか?」
「何にもしてないよ、親が早くに亡くなったからさ、バイトバイト、弟達の世話、そしてずっとバイト」
何故だか若い人達に同情される。
言わなきゃ良かったかな。
さくら先生もかなり酔っ払っている。
「じゃあ好きな人も作らなかったんですか?」
私もかなり酔っ払っておかしくなっていた。
「好きな人?……そういえばいた!凄く好きな人がいた!」
「その人と付き合ったりしてないんですか?」
「付き合ってないよ」
「その人は今何してるんですか?」
私は今相当かなりスーパー酔っている。
「その人は……今……隣にいる」
そう塚田くんを指差してアハハと笑った。
塚田くんは「山浦さん、酔いすぎだよ」と苦笑いしながら私に水を差し出した。
若い人達が騒ぎ出す。
「大学の同級生だって聞いてたけれど、運命の再会ですね」
流石にまずいことを言ってしまったと気がついた。
「いや、本当に今はそんなんじゃないんだって、昔から塚田くんカッコよくてフェロモン出しまくって女から死ぬほどモテまくってたの。塚田くんを好きな子は山ほどいたの!私はその中の1人!」
それでも若い人は何やら騒いでいる。
「だから。今は本当にそんなんじゃないの!塚田君はあれだよ、すっごい年下の子と結婚するパターンだよね」
塚田くんは「何言ってんだよ」と呆れていたけれど若い人達は「確かに」と納得してくれた。
私の酔いは止められない。
「だって塚田君今何とか中の若い体育の先生と付き合ってるんでしょ?」
そう言うと何故だか悲鳴が聞こえて若い女の先生が二人、泣きながらどこかに行ってしまった。
「何?私悪いこと言った?」
島田先生が「あの二人、去年からずっと塚田先生のこと好きなんですよ。イケメンもつらいですね」と言った。
今年結婚したばかりという四年生担当の奈美先生が「あの二人かなり露骨だから気をつけて下さい」と小声で言った。
「あーここでも無双してるんだ」と言うと塚田は「俺は全く付き合う気ないのに、あんなことになってる」と困った顔で呟いた。
結局三次会まで行ってベロベロに酔っ払って、足取りもおぼつかないまま、車で来て一つも飲んでいない塚田くんに部屋まで送って貰っている。
二次会で帰った教頭先生もさくら先生も同じマンションに住んでいるらしい。
マンションの外廊下で春の風が強めに吹いた。
「いい風だね」
「丸山さんと別れたの?」
久しぶりに聞いたその名前に動揺した。
「一ヶ月前に別れた」
あんなに気持ち良く酔ってたのに、すーっと酔いが覚めていくのを感じる。
「だったら」
塚田君が何かを言いかけたけれど、酔って感情的になっている私の涙腺が限界だった。
「もうあの人の話はしないで、一ヶ月も経つのにまだ思い出すだけで泣ける。何ヶ月経ったら泣かなくなるかな?」
塚田君は凄く軽くこう言った。
「うーん、二、三ヶ月ぐらいじゃない?」
「何か適当」
そう言って笑うと塚田くんも「適当に言った、ごめん」と笑った。
「でも、そのうち忘れるよ」
塚田くんがまたしても凄く軽く言うので少し気分が楽になった。
「そうだよね、そのうち忘れるかな」
そう私も軽く返して笑った。