第200話 再会は突然に

文字数 969文字

「姉ちゃん、俺今日なんの話すればいいかな?」と智が大宮駅を過ぎた頃聞いてきたので「何か話題あるでしょ?お料理美味しいですねとか」と答えた。
美子ちゃんは「困った時はいいお天気ですね」って言えばいいからと智に教授している。

今日は夕方に健の実の母親との会食があるのだ。その後美子ちゃんと智は遅めの正月休みを美子ちゃんの実家で過ごすらしい。

待ち合わせ場所の品川駅の改札前に着くと、まだ三日だというのに帰宅ラッシュでサラリーマンが次から次へと駅に吸い込まれていく。

そんな光景を横目に健が退屈そうにスマホを操作していた。健があんな気怠そうな顔をする時は実は凄く緊張している時だ。

智が「健!」と大声で叫ぶと彼は私達に気づいた。
「俺の為に悪いな」と健が言ったので「何言ってんだよ!俺達家族だろ!これぐらいなんて事ないから!」と私を差し置いて智が叫んだ。

それ私のセリフじゃない?

「時間が迫ってるからとにかく品川フランスホテル行きましょう」
美子ちゃんの提案に乗り四人で駅前の交差点を渡った。やたらと外国人が行き来している通路を通り過ぎ、ホテルの前まで歩く。

ふと健がつぶやいた。

「俺の母親は、山浦正子さんだけなんだけどな」
久しぶりにお母さんの名前を聞いて懐かしさがこみ上げてくる。お母さんは何を思って健を育てていたのだろうか。

「何言ってんの別にお母さんは何人いたっていいじゃん。私だって健のお母さんだよ」と言うと健は「そうかな」と自信無さ気に呟いた。
急に健は不安に襲われているようだ、無理もないよ、私も不安だから。

一回だけ会ったというか見たことはあるけれど、健のお母さんはどんな人なのだろう。健のこと心から愛してくれているのだろうか。実の父親みたいに健のこと利用しようとするような人でありませんように。

待ち合わせの十階のレストランに入り、名前を告げると「お連れ様がお待ちですよ」と言われた。早くから来て待っていてくれてるんだ。

店員さんにフジと書かれた小さな個室の前に連れてかれる。

私達四人の間に緊張感が駆け抜けていく。
こういう時にお父さんもお母さんもいてくれたらな。誰か自分を守ってくれる存在がいることがどんなに有難いことか身に染みて実感する。

でも、もういないんだ。仕方ない、もうここは私がこの戸を空けるしかない。

大きく息を吸うと意を決して靴を脱ぎ襖を開けた。
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