第327話 別れの季節

文字数 1,510文字

「あの青い箱のこと?だって勝手に人の物触っちゃいけないし」

「俺アキの家に置いてあるプリント勝手に見てるけど」
「別に見られて困るものは置いてないから」

「俺だってそうだよ、でもさっきから気にして何回もチラチラ見てたの知ってるけどな」

彼はそう言って得意気に笑った。

「じゃあ早く開けてって言ってよ!」

「よしっ折角だから第一回箱の中身は何だろクイズ!!パフッパフッ」

唖然と彼を見つめたけれど、彼は心底楽しそうにふざけ出した。

……ウザい、ウザすぎる。

「さぁ箱の中身を当てた方にはなんと箱の中身を差し上げます。お手つきは二回までですよ、さあ一回目の解答どうぞ」

「……ちょっと待って、これ間違えさせて私に大恥かかそうとしてんでしょ?」

「何か心当たりがありそうな感じですね」
「普通に開けさせてよ!」

「ダメー!さぁ一回目の解答どうぞ」

……ウザい……ウザすぎる。

「あぁもう!お菓子!」

「ブッブー食べ物ではありません!」

「お手つきあと一回までですよ」

「ピアス!」

「ブッブー、さぁ解答チャンスあと一回ですよ」

ウザい、ウザすぎる。

「何でそんなに楽しそうなの?すっごいウザいんだけど」

「うざくてもなんでも結構。だって滅多に見せない困った顔が可愛い」

「メンタル小四じゃん!」
「はい先生、リコーダー忘れたので貸して下さい。舐めまわして返しますので」

「音楽は48歳の音大出た敏雄先生がやってくれてるから!敏雄先生に言ってください」
「うわっ、最悪。一気に気分悪くなった」
「何で敏雄先生のリコーダーじゃ嫌なの?差別でしょ?」

「何でって、嫌なもんは嫌だろ!」
「先生だって人間です、差別されたら悲しい気持ちになります。敏雄先生からリコーダ借りてきて下さい」

「うーあわっ!想像しただろ!折角楽しい気分だったのに」
「楽しいのは自分だけでしょ?ウザくて仕方ないんだけど」

彼は私の猛抗議にもめげない強いハートを持っていた。

「あーあじゃあ続きしようっと、はいじゃあ箱の中身は何でしょうか」

「……まだするの?もういいでしょ?」

「ダメ、一生に一度のこと何だからちゃんと当てて」

一生に一度か、その言葉を信じていいのだろうか。

半ばヤケクソだった。

「……じゃあ指輪」
「どんな指輪ですか?」

そこを答えさせるの?これで結婚指輪といって外れてたら赤っ恥なんだけど……

指輪と言ったら結婚しか思いつかないし、しげちゃんは楽しそうに「早く答えて」と言っている。

もういいや、答えよう、疲れたし

「……結婚指輪」

「はい、ブッブー違いまーす。結婚指輪じゃありません!結婚指輪だと思ってたの?ねぇねぇ結婚指輪だと思ってたの?」

涙が頬をサーっと伝った。

「……もうやめてよ!酷いよ!今までのこと考えたら普通結婚指輪だと思うじゃん。人の気持ち弄んで楽しいの?」

重ちゃんが慌てだしたのがわかった。

「ごめん調子に乗りすぎた。これ見て」
「見ない!もう見たくない!」

彼からそっぽを向き窓越しに外を見ていた。今日は天気が悪い。3月なのに雪がチラチラと舞ってきている。


「じゃあ見なくていいから手出して」

苛つきながらもそっぽを向いたまま右手を差し出した。

「違う、こういうときは左手だろ?」

不貞腐れながら左手を差し出すと指輪をはめられた感覚があった。

自分の左手を見ると、薬指にキラキラ光る綺麗な指輪がはめられていた。

指を顔に近づけてマジマジと指輪を見た。子供のおもちゃのような大きな宝石がついている。でも子供のおもちゃと違ってこの宝石は本物なのだろう。

「亜紀はこういうキラキラした物好きだろ?」
「……これは何指輪なの?」

「婚約指輪、なぁ亜紀、結婚しようよ。一緒に暮らそう」

驚いて重ちゃんを見ると今までで一番の優しい顔をしていた。
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