第250話  深夜の訪問者

文字数 1,019文字

「元気だよ、夏海ともたまに山浦さんはどうしてるかなって話するよ」
「覚えててくれただけで嬉しいです」
義政先生は私が卒業するのと同時に東京の大学に移ってしまい、夏海さんには卒業して以来会えていない。なのに私の話を時々してくれていたことに胸が躍る。何故だか重ちゃんも得意気に会話に参加した。

「亜紀は夏海さんから貰った鞄一回も使わずに大切にクローゼットにしまってあるんだぞ。あげた方の気持ち考えてちゃんと使え」
「使ったら汚れるから」
「あーそういえば山浦さんが卒業する時にあげてたな、そんなに大切にしてくれてたら夏海も喜ぶよ」

彼は私がしていた夏海さんの話をしっかり覚えているようだ。
「生まれ変わったら夏海さんの妹になりたいぐらい好きなんだろ?」
「うん、夏海さん本当に綺麗だし優しいし面白いしもう最高」
彼はニヤリと笑ってこう言った。
「よしっ妹にしてやろうか」

ここでそんなデリケートな冗談飛ばすな!と心の中では巨大ハリセンで彼を叩いた。気が付かないふりをする。

「えーっ、そんなの生まれ変わらないと無理でしょ」
「あぁそう、まぁあれだよな。夏海さんから見たらホラーだよな」
「何で?」
「どうしても夏海さんの妹になりたくて、俺に近づいて来たんだろ?」

彼にそう煽られて今の状況を把握した。
「……止めて!冷静に考えたらそう受け止められてもおかしくないこの状況!っていうか近づいて来たのそっちでしょ?」
「あぁそういえばしつこく東京から通って口説いたの俺だった。でも夏海さんからしたらそんなの関係ないからホラーだよな」
「止めて」
ムンクの叫びばりの表情を見せる私の口調を彼は真似た。
「私夏海さんのこと好きすぎて、どうしても妹になりたかったんだ」
「止めて!ホラーじゃん!あーやめて!背筋ゾクってする!まさか義政先生の弟だったなんてさっきまで思いもしなかったの!先生、ここで私に会ったこと夏海さんに言わないで」

「大丈夫だよ、夏海はそんなこと思わないよ」
先生は穏やかに笑っている。彼が聞かれたくなかったことを突っ込んできた。
「それにしても大学教授の奥さんとそんなに関わりあるもんなの?」

一瞬動きが止まった。
実は大学時代に一週間というか正確には四日ほど大学をさぼりグレたことがあった。お母さんが亡くなり、好きだった人がよりにもよって高校の同級生と付き合い始め、何故かその数ヶ月後の夏休み明け、全てのやる気が無くなってしまったのだ。
今思い出すと恥ずかしすぎる、これ何て説明しよう。
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