第286話 バレンタインデー

文字数 1,180文字

学校に到着するといつもと何ら変わらず子供達が元気に校庭で遊んでいる。

職員室に入ると教頭先生が自分の机に座っている。他の先生達はいない、自分の教室に行ったのだろう。

教頭先生の元に歩み寄ると「個人的な事で面倒ごとを引き起こしてしまって」

教頭先生は私の話を遮った。
「悪いことしたわけじゃないんだから、そんな暗い顔しないで。とにかく今日を何とか乗り切ろう。後でまた今後どうするか校長先生が話そうって」

「はい、ありがとうございます」
泣くのを堪えながら教室へと向かった。

教頭先生、いつも空気読めないと言っていてごめんなさい、ちゃんと読める人だった。


昨日聞いていた予定では三時間目を音楽にして、子供達が音楽室に行った隙に教室にカメラなどの撮影道具を取り付け、その間に私は校長室でディレクターさんと彼と打ち合わせするらしい。

大きなため息をつくと朝のチャイムが鳴り、遊んでいた子どもたちが教室へと帰ってきた。

クラスで一番調子乗りのヒロくんが私の顔を見るなり「先生!昨日ネットに」と叫んだ所を大人っぽい女の子達に「そんなこと言っちゃダメ!」と止められていた。

小4にまでも気を遣われるこの悲しさ。

とにかく教師として何事もなかったかのように朝の会を始めた。一時間目も二時間目もいつも通り過ぎ去っていく、二時間目の社会の時間にふと彼はもう学校に来ているだろうなと思ったけれと、その雑念をすぐに蹴散らした。

二十分休みが終わり、三時間目が始まった。子ども達を廊下に並ばせて音楽室に移動させると予定通りに筆箱とメモ用のノートを持って校長室へ入った。

「失礼します」といって足を踏み入れるとそこには彼とスタッフさん、校長先生、教頭先生、村長、村の口煩くて有名なお年寄りが五人、JAの施設長さんと前村長、婦人会の会長さん、斎藤君までいた。

何だかみんな静まり返っている、不気味だ。

校長先生が「山浦先生、じゃあこちらへ」と言い、彼の目の前の席へ座らされた。

「担任の山浦です、よろしくお願いします」と彼の隣にいるディレクターさんらしきスタッフさんに挨拶をした。
この若そうな男の人見たことがある、登山にも来ていた人だ。 

丸山さんと久しぶりに顔を合わす設定だけれども、彼と一つも挨拶をしないこの不自然さ、周りのみんなも感じ取っているだろう。

教頭先生が司会を始めた。
「じゃあ担任も来ましたので、打ち合わせ始めましょうか。山浦先生とスタッフの方とで意思疎通がとれてればいいと思いますので、村の方々は……まぁ楽にしてお待ち下さい」

教頭先生の様子から察するに、村人は呼ぶ予定がなかったのに打ち合わせにまで押しかけて来たのだろう。

このメンバーから考えると何か騒いでたんだろうな。

とにかくこの重苦しい打ち合わせを一刻も早く終えたい。

ディレクターさんらしき人に話しかけた。「はよろしくお願いします。じゃあ四時間目の途中に」
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