第81話 人間って難しいな
文字数 1,549文字
智は電話の通りに八重洲口の待ち合わせ場所に泣きながら座り込んでいた。行き交う人達は腫物に触れるように智を避けて歩いている。
駆け寄り「智いくよ!」と声をかけてもまだ泣いている。腕を引っ張り、無理やり歩かせ、何とか車の後部座席に乗せた。その間もずっと智は声を上げて泣いている。
「姉ちゃんこれ誰の車?あっ、兄ちゃんだ!やっぱり付き合ってたの?」
智は今までの号泣をすっかり忘れて丸山さんに興味津々になった。智は単純で素直な所がいい所だ、言い換えるならば、色んなことをすぐに忘れてしまうのだ。
すると丸山さんは「そうだ、付き合ってるよ」と答えた。
智がいつもの馬鹿でかい声で「やった!嬉しい、俺は兄ちゃん好きなんだよ!」と叫んだので「静かにしなさい!」と怒るとシュンと静かになった、と思ったら耳をつんざく声でこう叫んだ。
「兄ちゃんと姉ちゃんは今まで二人で何してたの?」
何してたって聞かれると、丸山さんの部屋で……こんな事答えられる訳ないじゃん。我が弟ながらなんてデリカシーのない事を聞くのだろうか。
唖然とする私を見て丸山さんはヒッヒッヒと笑い更に追い討ちをかける。
「何してたって聞かれてもなぁ、付き合ってるんだからさ」
まだ話し足りなそうな丸山さんの話を強引に打ち切らせる為にこう吐き捨てた。
「何しようが智に関係ないでしょ!とにかく今から病院に行くから!」
流石の智も私の正気を疑っている。
「姉ちゃんそれ正気なの?姉ちゃんが一番の被害者なのに平気なの」
「とにかく会ってから考える」
そう言うと智も黙り込んで何かを考えている様子だった。
車は十五分ほど夜の国道を走ると、大きな総合病院の前で止まった。
「多分、ここだと思うんだけどな」と丸山さんがカーナビの地図を見た時、智が車内に響き渡る声で空気を読めないことを言い出した。
「俺父ちゃんの顔思い出せないんだ、あの時8歳だったし」
「智!」
私が軽く嗜めるとしまったという顔をして黙った。25歳になり流石に怒られると空気を読まなければいけないということを覚えた、と思ったのは私の勘違いだった。
「でもさ、父ちゃんはどうして俺達を捨ててまで」
私は慌てて後ろを振り返り「ここで言っていい話と悪い話の区別つけなさい!」と怒鳴った。
智はまたシュンとしたけれど、何分持つのだろうか、また何かの拍子に余計なことを喋りそうだ。
丸山さんに家のしょうもない事情なんてこれ以上知られたくない。
車は夜間でやけに空いている駐車場に入った、丸山さんが車を止めると、智が子供みたいに駄々を捏ね出した。
「姉ちゃん俺やっぱ怖いよ、足が棒みたいになっちゃって動かない。行きたくないよ」
「何言ってんの?そうやっていつもいつも嫌なことや怖いことから逃げようとして!」といつも通り怒ると、智は「姉ちゃん無理だよ、俺歩けないよ、怖いよ」といつも通り子供みたいに声を上げて泣き出した。
思わず丸山さんと顔を見合わせた。困ったことに十分経っても私と智の押し問答が続いていると痺れを切らした丸山さんがこう言った。
「病院って面会時間があるはずだから、しょうがない、俺がおぶっていってやるよ」
「そこまで丸山さんに迷惑かけられないし、この馬鹿、いつもいつも全てのことから逃げようとするから、ちゃんと歩かせないと」と言う私を尻目に本当に智をおぶったまま駐車場から病院の中まで入ってくれた。
智は身長は167センチだけど、ずっしりしてて結構重い、なのに嫌な顔一つせずに智をおぶってくれている。
「兄ちゃんの背中って広くてあったかいな」と智が言うと「気持ち悪いこと言うな」と笑った。
彼はどうしてこんなに優しいのだろう。
駆け寄り「智いくよ!」と声をかけてもまだ泣いている。腕を引っ張り、無理やり歩かせ、何とか車の後部座席に乗せた。その間もずっと智は声を上げて泣いている。
「姉ちゃんこれ誰の車?あっ、兄ちゃんだ!やっぱり付き合ってたの?」
智は今までの号泣をすっかり忘れて丸山さんに興味津々になった。智は単純で素直な所がいい所だ、言い換えるならば、色んなことをすぐに忘れてしまうのだ。
すると丸山さんは「そうだ、付き合ってるよ」と答えた。
智がいつもの馬鹿でかい声で「やった!嬉しい、俺は兄ちゃん好きなんだよ!」と叫んだので「静かにしなさい!」と怒るとシュンと静かになった、と思ったら耳をつんざく声でこう叫んだ。
「兄ちゃんと姉ちゃんは今まで二人で何してたの?」
何してたって聞かれると、丸山さんの部屋で……こんな事答えられる訳ないじゃん。我が弟ながらなんてデリカシーのない事を聞くのだろうか。
唖然とする私を見て丸山さんはヒッヒッヒと笑い更に追い討ちをかける。
「何してたって聞かれてもなぁ、付き合ってるんだからさ」
まだ話し足りなそうな丸山さんの話を強引に打ち切らせる為にこう吐き捨てた。
「何しようが智に関係ないでしょ!とにかく今から病院に行くから!」
流石の智も私の正気を疑っている。
「姉ちゃんそれ正気なの?姉ちゃんが一番の被害者なのに平気なの」
「とにかく会ってから考える」
そう言うと智も黙り込んで何かを考えている様子だった。
車は十五分ほど夜の国道を走ると、大きな総合病院の前で止まった。
「多分、ここだと思うんだけどな」と丸山さんがカーナビの地図を見た時、智が車内に響き渡る声で空気を読めないことを言い出した。
「俺父ちゃんの顔思い出せないんだ、あの時8歳だったし」
「智!」
私が軽く嗜めるとしまったという顔をして黙った。25歳になり流石に怒られると空気を読まなければいけないということを覚えた、と思ったのは私の勘違いだった。
「でもさ、父ちゃんはどうして俺達を捨ててまで」
私は慌てて後ろを振り返り「ここで言っていい話と悪い話の区別つけなさい!」と怒鳴った。
智はまたシュンとしたけれど、何分持つのだろうか、また何かの拍子に余計なことを喋りそうだ。
丸山さんに家のしょうもない事情なんてこれ以上知られたくない。
車は夜間でやけに空いている駐車場に入った、丸山さんが車を止めると、智が子供みたいに駄々を捏ね出した。
「姉ちゃん俺やっぱ怖いよ、足が棒みたいになっちゃって動かない。行きたくないよ」
「何言ってんの?そうやっていつもいつも嫌なことや怖いことから逃げようとして!」といつも通り怒ると、智は「姉ちゃん無理だよ、俺歩けないよ、怖いよ」といつも通り子供みたいに声を上げて泣き出した。
思わず丸山さんと顔を見合わせた。困ったことに十分経っても私と智の押し問答が続いていると痺れを切らした丸山さんがこう言った。
「病院って面会時間があるはずだから、しょうがない、俺がおぶっていってやるよ」
「そこまで丸山さんに迷惑かけられないし、この馬鹿、いつもいつも全てのことから逃げようとするから、ちゃんと歩かせないと」と言う私を尻目に本当に智をおぶったまま駐車場から病院の中まで入ってくれた。
智は身長は167センチだけど、ずっしりしてて結構重い、なのに嫌な顔一つせずに智をおぶってくれている。
「兄ちゃんの背中って広くてあったかいな」と智が言うと「気持ち悪いこと言うな」と笑った。
彼はどうしてこんなに優しいのだろう。