第155話 一時間だけ

文字数 1,330文字

彼は起き上がって床に胡座をかいた。「ちょっと来て」と自分の足の上に私を座らせ後ろから抱きしめた。

「重くない?私163あるけど」
「163キロ?そりゃ重いわけだな」
「この古典的な手法がムカつく」
そう笑うと彼も笑った。

「亜紀、疲れ果てた俺に仕事を頑張れる元気をくれ」
「いいよ、何すれば元気でるの?」
「何もしなくてもいいから、じっとしてて」
さっきよりも強く後ろから抱きしめてきたと思ったら、胸を触ってきた。

「……元気くれってこういうことなの?」
「この座り方しといてそれ以外に何があるんだよ」
彼はそう言って得意気に笑った。何だか現実感なくずっと触られている。嫌ではないんだけど、どうしたらいいんだこれ。

会話に困って口が勝手に喋り始めた。
「なんか変な感じしかしない、気持ち良くない」
何言ってるんだよ!このエロ女!とセルフツッコミを心の中でしたけれど、口から出してしまった言葉は取り消せない。
 
けれども彼は余裕たっぷりに答えた。こういう場面での経験値が私と違いすぎる。
「服の上からだからな。エロい触り方はしてないし。俺クラスになるとエロい気持ちなしに、ただ純粋に柔らかさを楽しめるんだよ」
「もう意味わかんない」

そう笑うと彼は後ろから頬にキスをした。

「落ち着くんだよ、触ってたらほっとする」

何と返事したらいいのかわからず、無言になってしまった。
暫くすると流石に飽きたようで触るのを止めた。
「亜紀、ちょっとこっち向いて」
そう言われたので後ろを向こうとしてもうまく向けなかった。

すると彼が「じゃあちょっと足こっちにやって、はい俺の上に正面から乗って」と彼が言う通りにすると、彼は「あーもう」と大きくため息をついた。

「五秒だけ」と言うと私を抱きしめて胸に顔を埋めた。鈍感力が高い私は「この姿勢ちょっとまずいんじゃない」とようやく思い始めた。

この姿勢、高校の時に読んでたレディースコミックで見た事ある気がする。

そして五秒後「ちょっと降りて」と言われたので、すぐに降りた。


彼は大きく息を吸うと「SEXする以外で男に跨っちゃいけないでしょ?」と強い口調で怒った「だってそうしてって」

「時間考えて、あと十分で駅に行かなきゃいけなでしょ?できないよね」
「だって、しげちゃんが……」
「今のは俺が冗談で言ってるから、それはちょっとって断る場面だろ?」

何も言い返せなかった。自分がとてつもなく馬鹿な事をしたのがわかったからだ。

正直に言うと高校生の時は性に対して凄く興味があった。レディースコミックを読んで友達とキャーキャー言っていた。けれど家があんな事になって勉強して家事して働いてと休む暇もない毎日を数年間送っていると、そんなこと考える余裕がなかった。

弟達が巣立った後も考えてはいけないことのような気がして、敢えて触れてはいかなかった。だから私の知識は高校生の時に読んでいたレディースコミックで尚且つ結構忘れてしまっている。

怒って無言になっている彼に、心の中で謝った。しげちゃんごめんなさい、ちゃんとレディースコミック読んで色々と思い出します。

……あれ、まだ本屋に売ってんのかな。

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