第78話 武道館の後で
文字数 2,140文字
「なんか健の事務所で丸山さんに気を付けろみたいな噂が未だにあるみたいで」
「あーそりゃそうだよな、はい、続きどうぞ」
「最初に本気では付き合えないよって言われて、それでも暫くは毎日マメに連絡くれたりするんだけど、ある日突然連絡が取れなくなって、会いに行くと「すぐ連絡取れなくなるって言ったじゃん」って言われるって」
彼は私の手を離して頭を抱えた。
「あー噂って怖いな、7、8年前のことだけど全部真実だよ、しかも俺同時進行で同じアイドルグループの三人と付き合ってたから」
「えっ?」
「一緒にやってた番組にその五人組グループが出てたんだよね、ある日その中の三人が同時に付き合ってくれって言ってきたから、じゃあ平等にみんなと付き合うからって」
予想以上にとんでもなくて、何にも言えなかった。
「そのせいでグループが不仲になったんだよ。それが木澤さんにバレて、ある日俺の事務所の社長ごと呼び出されてめちゃくちゃ怒られたの、タレントは事務所が一から作った商品なんだよ!って。それ以来この業界の人はどんな売れてない人でも手出すのはやめた」
「木澤さんって木澤のおっちゃんですよね?」
「そうだよ、亜紀ちゃんが親交があるなんて思わなかったよ、でも別に亜紀ちゃんとはいい加減に付き合ってるわけじゃないから、木澤さんに言っても大丈夫」
彼はそう言って不安そうに笑った。
「わざわざ付き合ってるっておっちゃんに言わないから、でもモテるんでしょ?同じ業界の人から連絡先とか貰ったらどうするんですか?」
何故だか彼は得意気に言った。
「俺には断り文句がある」「何?」
「実は…もう女に興味が無くなって…って一言だけ言うと、あっそうなんだちってすぐ諦めてくれる」
彼の綺麗に整った顔をマジマジと見た、確かに、たかちゃんの言う通りそっち界隈でモテそうだ。
「あー確かに」そう頷くと「何が確かにだよ」と彼は笑った。
「北澤がどこからかその噂聞いて俺のこと疑ってるけどな、「同性愛は恥ずかしいことじゃない、堂々とカミングアウトしろ」って言われたこともある」
「北澤さん本当にいい人」「自分で作った落とし穴に嵌るくらい馬鹿だけどな」と彼は笑って私の髪を撫でた。彼は私の目をじっと見つめた
「健は反対してんの?俺と付き合うことに」
「……最初は凄く反対してた、普通の人と付き合って普通に結婚してくれって。でもラジオで丸山さんが本気で付き合ってるって言ってたの聞いたみたいで、一瞬でも本気で付き合ってるならいいやって思ったって昨日言ってた」
「一瞬って何だよ」と苦笑いしながらも髪を撫でている。
何故この人はずっと髪を撫でているのだろう、私の癖毛なんか触り心地良くないのに。不思議に思うけれど聞けない。
彼がまた私を覗き込んだので、そんな疑問はまたどこかに吹っ飛んだ。
「じゃあ亜紀ちゃんはどうしてそこまで俺の悪い噂聞いてたのに付き合おうと思ったの?」
「……うーん、うまく言えないけれど、この人のこと信じようと思ったんだよね。一瞬かもしれないけれど、一緒にいたいなって」
そう言うと彼が悲しそうな顔をしたので目を見て微笑んだ。
「一瞬じゃないから」
彼はそう言ってまた肩を抱き寄せた。心臓に悪いから過度の密着はやめてほしい、そんなこと口に出せないけれど。
テレビでは豆腐チームの川井さんがマネージャーさんから告発を受けて、若い頃の浮気を奥さんに泣きながら謝罪していた。
「悪いことって、やっぱりしちゃいけないんだよ、昔の俺の悪行が、巡り巡ってこうやって最愛の恋人にも一瞬なんて言わせてる」
何て言っていいのかわからず、悲しそうな彼をただ見つめた。
「悪い噂ってなかなか消えないからな、去年オゾンモールのCM北澤やってただろ?」
「あーおばさんの格好してやってた」
「話来た時に事務所がセットでってお願いしたら、主婦層がターゲットだから丸山さんはちょっとって言われたんだぞ、他にも色々NGがあってさ」
「仕方ないですよ、それだけ沢山の人傷つけちゃってるだろうし」
髪を撫でていた彼の動きが一瞬止まった。
「そこはそんなことないよって慰める所だろ、傷口に塩を塗るな」
彼はそう言って笑ったかと思ったら右頬にキスをした。
驚いて頬を手で押さえると
「まぁ本当に仕方ないよな、俺が悪いし」と呟いた。
「自業自得ですけど、今ちゃんとしてるから悪い噂も永遠には続かないですよ」
「自業自得は余計だろ」とまた笑った。
次の瞬間、私の左頬を触ってきたかと思うとまたキスしてきた。
この人やっぱり怖い、女慣れしすぎている。
その時だった私の洋服のポケットでスマホが震えた。誰かから電話がかかってきたようだ。「アキちゃん電話だよ」と言って丸山さんは私から離れた。
スマホを見てみると弟の智からだった。
「やっぱこれでなくてもいいです、智からなんで」
電話を切ったはずなのに、その数秒後またかかってきた。
「何だろ、切った時はかけるなっていってんのに」
「出た方がいいよ、何か急用かもしれないし」
確かに急用だったら困る、渋々電話をとった。
「あーそりゃそうだよな、はい、続きどうぞ」
「最初に本気では付き合えないよって言われて、それでも暫くは毎日マメに連絡くれたりするんだけど、ある日突然連絡が取れなくなって、会いに行くと「すぐ連絡取れなくなるって言ったじゃん」って言われるって」
彼は私の手を離して頭を抱えた。
「あー噂って怖いな、7、8年前のことだけど全部真実だよ、しかも俺同時進行で同じアイドルグループの三人と付き合ってたから」
「えっ?」
「一緒にやってた番組にその五人組グループが出てたんだよね、ある日その中の三人が同時に付き合ってくれって言ってきたから、じゃあ平等にみんなと付き合うからって」
予想以上にとんでもなくて、何にも言えなかった。
「そのせいでグループが不仲になったんだよ。それが木澤さんにバレて、ある日俺の事務所の社長ごと呼び出されてめちゃくちゃ怒られたの、タレントは事務所が一から作った商品なんだよ!って。それ以来この業界の人はどんな売れてない人でも手出すのはやめた」
「木澤さんって木澤のおっちゃんですよね?」
「そうだよ、亜紀ちゃんが親交があるなんて思わなかったよ、でも別に亜紀ちゃんとはいい加減に付き合ってるわけじゃないから、木澤さんに言っても大丈夫」
彼はそう言って不安そうに笑った。
「わざわざ付き合ってるっておっちゃんに言わないから、でもモテるんでしょ?同じ業界の人から連絡先とか貰ったらどうするんですか?」
何故だか彼は得意気に言った。
「俺には断り文句がある」「何?」
「実は…もう女に興味が無くなって…って一言だけ言うと、あっそうなんだちってすぐ諦めてくれる」
彼の綺麗に整った顔をマジマジと見た、確かに、たかちゃんの言う通りそっち界隈でモテそうだ。
「あー確かに」そう頷くと「何が確かにだよ」と彼は笑った。
「北澤がどこからかその噂聞いて俺のこと疑ってるけどな、「同性愛は恥ずかしいことじゃない、堂々とカミングアウトしろ」って言われたこともある」
「北澤さん本当にいい人」「自分で作った落とし穴に嵌るくらい馬鹿だけどな」と彼は笑って私の髪を撫でた。彼は私の目をじっと見つめた
「健は反対してんの?俺と付き合うことに」
「……最初は凄く反対してた、普通の人と付き合って普通に結婚してくれって。でもラジオで丸山さんが本気で付き合ってるって言ってたの聞いたみたいで、一瞬でも本気で付き合ってるならいいやって思ったって昨日言ってた」
「一瞬って何だよ」と苦笑いしながらも髪を撫でている。
何故この人はずっと髪を撫でているのだろう、私の癖毛なんか触り心地良くないのに。不思議に思うけれど聞けない。
彼がまた私を覗き込んだので、そんな疑問はまたどこかに吹っ飛んだ。
「じゃあ亜紀ちゃんはどうしてそこまで俺の悪い噂聞いてたのに付き合おうと思ったの?」
「……うーん、うまく言えないけれど、この人のこと信じようと思ったんだよね。一瞬かもしれないけれど、一緒にいたいなって」
そう言うと彼が悲しそうな顔をしたので目を見て微笑んだ。
「一瞬じゃないから」
彼はそう言ってまた肩を抱き寄せた。心臓に悪いから過度の密着はやめてほしい、そんなこと口に出せないけれど。
テレビでは豆腐チームの川井さんがマネージャーさんから告発を受けて、若い頃の浮気を奥さんに泣きながら謝罪していた。
「悪いことって、やっぱりしちゃいけないんだよ、昔の俺の悪行が、巡り巡ってこうやって最愛の恋人にも一瞬なんて言わせてる」
何て言っていいのかわからず、悲しそうな彼をただ見つめた。
「悪い噂ってなかなか消えないからな、去年オゾンモールのCM北澤やってただろ?」
「あーおばさんの格好してやってた」
「話来た時に事務所がセットでってお願いしたら、主婦層がターゲットだから丸山さんはちょっとって言われたんだぞ、他にも色々NGがあってさ」
「仕方ないですよ、それだけ沢山の人傷つけちゃってるだろうし」
髪を撫でていた彼の動きが一瞬止まった。
「そこはそんなことないよって慰める所だろ、傷口に塩を塗るな」
彼はそう言って笑ったかと思ったら右頬にキスをした。
驚いて頬を手で押さえると
「まぁ本当に仕方ないよな、俺が悪いし」と呟いた。
「自業自得ですけど、今ちゃんとしてるから悪い噂も永遠には続かないですよ」
「自業自得は余計だろ」とまた笑った。
次の瞬間、私の左頬を触ってきたかと思うとまたキスしてきた。
この人やっぱり怖い、女慣れしすぎている。
その時だった私の洋服のポケットでスマホが震えた。誰かから電話がかかってきたようだ。「アキちゃん電話だよ」と言って丸山さんは私から離れた。
スマホを見てみると弟の智からだった。
「やっぱこれでなくてもいいです、智からなんで」
電話を切ったはずなのに、その数秒後またかかってきた。
「何だろ、切った時はかけるなっていってんのに」
「出た方がいいよ、何か急用かもしれないし」
確かに急用だったら困る、渋々電話をとった。