第249話 深夜の訪問者

文字数 1,325文字

元チンピラさんは私の横に座り懐かしそうに当時の記憶を辿っている。
「あー覚えてるよ、亜紀が俺たち見てめちゃくちゃ怯えてた」

「チンピラが金髪でジャラジャラしたのいっぱいつけててやけに親し気に話しかけてくるから怖くて」
「チンピラっていうな、あの頃は目立つことが正義だと思ってたんだよ」
「あの時このチンピラに何されるんだろうってすっごい怖かった」

彼が急に真顔になった。何を言うんだろうと彼を見つめた。
「先週その恐怖のチンピラに全身舐め尽くされてたけど、どんな気持ち?」

「あ#/!あー」
自然と日本語にならない声が出た、そんな事を他人がいる時に言うのはルール違反じゃないのか。

大きく息を吸い直して「何でここでそんな事言うの!」と叫んだ。彼は飄々とこう言った。「冗談だよ、そんなに慌てたら本当の事みたいだね。風俗嬢にキスするのも嫌な神経質な僕がそんなことする訳ないじゃないか」

完全にやられた。先生は私達を見て、何とも言えない気まずそうな顔をしてこの話題をスルーし、当時の話題に切り替えた。

「本当に重明達が来たのは最悪だったな」
「義政先生の家族は極道らしいとか色々言われてましたもんね」
「そうだよ、借金取りが来たとか浮気写真をネタにヤクザに譲られてるとかろくでもない噂立てられて教授会で真偽を聞かれたこともあったな」
原因を作っておきながらも完全に他人事の彼は「何だそれ」と爆笑している。

「重明達のつけてる香水の匂いが二、三日とれなくて学生は俺の部屋の前通るたびにここ臭い臭い言うし散々だったよ」
「覚えてます、あの鼻を潰されそうな香水の香り。よくあんなザチンピラって香水つけてたね」

「チンピラ、チンピラいうな!若い頃は香水臭いのが良かったんだよ!」
「あの頃と比べたら重明は随分まともになったよ」
先生はそう言って笑った。

彼も私も先生もあの女性について明言は避けている。先生の立場からすると私の前でその話はしないだろうし、彼の立場からすると昔付き合ってた女のことは今付き合っている女の前でするべきではないし、私の立場からすると怖くて聞けないのだ。

「ねぇ、あの時バス停教えてあげたの覚えてる?」
「覚えてるよ、お礼言ったらすぐ様走って逃げてって俺そんなに怖いのかってショックだった。あーあの時走って逃げてかなかったら、もっと早く付き合えてたよ」
「誰がチンピラと付き合うの」
二人で目を合わせて笑った。

美咲さんのことを思い出した。結構とんでもない女の人だった、何であんな人と付き合ってたんだと思うけれど、男って同性から見るととんでもない女の人のこと好きだし。この人どMだからああいうタイプがよかったのかもしれない。

そしてあのド派手な服装は良く覚えているが美咲さんの顔が良く思い出せない、私と本当に似ているのだろうか。

私が複雑そうな顔をしているのに気づいた彼が色々なことを誤魔化すようにこう言った。

「なぁ亜紀、あの時に会ってたなんて俺達はやっぱり運命の赤い糸で繋がれてるんだよ」
「実のお兄さんの前でよくそんな事恥ずかしげもなく言えるね」
「事実だからな」

先生は苦笑いしていたので話題を変えた。私が大好きな先生の奥さん、夏海さんの近況を聞きたかったのだ。

「先生、夏海さんお元気ですか?」



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