第54話 ちゃんとした場所
文字数 1,647文字
「今小学校過ぎたから、あと十分ぐらいでダムに着きますよ」と言うと「なんかあっという間だな、俺今日来てわかったことがあるんだよね、聞いてくれる?」
彼が急に深刻な声になったので、胸が少しざわめいた。
「何ですか?」
「俺、車の運転嫌いなんだわ。助手席に乗ってるのが好きだわ」
何を言い出すかと思えば、そんなことを言うので表情が緩んだ。
「弟もそうですよ、神経尖らせて疲れるから、職場からアパートまで地下鉄ひいてくんないかなってよくボヤいてます」
「あいつは眉毛のつながった警官か」
と彼が突っ込んだので「ありましたね、そういう回。独身寮から派出所まで地下鉄通す回」と声を出して笑った。
車は村の中心部を進む、小さなスーパーや本屋さんを通り過ぎた。
「若い時にさ、女とデートだってなった時にドライブ行きたいって言われるの嫌だったんだよね」
「運転嫌いだからですか?」
「それもあるけど、女のクソどうでもいい、間合いもテンポも悪い、面白くもない会話聞いてるの苦痛だったんだよね、今日改めてわかったけど亜紀ちゃんは間合いもテンポも内容も最高だね」
「だから、私それ褒められても一つも嬉しくないですって、しかも私丸山さんのパーマ、ディスってただけでしょ?」
そう言うと彼は「そういう所だよ」と満足そうにヒッヒッヒっと笑った。
「実は私も丸山さんが女の人のクソつまんない会話聞いてるの苦痛っていう所で共感する所あります。おまけにその時に体験したどうしても言いたい話があるんですけど言ってもいいですか?」「はい、どうぞ」
「私三十歳で婚活したことあるって前言ったんですけど、それでドライブいきましょうって言われて、そしたら新潟に着くまでの一時間半ずっとしりとりをエンドレスでやらされたんです。
何話していいのかわかんないのかなって思って、途中で智の馬鹿な話とかして、話題を逸らそうとするんですけど「そんなことより」ってしりとりを強制されるんです。だから水族館に着いて、車を降りて見上げた空の青さを今でも忘れません」
彼はお腹を抱えて笑った。
「それ帰りはどうしたの?」
「水族館の中では普通の人だったのに、帰りもしりとりしようって言ってきたので、全部「る」返しとか「ろ」返ししてコテンパンに負かせたら最後の三十分やっと無言になってくれました」
彼は「酷いな、男のプライドズタボロだな」と言って手を叩いて笑った。
「よしっ、じゃあ、さくだいら」彼がしりとりの勝負を挑んできたので断った。
「丸山さんには絶対負ける気がするから、しりとりしませんからね。勝てる人としかやらないです」
「あぁそう?折角しりとり男の仇をとってやろうと思ったのにな、じゃあ次の面白い男の話どうぞ」
と彼が言うので「後はそんなに面白くないです。婚活してた時にやたらと男の人ってドライブしようって遠くまで行きたがる人多くて、その度に嫌だなって思ってたんですよね」
「それは何で?」
「さっき丸山さんが言ってたことそのまんまなんですけど、会話が何か噛み合わなかったりとか、喋るのが遅くてイライラしたりとか、笑うポイントが違ったりとかそういう些細な事が炙り出されてきて、やっぱりこの人も嫌だ。もう婚活なんかしたくない、でも誰かと結婚しないと子供産めないっていうプレッシャーが襲いかかってくるんです」
私は今この状況に気がつかずに、過去の苦い経験を思い出していた。
「じゃあ俺はドライブデート合格か不合格かどっち?」
ここで初めて気がついた。今この状況ってまさしくそうだよねと。というかこれデートだったんだ。自分は何て配慮が無くて大馬鹿者なんだろう。
「意図的にドライブに来たわけじゃないんですけど……というかそれ何て言われるかわかってて聞いてますよね?」「バレた?」そう彼は悪戯っ子のように笑った。
「もうすぐ着きます。ここを曲がるともう駐車場ですよ」
「早いな」と彼は呟いた。
彼が急に深刻な声になったので、胸が少しざわめいた。
「何ですか?」
「俺、車の運転嫌いなんだわ。助手席に乗ってるのが好きだわ」
何を言い出すかと思えば、そんなことを言うので表情が緩んだ。
「弟もそうですよ、神経尖らせて疲れるから、職場からアパートまで地下鉄ひいてくんないかなってよくボヤいてます」
「あいつは眉毛のつながった警官か」
と彼が突っ込んだので「ありましたね、そういう回。独身寮から派出所まで地下鉄通す回」と声を出して笑った。
車は村の中心部を進む、小さなスーパーや本屋さんを通り過ぎた。
「若い時にさ、女とデートだってなった時にドライブ行きたいって言われるの嫌だったんだよね」
「運転嫌いだからですか?」
「それもあるけど、女のクソどうでもいい、間合いもテンポも悪い、面白くもない会話聞いてるの苦痛だったんだよね、今日改めてわかったけど亜紀ちゃんは間合いもテンポも内容も最高だね」
「だから、私それ褒められても一つも嬉しくないですって、しかも私丸山さんのパーマ、ディスってただけでしょ?」
そう言うと彼は「そういう所だよ」と満足そうにヒッヒッヒっと笑った。
「実は私も丸山さんが女の人のクソつまんない会話聞いてるの苦痛っていう所で共感する所あります。おまけにその時に体験したどうしても言いたい話があるんですけど言ってもいいですか?」「はい、どうぞ」
「私三十歳で婚活したことあるって前言ったんですけど、それでドライブいきましょうって言われて、そしたら新潟に着くまでの一時間半ずっとしりとりをエンドレスでやらされたんです。
何話していいのかわかんないのかなって思って、途中で智の馬鹿な話とかして、話題を逸らそうとするんですけど「そんなことより」ってしりとりを強制されるんです。だから水族館に着いて、車を降りて見上げた空の青さを今でも忘れません」
彼はお腹を抱えて笑った。
「それ帰りはどうしたの?」
「水族館の中では普通の人だったのに、帰りもしりとりしようって言ってきたので、全部「る」返しとか「ろ」返ししてコテンパンに負かせたら最後の三十分やっと無言になってくれました」
彼は「酷いな、男のプライドズタボロだな」と言って手を叩いて笑った。
「よしっ、じゃあ、さくだいら」彼がしりとりの勝負を挑んできたので断った。
「丸山さんには絶対負ける気がするから、しりとりしませんからね。勝てる人としかやらないです」
「あぁそう?折角しりとり男の仇をとってやろうと思ったのにな、じゃあ次の面白い男の話どうぞ」
と彼が言うので「後はそんなに面白くないです。婚活してた時にやたらと男の人ってドライブしようって遠くまで行きたがる人多くて、その度に嫌だなって思ってたんですよね」
「それは何で?」
「さっき丸山さんが言ってたことそのまんまなんですけど、会話が何か噛み合わなかったりとか、喋るのが遅くてイライラしたりとか、笑うポイントが違ったりとかそういう些細な事が炙り出されてきて、やっぱりこの人も嫌だ。もう婚活なんかしたくない、でも誰かと結婚しないと子供産めないっていうプレッシャーが襲いかかってくるんです」
私は今この状況に気がつかずに、過去の苦い経験を思い出していた。
「じゃあ俺はドライブデート合格か不合格かどっち?」
ここで初めて気がついた。今この状況ってまさしくそうだよねと。というかこれデートだったんだ。自分は何て配慮が無くて大馬鹿者なんだろう。
「意図的にドライブに来たわけじゃないんですけど……というかそれ何て言われるかわかってて聞いてますよね?」「バレた?」そう彼は悪戯っ子のように笑った。
「もうすぐ着きます。ここを曲がるともう駐車場ですよ」
「早いな」と彼は呟いた。