第199話 再会は突然に

文字数 1,694文字

すぐにテレビを消して寝た。もう何も考えたくない。私は何度こうやって傷つけられたら気が済むのだろう。

次に起きたのは朝の十時だった、明け方の五時ぐらいにメールが届いていた。
「アンケート書いてくれてありがとう」

何にも返信する気が起きなくてそのまま放置している。それにしてもやる事ないな、いつもだったら取り敢えずテレビをつける所だけれども彼が出ている気がしてつけられなかった。

そのまま昼寝をしていると電話が鳴ったので反射的にとってしまった。案の定彼からだった。

「もしもし、亜紀色々ごめん」
何と言ったらいいのかわからず無言になってしまった。
「あのさ、世界で一番亜紀が綺麗だよ」
彼の白々しい言葉にカッとなって電話を切った。雪乃さんにも同じこと言ってた癖に何なのそれ。今一番言っちゃいけないことでしょ?

電源ごと切るとまた不貞寝した、もう何も考えたくない。

私は何に対してこんなに怒っているのだろう。雪乃さんのことは腹立つけれどそこまでではない。やっぱり頭がおかしい彼女と結婚したくないと言われたことに対して一番怒っているのだ。

今ならまだ引き返せる、自分の情深い性格を考えると何かしてしまう前に引き返した方がいいのではないか。そんな気がしてならない。

スマホの電源を入れることができない、ご飯も食べずにずっと不貞寝していた。

「……今なら後戻りできるか」
そう呟きながら日も暮れかけの夕方ゲームをしているときだった。玄関のチャイムが鳴った。何故だかわからないけれど彼が来た気がして飛び起き、急いでドアを開けるとやっぱりしげちゃんがいた。

「えっ、忙しいんじゃないの?」
「死ぬほど忙しいけれど、不機嫌な亜紀の機嫌をとりに来た」
「……中入る?」
「今日は無理、後十五分後の新幹線に北澤とマネージャーが乗ってるからそれに絶対乗らなくちゃいけないから」
「そんな無茶苦茶な、間に合うかな」

他人事ながら心配になる、正月は分刻みのスケジュールだって言ってたのに。

「俺はね亜紀にこれだけ伝えに来た。三連休に泊まりがけで伊豆の温泉行こうか」

彼は謝るわけではなく愛を語るわけでもなかった。意外性を突かれ面食らっている自分がいる。ふと外を見るとヒラヒラと大粒の雪が舞っている。こんな季節に彼と温泉に行ったら楽しいだろうな。

「……行きたい。でも三連休だから今から予約とかとれるかな?」
「11月からとってあるから心配するな」
彼は自信たっぷりに笑った。
「用意いいね」
私も笑った。そういえば前に温泉に行きたいと話していた、覚えていてくれたんだ。

「本当は当日東京駅に来させてそこで温泉行こうって言うつもりだったんだけど、亜紀のご機嫌とる為に今言うよ」
「そんな当日サプライズよりも今言ってくれた方が嬉しい。楽しみに待つ期間がいいでしょ?」
「俺は当日に言って驚く顔がみたいんだよ」
当日って……彼の独りよがりなわがままな意見に思わず笑ってしまった。
「もう何それ、伊豆って行ったことないんだよね。楽しみ」

今までの怒りを綺麗さっぱり忘れて彼を見つめて微笑んだ。私は自慢じゃないけど凄く単純なのだ。彼も私を見つめて微笑んだ。

「なぁ、亜紀これだけは言っておくけど、俺が愛してるのは亜紀だけ。テレビで何言われてされようが俺は亜紀のことだけ愛してる。いいか?」

この人ナルシストだからカッコつけるの好きなんだよね、斜に構えながらも彼の甘い言葉に素直に頷いた自分がいる。

「今日ばかりは亜紀がここに住んでてくれて助かったよ。東京のどこに住んでてもいけなかったけど、ここだから来れた」
彼はそう言うと軽くキスをしてすぐに「下でタクシー待たせてるから行くよ」といってしまった。

アパートの二階の手すりからタクシーに乗り込む彼に手を振っていると彼もこっちに気がついて手を振り返した。
どんどん小さくなるタクシーを見送り部屋の中へ戻った。

あの人は女慣れしすぎてる。こうやれば多少怒ってても女は機嫌直すってわかっててやってるのが怖い。

でも単純な私にはそれでいい。
多分今年の四月には高崎に戻れるだろうし、そしたら今度はちゃんと婚活しようと決めていた。だからもう暫くこのままでいさせて欲しい。


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