第268話 追撃される

文字数 1,522文字

「教えてもらった女の本名で検索したらヅイッターとフェイスブームあったよ、マルチ紛いの商品売ってたり、絶対稼げる方法教えますとか、占いしてたり、自己啓発セミナー主催してた」
「……絵に描いたような胡散草さだね」
「俺の勘だけども弁護士さんから電話して貰えばすぐに大人しくなりそうな感じではある」

彼の報告に大きなため息をつくと、プシュと桃味の酎ハイを開けて一口飲んだ。

これ私のために買っといてくれたんだろうな。

「お父さんって爺ちゃんの遺産相続で結構な額相続してたの、それに地元じゃ有名な企業に勤めてたし、お母さんにはお金あんまり渡してなかったから結構持ってたはず。お父さんは私達にお金送ってたつもりだったみたいだし。

それなのにお父さんにお金貸したってどういうこと?」

彼は何も言わずにテレビを見ている。

「悔しい、その女に一回でいいから会って罵倒してやりたい。家の生活費も私が東京の大学行くお金もみんな盗ってった癖にさ」

「気持ちはわかるけど、ああいう胡散臭い人間と関わるのはやめておいた方がいい。ああいう人達は他人に信じ込ませるのが上手いから、それこそ相手の思う壺だよ、連絡は弁護士に任せとこう」

酎ハイをまた一口飲んだ。普段は私はお酒は飲まないけれど、物凄く飲みたい気分だ。
「……うん、わかってはいるんだけどさ、悔しいんだよ」

「だから今酎ハイ出してきただろ?」

そう言って彼が和かに笑うので酎ハイをまた一口飲んだ。甘ったるいジュースのようなアルコールが体に回り始め、悔しさを少しずつ浸食していく。

「お父さんが出て行った当初、何とかお父さんに連絡取ろうと思って、会社の人に連絡してって伝えて貰ったら、あの女が家まで来たの。

お母さんがパニック起こしちゃったから、私が対応したら「あんたも体でも何でも売って、何でもして稼いできなさいよ、清純ぶりやがって、若いからいい金になるでしょうね」って当時小学生の智と健もいる前でドラマの悪役みたいなこと言うの」

私が悲しく笑うと彼は自分のことのように悔しがってくれた。

「それ腹立つな、自分の女に体売れって言われるの本当に腹立つな」と貧乏ゆすりをしながらお茶を飲んだ。明日の朝は五時半に迎えが来るらしい。

「決してやれば良かったのにと言ってる訳ではない。でも金銭的に苦労してたんだったら、キャバクラとかで働こうとは思わなかったの?女が手っ取り早く金作ろうと思ったらキャバが一番いいでしょ?」

「いや、一回考えたことがある。ちょうどその頃、小学校からの友達のみっちゃんがキャバクラで働いてて、お金いいから一緒にやらない?って誘われたんだよね」

「そこで踏みとどまったの?」

「踏み止まったというか、当時は正論モンスターを拗らせてたんだよ。正しくない物は絶対に受け入れられなかった。

ゼミの先生のチンピラ家族に小銭投げつけられて、怖いから我慢するか流せばいいのに、くってかかるような女だったんだよ。

冷静に自己分析して接客業は一番自分に向いてないって思った」

「まぁ、向いてないよな。「あなた達はこの学校入れるんですか?」って煽り返してくるからな」と言って彼は笑った。

「……その恥ずかしいセリフ覚えてた?」
「俺笑った、確かになって納得したし」
「……本当に当時の私にはそれしか言い返す所がなかったんだよね……恥ずかしい」

「俺あの時、美咲に車に乗せられないって置いてかれたからな」
「知ってる、近くのトイレに友達と隠れてその会話聞いてたもん。最後にお母さんから「重明、これ小遣い」ってお小遣い貰ってるのも聞いた」

「……やめろ!そんな恥ずかしい場面も聞いてたんか……だからすぐ駅行きのバス停教えてくれたんだ……」
彼が目を瞑って項垂れたので彼の頭を撫でた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み