第252話 深夜の訪問者

文字数 1,773文字

先生には健と智もグレかけた時にお世話になっている。彼と健と智の近況を話していると先生が「亮磨が重明のこと好きで熱心にテレビ見てるけれど、重明の彼女にはイケメンの弟と馬鹿な弟がいるって話してたな」と笑った。

その話のくだり……嫌な予感がする。いやこの間ラジオでその話してキツくこの話はするなと釘を刺したはず。しかし彼は狼狽えた目で私を見ていた。
「まさかテレビでもあの話したんじゃないしょうね?」「北澤が、北澤が関東ローカルだからいいだろ?って話振って来たんだよ!」「はぁ?!」「いやだってあんな面白い話ないだろ?」

「何でそんな事を亮磨君にまで知られなきゃいけないの?あのほっぺプニプニの可愛い亮磨君に!」
「あいつ二年前に見たら髭生えておっさんみたいになってたぞ」
「そういう問題じゃない!」

先生は詳しい内容を知って知らずしてか「まぁまぁ」と言っている。心を落ち着けようとお茶を一杯飲んだ、先生の前でこんな取り乱した姿を見せたくない。

先生が私がかなり怒っているのを察し話題を変えようとしている。
「姉ちゃん達との間で重明がテレビで彼女の話してるって話題になってて、重明とちゃんと付き合えるなんて姉ちゃんと同じ位の年齢の人だと思ってた、だからまさか山浦さんとは思わなかったよ」

彼は何故だか得意気になった。
「亜紀は精神年齢姉ちゃんと同じくらいあるぞ」
「お姉さん何歳?」
「俺の一回り上だから54歳」
「ちょっと待って、それ褒められてるのか貶されてるのかわかんないんだけど」
「褒めてる、今まで苦労してきたからな」
何故だか知ったかで私の人生を語ろうとするので腹が立った。大学時代を除けばそんなに苦労はしていない。

「いや私は小学校の時から人生悟りきってる感じするってよく言われたんだけど」
彼は私を指差して「元々か」と爆笑した。
そんな私達を眺めながら先生は不思議そうに尋ねた。

「ところで二人はどこで知り合ったの?山浦さんは群馬で教員やってるんだよね?重明との接点が思い浮かばないんだけど」

そう聞かれたけれど何と答えたらいいのか。
「えっとですね、話せば長くなるんですけど、テレビの取材が学校に来て一緒に山登りしたんです。それで」彼が話に割って入ってきた。「俺がより完結に説明してやろう、ロケ後にナンパした。以上」

「ちょっとナンパって何なの?人聞き悪いでしょ?」
「あれをナンパと言わずに何と言うんだ」
「私は写真送ってくれって言われたから送っただけじゃん」
「そんなんナンパの典型的な手口だろ?」
「何それ引っかかった私馬鹿みたいじゃん」「馬鹿だな」
彼はそういつものように優しい笑顔で笑ったから私も自然と笑顔になった。


「そんな出会い方ってあるんだな、そういえば山浦さんで今でも覚えてるエピソードがあるんだ、大学でも新入生のハラスメント研修を任されたら絶対に話す」

「えっ、何だろう?ハラスメント?」
「いきなり上級生にサプライズ告白されてることあったよね」
「……ありました!」
忘れかけていた恐ろしい記憶が呼び覚まされる。

彼は怪訝な表情で聞き返す。
「何それ?」
「いきなり休み時間に上級生が音楽流して集団で踊り出して、呆気に取られて見てたらダンスが終わった後に白いタキシード着て薔薇の花持った男の人がやってきて、付き合ってくださいって言われたんだよ」
「それどうしたの?」
「知らない人だし断ったら上級生みんなに、囲まれて付き合ってあげてよって凄まれてさ、どうしようかと思ったら先生が助けてくれた」

当時の恐怖が思い起こされ鳥肌が立った。あれは怖かった。けれども女の表面的な所しか見てこなかった彼はあの上級生達と同じ思考だってらしい。

「俺、ああいう事されたら女は嬉しくてみんな落とせるんだと思ってた」
「はぁ?そんな訳ないでしょ?女のこと甘く見過ぎ」

「サプライズって今流行ってるけれど立派なハラスメントだよな、セクハラとパワハラ。俺の前に塚田君も助けようとしてたけど、どうにもならなさそうだったし」

先生は本当に何気なくその名前を出したのだと思う。十何年ぶりに塚田君の名前を当時を知る関係者である先生に出されて自分でも少し動揺してしまった。

嫌な予感がする、彼に塚田君という人を大学時代ずっと好きだったと言ったことがある。

しげちゃんを見るとやはり塚田君の名前を覚えていたようで露骨に機嫌を悪くしていた。
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