第120話 勿忘草
文字数 1,442文字
「二時の新幹線だったよね?余裕で間に合うね」そう言うと彼は「そうだな」と答えた。
地元の小学校が作ったらしいコスモスの花壇の横を通り抜け真新しい立派な駅舎の中に入るとやっぱり人っ子一人いなかった。
「新幹線の駅なのに、俺たち以外に誰もいないんだけど」と彼が言ったので「元々の人口が少ないからね、私も何でここに作られたかわかんないし」と言った。
駅唯一のコンビニの前を通りかかった時、彼が「ホワイトアンドブラックの男とキスしたの?」と唐突に聞いてきた。
「だから、してないから」
逆ギレ気味に答えると彼は「でもキスしたかったんだろ?」と言った。
「当時はね!」更に逆ギレすると彼は笑った
「今そいつとは連絡とれるの?」
「それがね、4年前に高校の時の友達の結婚式でたら、新郎がその人だったんだよね。結婚相談所で知り合ったって言ってた」
「ショックだった?」
「二年前の出来事だったしそんなには、それより二人で会ってた時期があるって友達にバレちゃいけない、もしバレたら友達じゃなくなるっていう恐怖の方が優っちゃって」
「バレてないの?」
「うん、今のところ。普通に子育ての愚痴メール来るし」
駅舎に入ってから初めて人とすれ違う、出張帰りのサラリーマンが出迎えの奥さんと合流して仲良さそうに出口へと歩いていった。
「友達なのに本当のこと話さなくて悪いけどさ、何でも正直に話すのが正しい訳じゃないじゃん?」
「まぁな、俺もそいつがいなくなって三ヶ月も落ち込んでたとか、キスしたかったなんて知りたくなかったし」
「最悪だ、本当に。あいつ何であんなに馬鹿なんだろう。普通こんなこと言わないよ」
彼が足を止めて真剣な眼差しで私を見つめていたので思わず私も足を止めた。
「そいつのことそんなに好きだったの?」
「……今ここで何て言えば正解になるの?誰か恋愛経験が豊富な人教えて」
「俺は女と関係は死ぬ程持ったけれど、恋愛経験は豊富じゃないから答えはわからん。だから正直に答えて」
彼の真剣な眼差しを向けてくるのに耐えられなくなり口が勝手に話し出した。
「……当時は好きだった、趣味が一緒だったから会話にも困らなかったし、ずっとホワイトアンドブラックの話してて一緒にいて楽しかった。それに普通の人だったから、それが良かったんだよね」
「……俺は今、その男に何て口説かれて、何を囁かれてキスしようとしたのか聞きたい衝動にかられてる」
「そんなこと聞いてどうすんの?」
「聞いたら嫌な気分になると頭では理解している。けれども亜紀のこと全部知りたいっていう征服欲が俺を暴走させる」
「何それ、怖っ」
「俺の愛を怖いって言うな」
彼はそう言って笑った。
「俺はホワイトアンドブラックのことあんまり知らないけど、会話にも困らないし一緒にいて楽しいから俺の勝ちだぞ」
いつものように自信たっぷりで得意気な彼の横顔を愛しく眺めて相槌を打った。
「うん、そうかも」
「そいつ何歳だったの?」
「えーっと私の四つ上だったから、当時33歳だよ。結構おじさんだなぁって酷いこと思ってたし」
しばらく間を作ってわざとらしい喋り方で彼は喋り出した。
「じゃあ俺は42歳のおじさんだけど、いいの?」
「えっ……だって私も35歳だから」
そう言って口をつぐんだ。
本当はこういうときに「好きだからいい」と言える素直さが欲しい。
きっと彼の欲しかった答えもそれなんだろう。
地元の小学校が作ったらしいコスモスの花壇の横を通り抜け真新しい立派な駅舎の中に入るとやっぱり人っ子一人いなかった。
「新幹線の駅なのに、俺たち以外に誰もいないんだけど」と彼が言ったので「元々の人口が少ないからね、私も何でここに作られたかわかんないし」と言った。
駅唯一のコンビニの前を通りかかった時、彼が「ホワイトアンドブラックの男とキスしたの?」と唐突に聞いてきた。
「だから、してないから」
逆ギレ気味に答えると彼は「でもキスしたかったんだろ?」と言った。
「当時はね!」更に逆ギレすると彼は笑った
「今そいつとは連絡とれるの?」
「それがね、4年前に高校の時の友達の結婚式でたら、新郎がその人だったんだよね。結婚相談所で知り合ったって言ってた」
「ショックだった?」
「二年前の出来事だったしそんなには、それより二人で会ってた時期があるって友達にバレちゃいけない、もしバレたら友達じゃなくなるっていう恐怖の方が優っちゃって」
「バレてないの?」
「うん、今のところ。普通に子育ての愚痴メール来るし」
駅舎に入ってから初めて人とすれ違う、出張帰りのサラリーマンが出迎えの奥さんと合流して仲良さそうに出口へと歩いていった。
「友達なのに本当のこと話さなくて悪いけどさ、何でも正直に話すのが正しい訳じゃないじゃん?」
「まぁな、俺もそいつがいなくなって三ヶ月も落ち込んでたとか、キスしたかったなんて知りたくなかったし」
「最悪だ、本当に。あいつ何であんなに馬鹿なんだろう。普通こんなこと言わないよ」
彼が足を止めて真剣な眼差しで私を見つめていたので思わず私も足を止めた。
「そいつのことそんなに好きだったの?」
「……今ここで何て言えば正解になるの?誰か恋愛経験が豊富な人教えて」
「俺は女と関係は死ぬ程持ったけれど、恋愛経験は豊富じゃないから答えはわからん。だから正直に答えて」
彼の真剣な眼差しを向けてくるのに耐えられなくなり口が勝手に話し出した。
「……当時は好きだった、趣味が一緒だったから会話にも困らなかったし、ずっとホワイトアンドブラックの話してて一緒にいて楽しかった。それに普通の人だったから、それが良かったんだよね」
「……俺は今、その男に何て口説かれて、何を囁かれてキスしようとしたのか聞きたい衝動にかられてる」
「そんなこと聞いてどうすんの?」
「聞いたら嫌な気分になると頭では理解している。けれども亜紀のこと全部知りたいっていう征服欲が俺を暴走させる」
「何それ、怖っ」
「俺の愛を怖いって言うな」
彼はそう言って笑った。
「俺はホワイトアンドブラックのことあんまり知らないけど、会話にも困らないし一緒にいて楽しいから俺の勝ちだぞ」
いつものように自信たっぷりで得意気な彼の横顔を愛しく眺めて相槌を打った。
「うん、そうかも」
「そいつ何歳だったの?」
「えーっと私の四つ上だったから、当時33歳だよ。結構おじさんだなぁって酷いこと思ってたし」
しばらく間を作ってわざとらしい喋り方で彼は喋り出した。
「じゃあ俺は42歳のおじさんだけど、いいの?」
「えっ……だって私も35歳だから」
そう言って口をつぐんだ。
本当はこういうときに「好きだからいい」と言える素直さが欲しい。
きっと彼の欲しかった答えもそれなんだろう。