第284話 追撃される

文字数 1,234文字

「週刊誌はせめて明日が過ぎ去ってからにしてほしかった。何でこのタイミングなんだろう」

極めて明るく言ったつもりだったけれど、全世界の人に付き合ってることを言いたいタイプの彼は少し機嫌が悪くなった。

「いいじゃねぇか、何か言われたら付き合ってますよって素直に認めておけば」

彼は私を取り巻く環境をわかってるようでわかっていない。

「そういうわけにはいかないっていうか」
「何で?」

今まで村の異常さは散々話してきたつもりだったけれどな……村人が私生活にズカズカと入り込んでいるということを信じられないのだろう、仕方がない。

「……だって恥ずかしいし。ほら凄いちゃんとした場で、この二人付き合ってるのに何でこんな他人行儀なふりしてんのっていうときあるじゃん。

私内心凄いニヤニヤしちゃうんだよね。二人でいる時はそんな喋り方しないんでしょとか思って」

「わかる、俺は二人でいるときはとんでもないプレイしてんだろうなって想像してニヤニヤしちゃうんだよね」

「そんなこと思ってんの?」
「思ってる、男なら誰でも思ってるよ。あー明日校長と教頭が俺たち見ながらニヤニヤしてんだろうな」

「止めてよ!校長先生と教頭先生がそんなこと考えてるわけないじゃん」
「いいだろ?実際にあんな事やこんな事してんだから」

「……実際にしてるからって想像されてニヤつかれていいわけないでしょ?」

「世の中はギブアンドテイクで成り立っているから仕方ないだろ」
「私テイクしてないのに何でギブしなきゃいけないの!」

そう怒ると彼はまたヒッヒッヒと笑った。

「だからさ、変にコソコソしててニヤつかれるよりも、堂々としてた方がいいだろ?」

「……いやだって無理だよ、あの村で堂々としてるなんて」

「何で?俺と付き合ってるって堂々としててよ」

「……だって」

それ以上何も言えなかった。確かに堂々としているべきだ。

でも集団で学校に襲撃されたらどうしようという不安の方が勝るのだ。都会育ちの彼に言っても理解できないだろう。

「何でそんなコソコソしなくちゃいけないの?俺は堂々と大声で言ってやる。アキは俺と付き合ってるって知られるのが嫌なの?」

「嫌じゃない、嫌じゃないんだけど、周りがそれを許さないというか」

彼が怒っているのが電話越しでも伝わる。

「意味わかんないよ、俺はもっと堂々としていたい。何にも悪いことなんかしてないのに、何でそんなコソコソしなきゃいけないの?」

何にも答えられなかった。彼の正論は圧倒的に気高く正しい。

「ちょっともう収録行くから切る」

電話はすぐに通話終了になってしまった。

暫くその場で考えたけれど、どうしていいかわからない。何もかもが嫌になり床に寝転んだ。

彼を怒らせてしまった。

彼の正論は圧倒的に正しい、悪いことをしてないんだから堂々としていればいい。

けれど私の正論も少しは正しい、村人に不必要に攻撃されたくない。村において私は結婚前に男性と付き合うことなんてない、立派な聖職者であらなければならない。

明日は一体どうしたらいいのだろうか。
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