第29話 コスモ山浦

文字数 1,084文字

丸山さんは山を降りて会っても素敵だったから、聞きまちがいをしてしまったらしい。いい加減にしろよ。自分、コラ。

「もう一度言ってもらってもいいですか?」と言うと丸山さんは少し笑った。

「聞き間違いじゃなくて、俺は本当に付き合って下さいって言ったよ。

帽子岳で「フィールトオンヒューみたいでかっこいいじゃないですか」って言われて、戸惑いながら地面に寝転んで空を見た時、俺この子と結婚するんだろうなって思ったから」

彼は何故だか自信満々に言った。

「……何故そのくだり?」

と呟いたまま言葉が出てこない、少しの間の後になんとか捻り出す。


「丸山さん、いくら、私が田舎者だからって、からかわないで下さい」

辿々しくそう言い彼を見ると真剣な眼差しで「本気で言ってるから」と言い切られてしまった。

空を見上げると飛行機雲が青空に綺麗に筋になって広がっている。


「…ちょっと待って下さい、私今35歳ですよ」すると「俺は42だよ」と言い返された。

「丸山さんの周りにはいっぱいキラキラした女の子達いますよね?」

「いないよ」と丸山さんは首を振ったけれど嘘だと思う。

段々と私の口が元の様相を呈してきた。

「女はね金と名声のある男と付き合って自己顕示欲を満たすのが好きなんですよ。シンデレラなんてまさしくそうでしょ?絶対ほっとかれないですよね?」

そう言うと丸山さんはヒッヒッとまた笑って言った。

「その分析的確だな。うん、まぁ寄ってくる女がいないっていうのは嘘かもしれない。けれど俺は亜紀先生が好きだと思ったんだ」

頭の中がアルコールを飲んだ時のようにフワフワとしている。

ふと、この前テレビでみた丸山さんが女の人全員からビンタをされる場面が何故だか思い浮かんだ。

「この間、テレビで丸山さんの彼女探そうっていう番組やってて」
「あーあれ見てた?」

「そこに挙げてた条件全部私に当てはまらないんですけど」
「それ俺も思ったよ」

彼は他人事のように軽く相槌を打った。

「俺は山登ってる時にもう気付いてたから。俺の言う条件一つも満たしてなさそうだって170センチなさそうだし、頭も良さそうだし、服装も地味だし、周りに気遣えそうだし」

彼は何故か○○○を飛ばした。流石にこれは言うとまずいと思ったのだろう。そういう空気はちゃんと読むんだ。

けれども彼の方が何枚も上手だった。
「でも○○○は今から上手くなればいいから」「たった二回会っただけの人に一体何言ってるんですか」

ドン引きながらそう言うと彼は「今の返しがいいね」とまた笑った。
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