第245話 深夜の訪問者

文字数 1,071文字

義政先生が座っている反対側に彼が座り、食卓にはお母さんお手製のオムライスとサラダが並ぶ。

「うちの母親料理作れるんだ」と彼が呟くと「人が来て見栄張りたい時はこうやって作ってただろ」と先生が笑った。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してコップに注いでお盆に乗せ二人に出した。

「山浦さん本当に久しぶりだね。前は向井さんと坂本君の結婚式で会った以来かな」
「そうです、あの時はファンの人達が先生取り囲んでてあんまり話せなかったから本当に嬉しいです」
「何か雰囲気変わったから最初気がつかなかった」
「あっそうですか?そんなに変わったかな」

重ちゃんが気まずい顔をしてこう言った。
「亜紀ちょっと普通の服に着替えてきて」
自分の服を見ると歳不相応なホットパンツを履いていた。しかも風呂上がりの癖毛のせいで、昔流行った何とか巻きのような髪型になっているに違いない。これは痛い、痛すぎる35歳。

「あばああああー」
日本語にならない声を出して洗面所に行こうとすると彼が「いつまでも若いつもりで歳不相応な格好するからだよ」と大声で言った。

キッと睨みつけると彼は余裕たっぷりに笑った。「何で睨むんだよ、ここで俺がその格好で待っててって懇願してたことがバレたら、こいつら今から何するんだって思われるぞ」

先生は何とも言えない気まずそうな顔をしている。

「あばああああ」と再び日本語にならない声を出しすぐ様洗面所に向かった。


髪を結んで普段のパーカーにズボンという格好でリビングに戻った。

「山浦さん、この格好ならすぐわかるよ変わってないね」
「このパーカーどこで買ったの?って聞いたら十年ぐらい前だから覚えてないって言うんだぞ、十年前と同じ服着てればそりゃあ変わらないよな」と彼は笑った。
「何故かわからないけど、どれだけ洗濯しても何のダメージも受けない魔法の服ってみんな一着ぐらいあるでしょってそんな事先生の前で言わなくていいから!」

先生が急に真剣な表情で私を見た。

「俺、卒業するときに山浦さんに言ったよね。俺の弟は女癖悪いし、ちゃんと働いてないどうしようもない人間だから、そういう男と絶対に付き合っちゃいけないって」

お世話になったゼミの先生にこう言われたと彼に話をしたことがある。彼はすぐわかったようで「あー、あれ俺のことだったんだ、すごい偶然だ、兄ちゃん悪い、本当に付き合っちゃった」と一人で笑っている。
「何で本当にこんな男に捕まってるの?」
「本当にまさか先生の弟さんだったなんて思いもしなくて、でもそんないい加減なことは今はしてないっていうか」
そう言うと彼は「だよな」と相槌を打った。
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