第102話 初めて過ごした朝

文字数 1,254文字

暫く何も言わない時間が過ぎた、もう寝るのかなと思っていたら彼が目を瞑りながら言った。

「恨み言そのニもどうぞ」「聞いてくれるの?」「いいよ、こんな時だし」「じゃあ遠慮なく言います。想像つくと思うけど母さんが私や智や健じゃなくて父さんを選んだ事を一番恨んでる。

父さんが居なくなったって母さんさえ元気で居てくれたら、東京の大学は行けなかっただろうし、お金も無かったかもしれないけれど、みんなで楽しく過ごせたのに

何で私に全てを背負わせて父さんだけを愛して憎んで恨んで亡くなったんだろう」

「……そればっかりはお母さんじゃないとわからないよ」

「母さん亡くなったばかりの頃は私二十歳だったし、母さんは父さんが大好きだったんだね、可哀想って思ってたんだけど、自分自身が歳を重ねていくにつれて色んな事がわかるようになってきて、あれ?って思う事が増えてきちゃって」

「具体的には?」
「世間一般では自分の子供って親よりも恋人よりも何よりも大切な物らしいけど、母さんはそうじゃなかったの?って」

「それもお母さんに聞かないと本当のことはわからないから、考えすぎるなよ。憶測で人のこと嫌ったりするほど馬鹿なことないから」

「……しげちゃんがはっきり言ってくれて、自分が馬鹿な事に一瞬で気づけた」

「だろ?」
「じゃあさ、自分が死ねるぐらい父さんのことが憎くて愛してるってどういうことなんだろう。私はそこまで人のこと好きになったことがないから母さんの気持ちが全く理解できない」

言い終わった後にしまったと思った。今付き合っている人に言う言葉じゃなかったと思い慌てて訂正した。

「丸山さんじゃなくて、しげちゃんが好きじゃないとかそういうことじゃなくて、出会って日も短いのに死にたいくらい憎くて仕方がないけど愛してるっておかしいし」

すると彼は「そこまで好きだって言ってもらえる様に頑張るよ」と微笑んで手を伸ばし、私の髪を撫でた。

「どうしてそんなに余裕があるの?」
「うーん俺亜紀ちゃんより7つ年上だから」
軽い回答が返ってきて思わず笑ってしまった。

「じゃあどうしてこんなに重くて暗い話ししても逃げずに付き合ってくれるの?」

「うーん、愛してるからだよ」

これまた軽く言ってのけたので笑った。

「ふーって吹いたら飛んでいきそうな愛してるだった」
「亜紀ちゃんの前からさーって消えてった男達と一緒にするな」

そう言って彼はまた目を閉じた。

「俺って優しいよな」
「何で自分から言っちゃうの?」
「自分の恋人に手も出さずに寝るまで付き合ってるんだぞ、昔の俺を知ってる人が聞いたら頭おかしくなったの?って言われるからな」

自分でも何でこんな行動したのかわからないけれど布団から出て「しげちゃんありがとう」と言って彼の右頬にキスすると、彼は突然体を起こした。

「鬼!悪魔!次同じことしたらそれだけじゃすまないからな」と神経質に怒っていたけれど、その怒っている顔も可愛く思え、笑みが溢れた。
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