第117話 勿忘草
文字数 1,586文字
智が話の流れを全く無視して、「あっ姉ちゃん見て、勿忘草まだあるよ!」と庭の片隅にある桑の木の下を指さした。
今の季節、もう花はないけれど、勿忘草は同じ場所で健気に今年も葉をつけていた。
重ちゃんが「勿忘草?」と尋ねると私が答えるよりも先に智が意気揚々と答えた。
「あそこに、地味に生えてる草あるでしょ?あの草、勿忘草って名前で、姉ちゃんがホワイトアンドブラックで一番好きな曲のタイトルも勿忘草っていうんだよ。
それで姉ちゃんが運命感じてあの草大事にして、今のアパートでも種持ってって育ててるんだよ!」
すると彼が「あの窓際の鉢植え、そんな深い意味があったんだ」と呟いた。
「この家にあんまりいい思い出ないんだけど、引っ越す時に勿忘草だけはどうしても持って行きたくて種植えたら芽でたんだよね」
「そんなに好きな歌なの?」
「好き、大好き。あったかい歌詞も優しいメロディも全部好き。どうしようもなく人生に迷ったらあの曲のイントロが流れてくるから」
そう満面の笑みで答えた。
調子こきの智は大きな石の上に乗ると両手を広げて、勿忘草を歌い出した。
「歌うな!わたしはこの歌だけはレイ君以外の人が歌うの認めないから!しかもみんな物真似する時どうして天を仰ぐの?レイ君普段はそんな歌い方しないから!マイクを両手で包み込んでね体重預けてこう歌うのが多いから!」
「姉ちゃんウゼー」と智は爆笑した。
「亜紀ちゃんにホワイトアンドブラックで一番好きな曲って何?って聞いても誤魔化されて答えてくれなかったけれど、今日わかって良かったよ」と彼は笑った。
「姉ちゃんホワイトアンドブラックの話すること嫌がるんだよね、何でだろ?」
二人が私を見ている。
「だから、誰もが踏み込んで欲しくない事ってあるじゃん?」
すると彼が「まぁわかるよ、誰もがあるよね」と言ってくれたのでホッとした。
「家族のことだったり、昔の恋人のことだったり自分の事だったり色々あるよね。でもホワイトアンドブラックはいいでしょ?」
智が追随する「そうだ、ホワイトアンドブラックはいいよね、姉ちゃんそろそろ一緒にライブ連れてってくれよ。俺姉ちゃんの影響で結構知ってるからさ」
「あーもう、あんたなんか絶対に連れてかないから!」
彼が不思議そうに言った。
「なんでそんな嫌なの?もしかして、昔ホワイトアンドブラックと何かあった?」
「そう、ちょっと実は十年前に街角で偶然、あの夏、誰よりも私達はひそやかな愛をしった」って何言ってんの、あーもう馬鹿自分」
「白と黄色いアルバムに入ってるやつ」と智が笑った。
「とにかく、嫌なものは嫌なの!今まで色々あって辛くて泣き出したいことなんて山程あったけど、私はホワイトアンドブラックがいたから生きてこれたの!」
しげちゃんが笑いながら「そうなんだ」と相槌をうった。
「そう、大袈裟じゃなくてさ、そう言う事だから」
私のお陰でホワイトアンドブラックに詳しい智は腹を抱えて笑い出した。
「姉ちゃんウゼー」
「だから無闇矢鱈にホワイトアンドブラックに絡まれると、これからどうやって生きていったらいいかわからなくなるの!」と新潟の山並みに向かって叫ぶと、彼はヒッヒッヒッヒッと笑ってこう言った。
「わかったって、無闇矢鱈にホワイトアンドブラックに絡まないから」
しげちゃんがそう言ってくれてほっとした。絶対他人に踏み荒らされたくない領域が私はホワイトアンドブラックなのだ。
「そう言えばさ、昔姉ちゃんに言い寄ってきた男の中にホワイトアンドブラックのライブ会場で知り合った人いたよね?その人は絡んで良かったの?」
私は弟相手になると瞬間湯沸かし器になることがある。奴は空気を読んで言っていいことと、悪いことの見分けがつかないからだ。
今の季節、もう花はないけれど、勿忘草は同じ場所で健気に今年も葉をつけていた。
重ちゃんが「勿忘草?」と尋ねると私が答えるよりも先に智が意気揚々と答えた。
「あそこに、地味に生えてる草あるでしょ?あの草、勿忘草って名前で、姉ちゃんがホワイトアンドブラックで一番好きな曲のタイトルも勿忘草っていうんだよ。
それで姉ちゃんが運命感じてあの草大事にして、今のアパートでも種持ってって育ててるんだよ!」
すると彼が「あの窓際の鉢植え、そんな深い意味があったんだ」と呟いた。
「この家にあんまりいい思い出ないんだけど、引っ越す時に勿忘草だけはどうしても持って行きたくて種植えたら芽でたんだよね」
「そんなに好きな歌なの?」
「好き、大好き。あったかい歌詞も優しいメロディも全部好き。どうしようもなく人生に迷ったらあの曲のイントロが流れてくるから」
そう満面の笑みで答えた。
調子こきの智は大きな石の上に乗ると両手を広げて、勿忘草を歌い出した。
「歌うな!わたしはこの歌だけはレイ君以外の人が歌うの認めないから!しかもみんな物真似する時どうして天を仰ぐの?レイ君普段はそんな歌い方しないから!マイクを両手で包み込んでね体重預けてこう歌うのが多いから!」
「姉ちゃんウゼー」と智は爆笑した。
「亜紀ちゃんにホワイトアンドブラックで一番好きな曲って何?って聞いても誤魔化されて答えてくれなかったけれど、今日わかって良かったよ」と彼は笑った。
「姉ちゃんホワイトアンドブラックの話すること嫌がるんだよね、何でだろ?」
二人が私を見ている。
「だから、誰もが踏み込んで欲しくない事ってあるじゃん?」
すると彼が「まぁわかるよ、誰もがあるよね」と言ってくれたのでホッとした。
「家族のことだったり、昔の恋人のことだったり自分の事だったり色々あるよね。でもホワイトアンドブラックはいいでしょ?」
智が追随する「そうだ、ホワイトアンドブラックはいいよね、姉ちゃんそろそろ一緒にライブ連れてってくれよ。俺姉ちゃんの影響で結構知ってるからさ」
「あーもう、あんたなんか絶対に連れてかないから!」
彼が不思議そうに言った。
「なんでそんな嫌なの?もしかして、昔ホワイトアンドブラックと何かあった?」
「そう、ちょっと実は十年前に街角で偶然、あの夏、誰よりも私達はひそやかな愛をしった」って何言ってんの、あーもう馬鹿自分」
「白と黄色いアルバムに入ってるやつ」と智が笑った。
「とにかく、嫌なものは嫌なの!今まで色々あって辛くて泣き出したいことなんて山程あったけど、私はホワイトアンドブラックがいたから生きてこれたの!」
しげちゃんが笑いながら「そうなんだ」と相槌をうった。
「そう、大袈裟じゃなくてさ、そう言う事だから」
私のお陰でホワイトアンドブラックに詳しい智は腹を抱えて笑い出した。
「姉ちゃんウゼー」
「だから無闇矢鱈にホワイトアンドブラックに絡まれると、これからどうやって生きていったらいいかわからなくなるの!」と新潟の山並みに向かって叫ぶと、彼はヒッヒッヒッヒッと笑ってこう言った。
「わかったって、無闇矢鱈にホワイトアンドブラックに絡まないから」
しげちゃんがそう言ってくれてほっとした。絶対他人に踏み荒らされたくない領域が私はホワイトアンドブラックなのだ。
「そう言えばさ、昔姉ちゃんに言い寄ってきた男の中にホワイトアンドブラックのライブ会場で知り合った人いたよね?その人は絡んで良かったの?」
私は弟相手になると瞬間湯沸かし器になることがある。奴は空気を読んで言っていいことと、悪いことの見分けがつかないからだ。