第311話 同窓会

文字数 952文字

昼3時の新幹線に乗って高崎に向かった。智の呑気な顔は見たくなかったのでLINEで5000円送金してあげた。今は便利な世の中だ。

折角高崎まで来たのだからと中心街を散策した。ふと高崎城が目に止まり、大昔に塚田君とこの道を歩いたことが懐かしくなった。

あの時は塚田君のことが好きすぎて塚田君側の右半身が震えていた。

けれども今塚田君と付き合う訳にはいかない、世界中のみんなが大馬鹿だと思うだろう。けれど自分の中の正論モンスターが納得できないのだ。

夕方6時ちょうどにファミレスに着いた。もう塚田くんは席に座っていたので私も座った。

暫く世間話をして、資料を返して頼まれていたお菓子を手渡した。

「あの塚田君、付き合ってる彼氏とは別れる。けれど私やっぱり塚田君とは付き合えない」

塚田君は不思議そうに「どうして?」と尋ねた。
「まだ別れてもないのに、違う人と付き合うこと考えてる自分がどうしても許せない。卑怯だなって思っちゃって。自分でも凄く馬鹿だと思う、あんなに塚田君にまた会えること望んでたのに。

世界中の人から馬鹿だねと言われると思うけど、付き合えない。ごめん」


そういうと塚田君は爽やかに笑った。
「山浦さんらしいね。そう言われそうな気がしてた。それとさっきからずっと待ってる人いるけど」と入り口の方に目配せした。


入り口を出たすぐの所に何故だか帽子を目深にかぶったしげちゃんが腕組みをして隠れるように立っていた。

「……何でいるの……ごめん、じゃあ帰るね」と挨拶をして入り口の戸を開けた。

外は曇り空で薄暗い、もうじき夜が来るだろう。

私に気づかれない様に後ろを向いて硬直しているしげちゃんに「何してるの?」と聞いた。

しげちゃんは気まずそうに振り向くと「俺のビーチ姫が、クッバに拐われたから取り返しにきたのに、俺のビーチは勝手に帰ってきたから、俺の出番が無くなったんだ」とボソボソ喋った。

重ちゃんは全部わかっていたのだろうか、また涙が目からこぼれ落ちそうになる前に慌てて「帰ろう」と言うとしげちゃんが「あぁ」と言った。

十歩ぐらい歩いた所で彼が「もう俺たちは昔には戻らない」と私が好きな勿忘草という曲の出だしを呟いた。

何と答えたらいいのかわからず黙り込む。

「でも私達は未来にもいけないよ」
そう心の中で呟いた。

高崎駅はもうすぐそこだ。
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