第136話 夜の街で

文字数 1,072文字

気まずい時間が数分流れると、思考停止している脳の代わりに口が勝手に喋り出した。

「最後に行ったのいつ?」
「……先月」

先月というまでに変な間があったし挙動不審になっている。女は感情的かもしれないけれど勘は鋭い。

「本当に先月?正直に言って」
「……三週間前」

今度は不自然に表情が歪んだ。
「正直に言って下さい、神様はすべて見てますよ」

「二週間前です」
私は何も言わずに丸山さんを睨んだ。

「嘘つきました、先週です。先週の木曜日の深夜行きました」「先週……」

自分で追い詰めて聞いておいてショックを受けている。そういえば先週の木曜日は夜予定があるとかで、珍しく電話がかかって来なかった。

他にも週一位で忙しいって電話がかかってこない日があるなと余計なことを思い出してしまった。飲み会の日でも、深夜ロケがある日でも電話かけてくるのに。


「いや、本当に店に行ったのは深い理由はなくて……店の人に恋愛感情抱いてるとかは全くなくて……ただ欲求の解消に行ってただけで…電話の本当にSEXはスポーツだから!」

彼は得意気に語尾を強く言い切った。

この清々しいまでに開き直った姿を見て、自分の中の張り詰めていた糸が切れた。

まだこの状況をギャグで済むと思ってる彼を見て涙が頬を伝う。

「私は割り切れないから、スポーツだなんて絶対割り切れない!」

取り乱した。

しまったと後悔しても後の祭り、一口も飲まれてないお茶をお盆に乗せると「お茶入れ直してくる」と言い台所へ逃げリビングとの境の引き戸を閉めた

暖房の効いてない真冬の冷気が私の体を凍らした。大きな息を吐くと白く凍ってすぐに消えた。

後ろで引き戸が開く音がした。「亜紀ちゃんごめん。本当にごめん」背後から彼の声が聞こえた。顔を見てないからか、口から勝手に言葉が出てくる。

「しげちゃんの部屋に初めて行った時、抱きしめてキスしてくれたよね、あの時風は冷たかったけどあったかくて嬉しかった。

この間抱きしめて寝てくれたのも凄く嬉しかった。でも私が帰ったら他の女にも同じことしてたの?」

彼は何にも言わなかった。

「許さない!あーもう、本当にむかつく!私は特別な存在なんだって思い上がってた、本当に恥ずかしい。何が一番嫌かっていったらこんなな取り乱した姿見られたのが一番イヤ!何で今日来たの?

もう一週間位経ったら風俗なんて男の人だから別に行ったっていいよって年相応に演じられたのに!普段落ち着いてるのが取り柄なのに、こんなに嫌な姿見せてる、本当にもういや!」
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