第126話 夜の街で

文字数 1,803文字

彼の後についてバーに入ると「うわっ、凄い」と思わず口から出てしまった。店内は大きなグランドピアノで生演奏している女性が見え、置いてあるソファもテーブルも歴史がありそうな素敵な物だった。ざっくりしたことを言うと中世のヨーロッパというイメージだ。

おまけにら大きな窓からは宝石みたいにキラキラ輝く夜景を見下ろすことができた。

店員さんに案内された窓と向かい合って設置されている大きなソファに座ると、彼が1センチも間を空けずに私にくっついて座った。

慣れとは恐ろしいものでこんな座り方されても、そんなに緊張していない自分がいる。

背もたれがとても高くて人の目が気にならないよう配慮されているんだなと変なところで感心した。

「素敵なお店だね」と彼に言うと得意気に「だろ?」と言われた。

歌劇団の男役のようなかっこいい女性店員さんが持ってきてくれたメニューを二人で見て飲み物を選んでいた。

「コスモポリタン、これ海外ドラマで主人公がよく飲んでたやつ、これにしようかな」そう言って彼を見た。

彼はタイミング良くやってきた店員さんに「ノンアルコールビールとコスモポリタン、これはアルコールかなり少なくして、というかノンアルコールで似たようなの作れる?」と聞き「できますよ」と店員さんに快諾された。


彼の発言に唖然として「何で?」と呟いた。

「この後何の予定もないなら一、二杯飲んで気分良く俺の部屋かホテルの部屋行こうかってできるけど、俺深夜ラジオ行かなくちゃいけないでしょ?今亜紀ちゃん酔っても困るし」


「大丈夫、一杯ぐらいなら酔わないから、折角こんな素敵なお店来たんだからカクテル飲ませて」

「駄目、バーに連れて来といてなんだけど急に心配になった。酒って判断力低下させるし」

「心配ってこの後私は新幹線で帰るだけだよ」
「新幹線で寝入って痴漢に遭遇したらどうしようとか、変なナンパ男に捕まったらどうしようとか心配の種が無限に湧いてくる」

「心配しすぎでしょ」
「酒は俺がいない所で飲まないで」
「学校の付き合いの飲み会とかどうすんの」
「体調不良で休んで」

「無理でしょ」彼の無茶苦茶な要求に思わず笑ってしまった。彼は私の肩に手を回して「なぁ頼むよ」と甘えた声を出した。「無理だって、付き合いってあるし」「そこをなんとか」

はたから見たら夜一緒に過ごそうとしつこく誘われて断ってるみたいだなと一人で可笑しくなり笑った。

「心配しなくても今学校の飲み会で飲めないんだよ。今年から学校の飲み会の場所どこになったと思う?」
「佐久平駅前のチェーン店?」
「ううん、学校の体育館。教頭先生がちゃんとブルーシートまでひいてくれるし」

彼はヒッヒッヒと笑った。
「何でわざわざそうなったの?」

「先生達が村の外で飲み会してお金落とすのおかしいって言われて、今年から村の酒屋さんと村の山菜料理専門の小料理屋さんに注文して体育館ですることになったんだよ。

会費は3000円から5000円に上がったしさ、日本酒とビールとウーロン茶しかないし、料理は山菜中心だし、途中で呼んでもない村人続々と乱入してくるし、子供もいっぱい集まってくるし、卒業生までやってきて遊び相手とか喧嘩の仲裁しなくちゃいけなくて最悪だからね、

それを今年に入って三回やらされたの。おまけに職員は車で来てるから一滴もアルコール飲めないんだよ。全部会費払ってない乱入してきた村人が飲むんだよ。可哀想でしょ?だから」

彼はヒッヒッヒと笑いこう言った「じゃあ飲み会はいいけど今飲むのは駄目だから」

「最後にお酒飲んだの三月の駅前のチェーン店でやった送迎会、それ以来一滴も飲んでない、一杯ぐらい飲ませて」

「駄目だから、暫く飲んでなかったら余計酔いやすいだろ?」

「こんなお洒落なバーに連れて来て、お洒飲ませないって頭おかしいの?生き地獄じゃん」そう呟くと「やってもないのに抱きしめて寝させられた俺の気持ちようやくわかった?」と涼しい顔で反論され、ぐぬぬとなった。

その時ちょうど店員さんが私と彼の飲み物を二つ持って来てテーブルに置いた、夜景をバックにしたノンアルコールの飲み物は所謂インスタ映えしそうでとても綺麗だった。

「でも外見は二つともアルコールっぽいかも」そう言うと「機嫌直すの早いな」と彼は笑った。



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