第291話 バレンタインデー

文字数 1,138文字

村の人達は満足したらしく早々に引き上げていった。

丸山さんとスタッフさん達は校長室でお茶を出されているらしい。

私もようやく職員室に帰ってきて一息ついていた。

他の先生達がそれぞれ自分の仕事をしながらも私の方をチラチラとみているのがわかる。

丸山さん達が帰ったら校長室に行って、謝罪しようと思ったその時だった、職員室と続いている校長室の内ドアが開いた。

教頭先生に「山浦先生ちょっと」と呼ばれる。

まだ丸山さん達は中にいるはず、最後の形式的な挨拶をするのだろうか

そう思いながら「失礼します」と中に入った。


私が入ると校長先生がスタッフの方々に「少し丸山さんと山浦先生と話をさせて貰ってもよろしいでしょうか?」と言った。

ディレクターさんが「あっ、じゃあ僕達玄関で待ってるので」と言いスタッフの方々は校長室を出ていった。

校長先生と教頭先生と私と丸山さんの四人だけが部屋の中にいる。

校長先生が口を開いた。「週刊誌の件ですが、あれはお二人で間違い無いですか?」

私は深々と頭を下げた。
「間違いないです。軽率な行動をとってご迷惑をおかけしました」

すると校長先生が優しくこう言った。

「いいんですよ、この週刊誌の女性は山浦先生ではない、誰に聞かれてもです」

机の上に「山の上美容院」とマジックで書かれた例の週刊誌が置かれていた、村の本屋からもオゾンの本屋でも買い占めたのに、美容室は想定外だった。

ふと隣を見ると彼が不服そうな顔をしているのに気がついた、そして止める間も無く喋り出してしまった。

「ちょっと待って下さい校長先生!俺達は真剣に付き合ってるし、誰に迷惑をかけることもしてない。どうしてそんな隠れてコソコソしなくちゃいけないんですか?」

反抗期の中学生か!と心の中で突っ込みながらも慌てて止めた。

「丸山さん、ちょっと」
私が静止するも校長先生は「いいんですよ」と穏やかに言った。

「丸山さんには信じられない話だと思うんですが、うちの村は特殊なんです。プライベートとかプライバシーとかそんな意識は村の人達、特に50代以上の人達にはないんですよ」

彼はまだ納得のいく顔をしていない。校長先生は子供を諭すようにゆっくりと話を続けた。

「昨日、村の美容院でこの雑誌が大騒ぎになって、おまけにネットにも出てたから、今朝6時半に村の人達が学校で集まって大騒ぎしたんですよ」

彼は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

「……大騒ぎって何を騒ぐんですか?」
「不純異性交遊だとか、ふしだらだとか主にそう言った内容ですね。山浦先生ここら辺のひとじゃないから、後ろ盾もいないし、誰かの嫁取りにしようってまだ諦めてない人も多いから」

「不純異性交遊……後ろ盾……嫁取り……」

都会生まれ都会育ちの彼は、聞き慣れない単語に口をパクパクさせている。

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