第22話コスモ山浦

文字数 1,000文字

丸山さんは驚くべきことに、ご飯を食べ終わった後の食器を洗ってくれた。

「私がやりますから」「俺が洗うよ」の押し問答の末に丸山さんが洗って、私が食器を拭いた。

私は丸山さんの横顔を見ながら本当に素敵な人だなと見惚れていた。

リビングに戻ると、何やら中国語で書かれたビニール袋を机の上に出した。

「これ亜紀先生にあげるよ、開けてみて」「もしかして中国のお土産ですか?嬉しいです」

そう言って開けてみると、中から15センチ位のパンダのぬいぐるみが出てきた。

「可愛い」そう手に乗せると、丸山さんが「ごめん、もう同じようなの居たかもしれないんだけど」と指差す先には、ピョンピョンと呼んでいるパンダのぬいぐるみが本棚の上にあった。

「これは私が高校生の時に父親が中国出張行って買ってきたやつなんです。ピョンピョンって名前付けてました」

「お父さんは今」と丸山さんが言いかけたので慌てて「父のことは聞かないで下さい、私も聞かれてもわからないから答えられないけど」と私は無理して笑った。

父は高校三年生の二月に家を出て行ったっきり行方がわかっていない。

でもそんな事丸山さんに話すのは野暮というものだろう。

彼が黙ってしまったので慌てて場を取り繕った。

「ほら、丸山さんが買ってきたパンダは男の子っぽいけど、ピョンピョンはピンクのリボンつけてるから女の子っぽいでしょ?」私がそう言って二匹のパンダを並べると、二つのパンダはちょうど同じ大きさだった。

「恋人同士みたいですよね?」と言うと彼は「そうだな」と笑った。

「ちょっと歳の差は二十歳くらいありそうですけど」とピョンピョンの古びたリボンを笑いながら直した。

「いや、もっと差は短いな」と丸山さんが言った。
「じゃあ何歳ぐらいですか?」「七歳差」

「何でそんなに具体的なんですか」と笑うと「どう七歳差?」と聞かれたので

「自分がピョンピョンだったらってことですか?」「うん、まぁそんな感じ」

「七歳差って28歳、弟とその友人達じゃないですか?絶対無理です、年下が無理です。向こうも無理だと思いますけど」

そう言って笑うと彼もつられて笑った。


「ところで弟さんは今どこにいるの?」ちょっとこの質問も返答に困る。

とにかく戸籍上の弟である智のことだけ答えることにした。

家の複雑な家庭事情を話して、同情は引きたくない。
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