第304話 同窓会
文字数 1,446文字
夜九時、疲れ果ててアパートに帰って来ると台所の窓から部屋の電気が漏れている。
彼が来ているに違いない。
足取り軽く部屋に入ると彼が横になりながらテレビを見ていた。
「来てたなら連絡してよ、大分待った?」
「俺も5分ぐらい前に来た、こんな遅い時間に帰ってくるなんて何かあったの?」
「何かあったどころじゃなくて、ヒロくんのお母さんが経緯を実名入りブログで全世界に公表してくれたから言えるけど、今日は救急車に乗って病院行ったり、親に訴えてやるって言われたり散々なんだよ」
流石に守秘義務があるので充くんの「お母さんが埋められて新しくなった」発言は言えなかったけれど、粗方の事情を説明するも流石の彼もドン引きし何にも言えないようだった。
「いや、世の中には誰かに当たらないと発散できない人っているでしょ?何か少しでも気に入らないと学校や教師が悪いと悪口言う人多いからね」
そう言って悲しく笑うと「そんな仕事辞めろよ」と彼が無茶苦茶なことを言う。社会人はそう簡単に仕事を辞められない。
ここで「辞めてどうすんの」と聞くとこの間の繰り返しになるので「一応好きでやってんだよ」と返した。
ふと春子の「1日でも長いほどつらいよ」という言葉を思い出し、憂鬱になる。
でも今日こんな疲れ果てた日に別れたくない、やっぱり三月でいい。
彼が渋い顔で何かを言いかけたのを遮って明るく振る舞った。
「ご飯食べた?冷蔵庫の余り物で何か作ろうか」
冷蔵庫にあった物で野菜炒めと生姜焼きと豆腐を用意して、彼が富山立山テレビの人から貰ってきた鱒寿司も出して二人で食べていた。
そういえば明日のことも彼に言っておかなければならない。
「実は昨日同窓会でわかったんだけど、その充くんの前の学校の担任が塚田くんだったんだよ」
彼が渋い顔をする。
「嫌な偶然だな、そいつ結婚してたの?」
「結婚してないって言ってたかな。それで明日校長先生と二人で米崎小の校長先生と塚田君に直接会って色々確かめたいことがあって、だから高崎に行ってもよろしいでしょうか?」
正座しながら深々と頭を下げた。別にそこまで悪いと思っている訳ではないけれど、嫉妬深い彼がきっと嫌な気持ちになっているだろうと思ったからだ。
「いいも何も校長先生同伴の仕事だろ?」
「うん、交通費は校長先生のポケットマネーで出してくれるらしい。でも嫌な気するかなって思って」
「嫌な気はするけれど仕方ないだろ?俺のことも付き合いでキャバ行こうがどこ行こうが何にも言わないでいてくれてるから」
「嫌な気はするけれど仕方ない。付き合いって大事なんでしょ?」
そう言って二人で目を合わせて笑った。
「それにしても昨日はいきなり兄ちゃんが電話にでてびっくりした。何でだよ!」
今日色々なことがあり過ぎてそのことをすっかり忘れていた。私はこの人に腹が立っていた。
「背中にキスマークつけるからでしょ?何であんなことしたの?」
「魔除けだ、変な男が近寄って来たらどうしようって心配だったんだ」
相変わらずの嫉妬深さに開いた口が塞がらない。
「本当に最低。義政先生がすっごい怒ってくれてた」
「兄ちゃんの声聞いてたら、目が覚めた。あっこれ普通の同窓会だ、俺なんでこんなに気にしてたんだろって、本当に悪かった」
けれど私は彼に甘い、激甘だ。
項垂れている彼が可愛くてすぐに怒りが収まってしまった。
「今頃?」そう笑うと彼も笑った。
彼となんてことない会話をしながらご飯を食べた。
こんなに疲れた日は彼に抱きしめられながら寝たい。
今日だけは春子が言っていた言葉を忘れよう。
彼が来ているに違いない。
足取り軽く部屋に入ると彼が横になりながらテレビを見ていた。
「来てたなら連絡してよ、大分待った?」
「俺も5分ぐらい前に来た、こんな遅い時間に帰ってくるなんて何かあったの?」
「何かあったどころじゃなくて、ヒロくんのお母さんが経緯を実名入りブログで全世界に公表してくれたから言えるけど、今日は救急車に乗って病院行ったり、親に訴えてやるって言われたり散々なんだよ」
流石に守秘義務があるので充くんの「お母さんが埋められて新しくなった」発言は言えなかったけれど、粗方の事情を説明するも流石の彼もドン引きし何にも言えないようだった。
「いや、世の中には誰かに当たらないと発散できない人っているでしょ?何か少しでも気に入らないと学校や教師が悪いと悪口言う人多いからね」
そう言って悲しく笑うと「そんな仕事辞めろよ」と彼が無茶苦茶なことを言う。社会人はそう簡単に仕事を辞められない。
ここで「辞めてどうすんの」と聞くとこの間の繰り返しになるので「一応好きでやってんだよ」と返した。
ふと春子の「1日でも長いほどつらいよ」という言葉を思い出し、憂鬱になる。
でも今日こんな疲れ果てた日に別れたくない、やっぱり三月でいい。
彼が渋い顔で何かを言いかけたのを遮って明るく振る舞った。
「ご飯食べた?冷蔵庫の余り物で何か作ろうか」
冷蔵庫にあった物で野菜炒めと生姜焼きと豆腐を用意して、彼が富山立山テレビの人から貰ってきた鱒寿司も出して二人で食べていた。
そういえば明日のことも彼に言っておかなければならない。
「実は昨日同窓会でわかったんだけど、その充くんの前の学校の担任が塚田くんだったんだよ」
彼が渋い顔をする。
「嫌な偶然だな、そいつ結婚してたの?」
「結婚してないって言ってたかな。それで明日校長先生と二人で米崎小の校長先生と塚田君に直接会って色々確かめたいことがあって、だから高崎に行ってもよろしいでしょうか?」
正座しながら深々と頭を下げた。別にそこまで悪いと思っている訳ではないけれど、嫉妬深い彼がきっと嫌な気持ちになっているだろうと思ったからだ。
「いいも何も校長先生同伴の仕事だろ?」
「うん、交通費は校長先生のポケットマネーで出してくれるらしい。でも嫌な気するかなって思って」
「嫌な気はするけれど仕方ないだろ?俺のことも付き合いでキャバ行こうがどこ行こうが何にも言わないでいてくれてるから」
「嫌な気はするけれど仕方ない。付き合いって大事なんでしょ?」
そう言って二人で目を合わせて笑った。
「それにしても昨日はいきなり兄ちゃんが電話にでてびっくりした。何でだよ!」
今日色々なことがあり過ぎてそのことをすっかり忘れていた。私はこの人に腹が立っていた。
「背中にキスマークつけるからでしょ?何であんなことしたの?」
「魔除けだ、変な男が近寄って来たらどうしようって心配だったんだ」
相変わらずの嫉妬深さに開いた口が塞がらない。
「本当に最低。義政先生がすっごい怒ってくれてた」
「兄ちゃんの声聞いてたら、目が覚めた。あっこれ普通の同窓会だ、俺なんでこんなに気にしてたんだろって、本当に悪かった」
けれど私は彼に甘い、激甘だ。
項垂れている彼が可愛くてすぐに怒りが収まってしまった。
「今頃?」そう笑うと彼も笑った。
彼となんてことない会話をしながらご飯を食べた。
こんなに疲れた日は彼に抱きしめられながら寝たい。
今日だけは春子が言っていた言葉を忘れよう。