第293話 同窓会
文字数 1,538文字
翌朝、私は六時に目が覚めたので朝食を勝手に作って食べた。夜中の十二時に帰ってきた彼はまだ起きない。
同窓会に行く用の服に着替えてメイクも髪型もバッチリ整え終わった午前九時、流石に彼を起こしにかかった。
「ちょっと起きて、十時十五分の新幹線乗るんでしょ?」彼の肩をたたくと彼が薄く目を開けた。
「次はその綺麗な格好で俺を骨抜きにするのか。朝は俺に攻めさせてよ」
「何馬鹿なこと言ってんの?ほらもう九時、後一時間十五分しかないよ」
「あーもうそんな時間、嫌だな行きたくないな」
そう嘆く彼を無理やり起こし浴室に連れて行った。
彼がシャワーを浴びている間、ちょっと髪型が崩れたので持ってきたミニコテでまた髪を巻いていた。彼がシャワーから出てきて「何で髪巻いてんの?」と不機嫌そうに言った。
「いいじゃん、わたしだってたまにはお洒落したいの。最後に巻いたの二年前の友達の結婚式だから、ほら早く洋服着て東京駅まで行こう」
「何このズボン、ちょっと体のライン出すぎだろ?」
「重ちゃんがスカート履くなって言ってくるから、パンツスーツにしたんでしょ?」
「ジャージで行け、ジャージで」と彼が不服そうに呟いた。
そして東京駅でもこの会話は繰り返されることになる。
見送りについてきた新幹線の下りホームは人が疎らにいる程度だった。
「同窓会行くのやめてよ、一緒に京都行かない?紅葉が綺麗だよ」
「だから今冬で同窓会なんか行っても何にもないって言ってんでしょ?」
「男がずっと好きだったんだって寄ってくるかも」
「だから寄ってきたところで、まともな35歳はみんな結婚してるから!」
彼が私を指さした。
「わーまともじゃない」
正直かなり苛つく、自分がまともではないのはよくわかっている。
「だから、私何があっても不倫だけはしないし!」
「男が飲み物に変な薬混ぜて来るかも」
「混ぜてくる訳ないでしょうが!ねぇ、この会話北澤さんとマネージャーさんがどんな気持ちで聞いてると思うの!」
そう言ってホームのベンチに背中合わせに座っているマネージャーさんと北澤さんを見た。
ここにきた時に彼がここに座ろうといい、よくよく見ると真後ろに知っている二人がいた。
マネージャーさんはスマホを触っていて、北澤さんは腕組みをして寝たふりをしている。
「あいつらのことなんてどうでもいいだろ?風景みたいなもん」
「冗談にしても自分を支えてくれてる人達を風景ってどういう神経してるの!」
「風景は風景だから、なぁ一緒に京都行こうよ、同窓会なんか楽しくないから。俺嫌な予感がするんだよ」
北澤さんが後ろを振り返って叫んだ。
「そんなに心配なら早く結婚せぇ!」
テレビでよく見るセリフだ。彼は一瞬顔を顰めてこちらをみなおった。
「よしっ、じゃあ風景1の言うように結婚しようか」
彼は結婚という言葉をとりあえず出しとけば、私がなんでも言うことを聞いてくれる魔法の言葉だと思っている。
「……今の彼女と結婚するくらいなら地獄に行くって言ってる人に調子良くそんな事言われたくない!」
そう言うと彼の顔は引きつった。
背後で「あいつあんだけ大口叩く癖に亜紀ちゃんに何のフォローもしてなかったんだ」「みたいですね」という話し声が聞こえてきた。
そして遠くから風を切る音がして段々新幹線が近づいて来たと思ったらあっという間にホームに入線した。
「ほら新幹線来たから仕事行って、私も行くから」そう言うと「亜紀、あれはテレビ用に言ってるネタで、一回使ったからウケが良くて」
「丸山さんもう行きますよ」
マネージャーさんに促され、彼は渋々新幹線に乗り込んだ。
窓際は北澤さんが座っているようで満面の笑みで手を振ってくれていたのを振り返した。
おそらく口の動きから「亜紀ちゃーん」と言っている気がする。
本当に北澤さんっていい人。
同窓会に行く用の服に着替えてメイクも髪型もバッチリ整え終わった午前九時、流石に彼を起こしにかかった。
「ちょっと起きて、十時十五分の新幹線乗るんでしょ?」彼の肩をたたくと彼が薄く目を開けた。
「次はその綺麗な格好で俺を骨抜きにするのか。朝は俺に攻めさせてよ」
「何馬鹿なこと言ってんの?ほらもう九時、後一時間十五分しかないよ」
「あーもうそんな時間、嫌だな行きたくないな」
そう嘆く彼を無理やり起こし浴室に連れて行った。
彼がシャワーを浴びている間、ちょっと髪型が崩れたので持ってきたミニコテでまた髪を巻いていた。彼がシャワーから出てきて「何で髪巻いてんの?」と不機嫌そうに言った。
「いいじゃん、わたしだってたまにはお洒落したいの。最後に巻いたの二年前の友達の結婚式だから、ほら早く洋服着て東京駅まで行こう」
「何このズボン、ちょっと体のライン出すぎだろ?」
「重ちゃんがスカート履くなって言ってくるから、パンツスーツにしたんでしょ?」
「ジャージで行け、ジャージで」と彼が不服そうに呟いた。
そして東京駅でもこの会話は繰り返されることになる。
見送りについてきた新幹線の下りホームは人が疎らにいる程度だった。
「同窓会行くのやめてよ、一緒に京都行かない?紅葉が綺麗だよ」
「だから今冬で同窓会なんか行っても何にもないって言ってんでしょ?」
「男がずっと好きだったんだって寄ってくるかも」
「だから寄ってきたところで、まともな35歳はみんな結婚してるから!」
彼が私を指さした。
「わーまともじゃない」
正直かなり苛つく、自分がまともではないのはよくわかっている。
「だから、私何があっても不倫だけはしないし!」
「男が飲み物に変な薬混ぜて来るかも」
「混ぜてくる訳ないでしょうが!ねぇ、この会話北澤さんとマネージャーさんがどんな気持ちで聞いてると思うの!」
そう言ってホームのベンチに背中合わせに座っているマネージャーさんと北澤さんを見た。
ここにきた時に彼がここに座ろうといい、よくよく見ると真後ろに知っている二人がいた。
マネージャーさんはスマホを触っていて、北澤さんは腕組みをして寝たふりをしている。
「あいつらのことなんてどうでもいいだろ?風景みたいなもん」
「冗談にしても自分を支えてくれてる人達を風景ってどういう神経してるの!」
「風景は風景だから、なぁ一緒に京都行こうよ、同窓会なんか楽しくないから。俺嫌な予感がするんだよ」
北澤さんが後ろを振り返って叫んだ。
「そんなに心配なら早く結婚せぇ!」
テレビでよく見るセリフだ。彼は一瞬顔を顰めてこちらをみなおった。
「よしっ、じゃあ風景1の言うように結婚しようか」
彼は結婚という言葉をとりあえず出しとけば、私がなんでも言うことを聞いてくれる魔法の言葉だと思っている。
「……今の彼女と結婚するくらいなら地獄に行くって言ってる人に調子良くそんな事言われたくない!」
そう言うと彼の顔は引きつった。
背後で「あいつあんだけ大口叩く癖に亜紀ちゃんに何のフォローもしてなかったんだ」「みたいですね」という話し声が聞こえてきた。
そして遠くから風を切る音がして段々新幹線が近づいて来たと思ったらあっという間にホームに入線した。
「ほら新幹線来たから仕事行って、私も行くから」そう言うと「亜紀、あれはテレビ用に言ってるネタで、一回使ったからウケが良くて」
「丸山さんもう行きますよ」
マネージャーさんに促され、彼は渋々新幹線に乗り込んだ。
窓際は北澤さんが座っているようで満面の笑みで手を振ってくれていたのを振り返した。
おそらく口の動きから「亜紀ちゃーん」と言っている気がする。
本当に北澤さんっていい人。