第356話 五月の新緑
文字数 2,356文字
翌日さくらちゃんは普通に出勤して来た。
廊下でたまたま出会ったので「大丈夫?」と聞くと「一晩考えた結果、私は絶対諦めません!」と明るく言われたので安堵と憂慮が同時に襲ってきた。
午後六時、援助交際で補導された誠子さんの家に家庭訪問に行った。
さくらちゃんはご両親が来て一緒にご飯を食べに行くらしいので私が塚田君について行った。
家庭訪問に行き私達を見た誠子さんは嬉しそうだった。
お母さんは相変わらず帰ってこないが、お父さは夜九時ぐらいになるが毎日帰ってきて一緒にご飯を食べるようになったらしい。
あの時はあんな粗暴な態度を取っていたが、お父さんもパニックになっていたのだろう。
そして私達の話をウンウン頷きながらす聞いてくれていたお母さんよりも、お父さんの方が誠子さんに愛情を注いでくれているこの皮肉。
一時間ぐらいとりとめもないことを喋っているとお父さんが帰ってきたので、少し挨拶をして家を後にした。
お父さんは前見た時と違って優しい表情になっていたのが印象的だった。
家庭訪問後、塚田君が国道を運転しながら「山浦さんの実家の近くにある足湯ってまだやってるの?」と聞いてきた。
うちの実家の近くには十数年前に村起こしで作られた広い足湯と温泉施設がある。一時期閉館していたが足湯ブームに乗り復活し割と人気があるらしいと聞いたことがある。
「わかんないな、去年実家見た時は見てないしな。でもあそこ足湯ブームの時は一時期人気スポットだったらしいよ」
「今からちょっと行ってみない?」
突然の塚田君の提案に少し驚いた。
「いいよ、懐かしいから行ってみたいかも」
そういえばたかちゃんから塚田君と出かけることがあったら呼んでくれと言われている。
「塚田君、そういえばたかちゃんも呼んでいいかな?」
塚田君は「勿論だよ」と快諾してくれた。
ちょうど通り道にあったたかちゃんの家に寄ってたかちゃんを乗っけると懐かしい実家方面へと車を走らせる。
三人で楽しく会話しながら山を登っていくと三十分後、私が通っていた小学校が森の中にぽつんと見えてきた、
「うわっ、懐かしい」
「寄ってちょっと見てく?」
車は駐車場で止まって外に出た。暫く母校の懐かしさに浸っていた、随分前に閉校したはずだが、割と綺麗に手入れされている。
村の人達が手入れしているのだろう。
そこで私はようやく思い出した。
「塚田君、ここ前に二人で来たね」
「そうだね、懐かしいよ」
たかちゃんが驚いた。
「二人で来たことあるの?」
「大学生の頃来たよね、あのブランコに乗ってその時にお母さんが行方不明って電話かかってきて帰ったんだ」
「そうだったな」
塚田君が懐かしそうに相槌を打った。
ふと夜空を見上げると満月が明るくこちらを照らし、春の大三角形がキラキラと輝いている。
たかちゃんは電話がかかってきたらしく、「ちょっとかけてくるね」と遠くに行ってしまった。
二人で何となくブランコに座ると急に記憶が蘇る。あの日も確か満月で月明かりが私達を照らしていた。
「あの時、塚田君は海外に行きたいって言ってたような気がする。本当に夢叶えたじゃん凄いよ」
塚田君は青年海外協力隊で三年間カンボジアに行っていた。
「そんなこと話してたような気もするな」
塚田君は穏やかに笑った。
塚田君は少し年とっていたけれど、不思議と当時の塚田君と重なった。
あの日の始まったばかりの春の夜の匂い、ひんやりと冷やしてくる肌寒さ、塚田君が隣にいるという緊張感、パンドラの箱が開けられ、全てが一瞬で蘇る。
思わず塚田君と数秒間見つめ合った。
たかちゃんが遠くから走ってきて我に返った。
「そろそろ行きましょう」
たかちゃんがそう言うので「行こう」と返事をした。
また三人で車に乗り込むと足湯を目指した。約十分後、温泉施設についた。
けれどもそこはこの不景気に負けて三ヶ月前にもう閉鎖したらしくコーンが立っていて入れないようになっていた。
「行ってみたかったのに、やっぱり少しでもタイミングがずれると行けないね」
とたかちゃんが寂しそうに呟いた。
あの時、私と塚田君はタイミングがずれて付き合えなかった。それだけではなく物理的に付き合うのを許される環境ではなかった。
そして今も付き合うのが許される環境ではない。
塚田君に学校まで送って貰い別れた。
部屋で一人、真っ暗な部屋で座り込む。熱にうなされたように体が熱い。
ぼんやりと今日開けられてしまったパンドラの箱を考えていた。
別に脳内で好きで居る分には誰にも迷惑かけていない、素直に認めよう。私は塚田君が好きなのだろう。
あの時と同じく完全に泥沼にハマってしまった。
翌日、学校でラビッツの丸山さんのファンの寺下君がいつものように日記を持って塚田君の所に行こうとしていた。
本当はちゃんと担任として私が話を聞かなければならない。彼を呼び止めると日記を見た、日記には丸山さんがラオスに行って謎の生命体を追わされた話が書いてあった。
丸山さんも仕事を頑張っているらしい
寺下君が熱弁する丸山さんの話を楽しく聞いた。廊下を通りかかったさくら先生が唖然とその様子を見ていた。
夜家に帰ると智とやっさんが来た。「テレビ買おうかな」そう言うと「大画面でゲームができる」と智とやっさんは喜んでいた。
「あんたいつも家来てるけど赤ちゃんの世話しなくていいの?」
「この時間はもう勇が寝るから、お姉さんの家で遊んで来てって言われるんだよ」
確かに智が家にいたら煩い、一人でもうるさい。微力ながら私も甥っ子と美子ちゃんの役に立っているらしい。
智達が帰った後、寝ようとしても眠れない。
明日は土曜日なのに朝早くから一日研修で潰される、寝なくちゃいけないことはわかってるけれど眠れない。
あの時の塚田君の眼差しを思い出して鼓動が早くなる、どうかしている。
あの時、塚田君は何を思っていたのだろうか。
廊下でたまたま出会ったので「大丈夫?」と聞くと「一晩考えた結果、私は絶対諦めません!」と明るく言われたので安堵と憂慮が同時に襲ってきた。
午後六時、援助交際で補導された誠子さんの家に家庭訪問に行った。
さくらちゃんはご両親が来て一緒にご飯を食べに行くらしいので私が塚田君について行った。
家庭訪問に行き私達を見た誠子さんは嬉しそうだった。
お母さんは相変わらず帰ってこないが、お父さは夜九時ぐらいになるが毎日帰ってきて一緒にご飯を食べるようになったらしい。
あの時はあんな粗暴な態度を取っていたが、お父さんもパニックになっていたのだろう。
そして私達の話をウンウン頷きながらす聞いてくれていたお母さんよりも、お父さんの方が誠子さんに愛情を注いでくれているこの皮肉。
一時間ぐらいとりとめもないことを喋っているとお父さんが帰ってきたので、少し挨拶をして家を後にした。
お父さんは前見た時と違って優しい表情になっていたのが印象的だった。
家庭訪問後、塚田君が国道を運転しながら「山浦さんの実家の近くにある足湯ってまだやってるの?」と聞いてきた。
うちの実家の近くには十数年前に村起こしで作られた広い足湯と温泉施設がある。一時期閉館していたが足湯ブームに乗り復活し割と人気があるらしいと聞いたことがある。
「わかんないな、去年実家見た時は見てないしな。でもあそこ足湯ブームの時は一時期人気スポットだったらしいよ」
「今からちょっと行ってみない?」
突然の塚田君の提案に少し驚いた。
「いいよ、懐かしいから行ってみたいかも」
そういえばたかちゃんから塚田君と出かけることがあったら呼んでくれと言われている。
「塚田君、そういえばたかちゃんも呼んでいいかな?」
塚田君は「勿論だよ」と快諾してくれた。
ちょうど通り道にあったたかちゃんの家に寄ってたかちゃんを乗っけると懐かしい実家方面へと車を走らせる。
三人で楽しく会話しながら山を登っていくと三十分後、私が通っていた小学校が森の中にぽつんと見えてきた、
「うわっ、懐かしい」
「寄ってちょっと見てく?」
車は駐車場で止まって外に出た。暫く母校の懐かしさに浸っていた、随分前に閉校したはずだが、割と綺麗に手入れされている。
村の人達が手入れしているのだろう。
そこで私はようやく思い出した。
「塚田君、ここ前に二人で来たね」
「そうだね、懐かしいよ」
たかちゃんが驚いた。
「二人で来たことあるの?」
「大学生の頃来たよね、あのブランコに乗ってその時にお母さんが行方不明って電話かかってきて帰ったんだ」
「そうだったな」
塚田君が懐かしそうに相槌を打った。
ふと夜空を見上げると満月が明るくこちらを照らし、春の大三角形がキラキラと輝いている。
たかちゃんは電話がかかってきたらしく、「ちょっとかけてくるね」と遠くに行ってしまった。
二人で何となくブランコに座ると急に記憶が蘇る。あの日も確か満月で月明かりが私達を照らしていた。
「あの時、塚田君は海外に行きたいって言ってたような気がする。本当に夢叶えたじゃん凄いよ」
塚田君は青年海外協力隊で三年間カンボジアに行っていた。
「そんなこと話してたような気もするな」
塚田君は穏やかに笑った。
塚田君は少し年とっていたけれど、不思議と当時の塚田君と重なった。
あの日の始まったばかりの春の夜の匂い、ひんやりと冷やしてくる肌寒さ、塚田君が隣にいるという緊張感、パンドラの箱が開けられ、全てが一瞬で蘇る。
思わず塚田君と数秒間見つめ合った。
たかちゃんが遠くから走ってきて我に返った。
「そろそろ行きましょう」
たかちゃんがそう言うので「行こう」と返事をした。
また三人で車に乗り込むと足湯を目指した。約十分後、温泉施設についた。
けれどもそこはこの不景気に負けて三ヶ月前にもう閉鎖したらしくコーンが立っていて入れないようになっていた。
「行ってみたかったのに、やっぱり少しでもタイミングがずれると行けないね」
とたかちゃんが寂しそうに呟いた。
あの時、私と塚田君はタイミングがずれて付き合えなかった。それだけではなく物理的に付き合うのを許される環境ではなかった。
そして今も付き合うのが許される環境ではない。
塚田君に学校まで送って貰い別れた。
部屋で一人、真っ暗な部屋で座り込む。熱にうなされたように体が熱い。
ぼんやりと今日開けられてしまったパンドラの箱を考えていた。
別に脳内で好きで居る分には誰にも迷惑かけていない、素直に認めよう。私は塚田君が好きなのだろう。
あの時と同じく完全に泥沼にハマってしまった。
翌日、学校でラビッツの丸山さんのファンの寺下君がいつものように日記を持って塚田君の所に行こうとしていた。
本当はちゃんと担任として私が話を聞かなければならない。彼を呼び止めると日記を見た、日記には丸山さんがラオスに行って謎の生命体を追わされた話が書いてあった。
丸山さんも仕事を頑張っているらしい
寺下君が熱弁する丸山さんの話を楽しく聞いた。廊下を通りかかったさくら先生が唖然とその様子を見ていた。
夜家に帰ると智とやっさんが来た。「テレビ買おうかな」そう言うと「大画面でゲームができる」と智とやっさんは喜んでいた。
「あんたいつも家来てるけど赤ちゃんの世話しなくていいの?」
「この時間はもう勇が寝るから、お姉さんの家で遊んで来てって言われるんだよ」
確かに智が家にいたら煩い、一人でもうるさい。微力ながら私も甥っ子と美子ちゃんの役に立っているらしい。
智達が帰った後、寝ようとしても眠れない。
明日は土曜日なのに朝早くから一日研修で潰される、寝なくちゃいけないことはわかってるけれど眠れない。
あの時の塚田君の眼差しを思い出して鼓動が早くなる、どうかしている。
あの時、塚田君は何を思っていたのだろうか。