第190話 クリスマスイブ

文字数 1,086文字

「くっそ!可愛いな!誰か俺に時間をくれ」
彼はそう言うと悲しそうに肩を落とした。

「この後打ち上げで夜遅くまで飲まなきゃいけないし、明日朝早くから仕事って昨日電話で言ったじゃん!あーもう、何で本当に頷いちゃうの?!しかもちょっと迷って考えてって一番可愛いパターンで頷くの?俺マジで打ち上げ行きたくなくなったじゃんか!」

テンション高い彼とは裏腹に怒りで震えていた。そういえばそんな事言ってた。また騙されてしまった。

「何でそうやって人の事すぐ騙すの?酷くない?」
彼は私の怒りなんか全く聞いちゃいない。ニコニコ顔でこう言った。

「騙してない、俺は嘘つかないことにしている。急病ってことにして、打ち上げサボろう。腹痛がいいかな、頭痛にするかな」
そう言って電話をかけようとした彼を慌てて止めた。

「嘘つかないんでしょ?駄目だって、関係者席にあんなに沢山の人達来てくれてたでしょ?」
「いいよ、殆どっていうかほぼ全員北澤の友人だし。それより今から一緒に家帰ろう!思い出に残るイブの夜を過ごそう」
「主役がいないと打ち上げ始まらないでしょ?」
「打ち上げなんかいいんだよ、酒飲まないって言ってんのに人が入れ替わり来て飲まされるし。さっきから思ってだけど、亜紀今日凄く綺麗だね。そのワンピースも可愛い、ファスナーどこにあるの?背中?」

彼はそう言って明らかにいやらしい目つきで私をみた。

私は大きく息を吸った。一年に一回怒るかどうかというくらい大声をだした。
「駄目だって言ってんでしょ?!ちゃんと打ち上げ行きなさい!」

「……はい、先生ごめんなさい」

彼はスマホをポケットに突っ込んだ。周りの人達はこちらを見たけれどまた自分たちの世界に戻った。東京の人って不思議だ。

「もう帰るから、ちゃんと打ち上げ行って!」

私がそう吐き捨ててベンチを立とうとすると、彼が「わかった、ちゃんと行くからもう一回座って。俺絶対に今日会いたくて無理やり抜け出てきたから」

彼に宥められもう一度座ると、彼が私の肩を抱いて喋り出した。

「とにかく明日日曜だろ?今日は俺の部屋泊まってって、40%の確率で酒に飲まれずに帰ってくるから」

「半分切ってるじゃん、でも着替えとか持ってきてないし」
「後で払ってやるからどっかで買って、渋谷ならどこかに何か売ってるから」
「お金は払わなくていいけど、じゃあせっかくだから東京で可愛いパジャマと服買おう」

どうせ明日もやることはないし、私はこの人に甘いのだ、それに絶対に酔い潰れて帰ってくる予感がしていたから気軽に泊まろうと思った。
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