第138話 夜の街で
文字数 1,783文字
意味がわからなかった。
服が薄い……何かの隠語がと思ったが自分のズボンを見てもジャージだし、上は普通の半袖Tシャツを着ていた。けれどある違和感に気がついた。
その次の瞬間、洗面所にダッシュで逃げて戸を閉めた。ブラジャーをつけ忘れてノーブラだったからだ。
洗面所の床にへたり込んだ、これは恥ずかしい、恥ずかしすぎる。いい大人として恥ずべき行為だ。よりにもよってこんな薄い半袖Tシャツ着てるし。
彼も目のやり場に困っただろうな……逆セクハラ……
六年生の修学旅行前に女子だけ視聴覚教室に集めて生理について保健の先生が説明し、試供品を配る。
教室に戻るとすぐ鞄にしまいなさいと言うけれど、その試供品を男子に見せびらかして男子を恥ずかしがらせて楽しむ女が二年に一人は出現する。
私そいつと同じことしてない?
本当に申し訳ないし、恥ずかしい。
急いで身支度を整え、Tシャツの上からパーカーを羽織った。おそるおそる洗面所のドアを開けると台所には彼はもういなかった。
シンクの中に入っていたお茶をもう一回洗って新しく入れ直すと覚悟を決めて引き戸を開けて中に入った。
彼はゲーム機をつけアリオカーメーをしていた。
私の方を見ずに彼は「また凄いコース作ったね」と呟いた
「あの、新しいお茶です」
彼はまた私を見ずに「ありがとう」と言った。気まずい。
人間の怒りというのは上限が決まっている、自分がしでかしたノーブラ事件により、彼に対する怒りはほぼなくなった。どこへ行ったかというと、それと反比例するように自分のだらしなさへの怒りがどんどん増えていく。
ブラジルまで続く穴があったら入りたい。
「いつから気がついてたの?」
「……来た時から気付くでしょ、細い割に結構胸あるから目立つし」
「早く言ってよ!うわっ、あーもう最悪だ、今日は何でこんな悪いことばっかり起こるんだろ」
そう言って机に顔を伏せた。
アリオメーカーの陽気で軽快な音楽が虚しく部屋に響いている。
「最初の頃はこの子何でいつも上の服だぼっとしたダサいの着てるのって不思議だったけれど、付き合っていくとあー胸隠したいんだってわかった。別に隠さなくてもいいのにな」
彼がこの場を何とかしようとわざと言ってるのはわかっている。彼はとにかく困ったらエロい事を言って場を繋ぐ。
顔を上げて彼を見ると、案の定いやらしい目つきで私の胸元を見ていた。
「こういう目で見てくる人がいるから普通サイズの可愛い服着られなくて嫌なんだけど!」
と彼の顔を指差すと彼は笑った。
「俺はどんな目で見てもいいだろ?」
「何で?エロい目で見たらセクハラだから!」
「言っとくけどな、この間、俺寝ぼけながら結構触ったからな。今更セクハラも何もないでしょ」
この間というのはやる気もないのに抱きしめて寝させられたと彼が主張している日のことだろう。あの時は私も頭がラリっていた。
「最悪だ、今言うことないでしょ?じゃあ開き直って思いっきり体のライン出る服着て街歩くから!」
「他の男に見られたら嫌だから今のままでいい、体のラインが出る服着てたら、会う男みんなエロい目で見てくるけど耐えられる?」
「いやいや男の人はそこまで何にも言ってこないし気にしてないでしょ?女の方がエゲツないこと言って行動に移してくるから!だから嫌なんだよ!」
職場にいる真美先生を思い浮かべた。
「男は見てないフリしてるだけだぞ、男はみんな見てるから、家帰っていい体してたな、どんな胸してるかなって考える。脳がそういう仕様になってるから」
「……あーもう嫌だ、男全員嫌いになりそう」
「性欲にまみれてない男なんていないから」
そう言って彼が笑っているのを複雑な気持ちで見ていた。「その性欲のせいで店に行って今こうやって揉めてるんでしょ?」いう一言を飲み込んだ。
ふと冷静になって思う、これからどうしたらいいんだろう。二度と行かないと言っているけれど、これを許していいのだろうか。いや、やっぱり許せない。
じゃあ別れる……それは嫌だな。こういう時どうしたらいいんだろう。
彼は私が複雑な顔をしているのに気がついたようで急に正座して真面目な顔になった。
「亜紀ちゃん、続きしよう。気が済むまでもっと怒って」
服が薄い……何かの隠語がと思ったが自分のズボンを見てもジャージだし、上は普通の半袖Tシャツを着ていた。けれどある違和感に気がついた。
その次の瞬間、洗面所にダッシュで逃げて戸を閉めた。ブラジャーをつけ忘れてノーブラだったからだ。
洗面所の床にへたり込んだ、これは恥ずかしい、恥ずかしすぎる。いい大人として恥ずべき行為だ。よりにもよってこんな薄い半袖Tシャツ着てるし。
彼も目のやり場に困っただろうな……逆セクハラ……
六年生の修学旅行前に女子だけ視聴覚教室に集めて生理について保健の先生が説明し、試供品を配る。
教室に戻るとすぐ鞄にしまいなさいと言うけれど、その試供品を男子に見せびらかして男子を恥ずかしがらせて楽しむ女が二年に一人は出現する。
私そいつと同じことしてない?
本当に申し訳ないし、恥ずかしい。
急いで身支度を整え、Tシャツの上からパーカーを羽織った。おそるおそる洗面所のドアを開けると台所には彼はもういなかった。
シンクの中に入っていたお茶をもう一回洗って新しく入れ直すと覚悟を決めて引き戸を開けて中に入った。
彼はゲーム機をつけアリオカーメーをしていた。
私の方を見ずに彼は「また凄いコース作ったね」と呟いた
「あの、新しいお茶です」
彼はまた私を見ずに「ありがとう」と言った。気まずい。
人間の怒りというのは上限が決まっている、自分がしでかしたノーブラ事件により、彼に対する怒りはほぼなくなった。どこへ行ったかというと、それと反比例するように自分のだらしなさへの怒りがどんどん増えていく。
ブラジルまで続く穴があったら入りたい。
「いつから気がついてたの?」
「……来た時から気付くでしょ、細い割に結構胸あるから目立つし」
「早く言ってよ!うわっ、あーもう最悪だ、今日は何でこんな悪いことばっかり起こるんだろ」
そう言って机に顔を伏せた。
アリオメーカーの陽気で軽快な音楽が虚しく部屋に響いている。
「最初の頃はこの子何でいつも上の服だぼっとしたダサいの着てるのって不思議だったけれど、付き合っていくとあー胸隠したいんだってわかった。別に隠さなくてもいいのにな」
彼がこの場を何とかしようとわざと言ってるのはわかっている。彼はとにかく困ったらエロい事を言って場を繋ぐ。
顔を上げて彼を見ると、案の定いやらしい目つきで私の胸元を見ていた。
「こういう目で見てくる人がいるから普通サイズの可愛い服着られなくて嫌なんだけど!」
と彼の顔を指差すと彼は笑った。
「俺はどんな目で見てもいいだろ?」
「何で?エロい目で見たらセクハラだから!」
「言っとくけどな、この間、俺寝ぼけながら結構触ったからな。今更セクハラも何もないでしょ」
この間というのはやる気もないのに抱きしめて寝させられたと彼が主張している日のことだろう。あの時は私も頭がラリっていた。
「最悪だ、今言うことないでしょ?じゃあ開き直って思いっきり体のライン出る服着て街歩くから!」
「他の男に見られたら嫌だから今のままでいい、体のラインが出る服着てたら、会う男みんなエロい目で見てくるけど耐えられる?」
「いやいや男の人はそこまで何にも言ってこないし気にしてないでしょ?女の方がエゲツないこと言って行動に移してくるから!だから嫌なんだよ!」
職場にいる真美先生を思い浮かべた。
「男は見てないフリしてるだけだぞ、男はみんな見てるから、家帰っていい体してたな、どんな胸してるかなって考える。脳がそういう仕様になってるから」
「……あーもう嫌だ、男全員嫌いになりそう」
「性欲にまみれてない男なんていないから」
そう言って彼が笑っているのを複雑な気持ちで見ていた。「その性欲のせいで店に行って今こうやって揉めてるんでしょ?」いう一言を飲み込んだ。
ふと冷静になって思う、これからどうしたらいいんだろう。二度と行かないと言っているけれど、これを許していいのだろうか。いや、やっぱり許せない。
じゃあ別れる……それは嫌だな。こういう時どうしたらいいんだろう。
彼は私が複雑な顔をしているのに気がついたようで急に正座して真面目な顔になった。
「亜紀ちゃん、続きしよう。気が済むまでもっと怒って」