第337話 四月の風

文字数 1,684文字

入学式の後、クラスの子供達と対面した。この五年間、山の上村の素朴ないい子達しかみていなかったので久しぶりに見る都会の子に戸惑いを覚えた。

最初に私が教室に入ってきたのを軽く見た後また友達同士で大騒ぎし出したのだ。

ここから子供達との勝負は始まっている。

ここで下手に怒鳴るのは逆効果だ。女がいくら怒ってもこう言う子達にとって一つも怖くないことを私は知っている。

子供達が全員話すのを辞めるまで腕組みして子供達を睨んだ。

二十分後、私はこの勝負に勝ち話し始めた。自己紹介をすると、子供達が飽きたように話し始めたので、また睨んだ。

これの繰り返しだ。

二時間目、指示を守っていない子供には容赦なく怒った。山の上村の子に怒ることは滅多になかったから慣れていないのでしんどい。

「うるせぇババア」と暴言が飛んでこようが、ここで絶対に負けてはいけない。

子供達のためにも、このクラスで何とか授業を成立させなければならないのだ。


1日が終了して職員室に戻ってくると、塚田くんも同じように疲れていた。

「噂通り凄かったね」と声をかけると「子供とヤンキー漫画みたいなガンの付け合い何回もした」と疲れた顔で笑った。

「しんどいよね」
「今日金曜だから今から一杯飲まない?」

塚田君と二人で駅近くの居酒屋で愚痴を言い合いながら飲んでいた。さくら先生は授業の準備をしたいと帰ってしまったので二人で飲んでいた。

塚田君は明日の早朝から草野球をするらしい。
「疲れないの?」
「体動かすの好きだから疲れないよ、日曜は朝からフットサルの大会もあるし」
「凄すぎる、さすが体育会系、元気だね」
「俺にはそれしかないから」
「そんな訳ないじゃん」

二人で目を合わせて笑った。
塚田君と仕事場の同僚としてこうやって飲むのもいいのかもしれない。


その翌日、思いがけない場所で新しい恋が生まれた。

夜七時ごろ、智とやっさんが部屋に遊びにきた。居酒屋にいくとお金を使うのでうちに遊びに来たらしい。

何だよそれと思いながらも、一人でいるより二人が来て馬鹿なことしてる方がまだましなのでそれを受け入れた。

二人でちょいエロの漫画を読んでいたのでその中の一冊を私も読んでいた。

玄関のチャイムが鳴りインターホンを見るとさくら先生が立っていた。背後で「可愛い、誰?」と常に女に飢えているやっさんの声が聞こえる。

さくら先生は私の部屋の4軒隣に住んでいて何かあったらいつても来てと言ってある。

「さくら先生、今開けるね」と玄関に行くと「亜紀先生こんな時間に申し訳ありません。どうしても月曜の授業で相談したいことがあって」
「いいよ入って。あっ今弟とその友人がいるんだけどいいかな?」
「全然、弟さんたちのご迷惑でなければ」

そう言って部屋に案内すると、何故だかやっさんの髪型がさっきと変わっていて、エロ漫画はどこかに隠されたようだ。

二人揃って正座をしている。

「どうしたの?」

私の問いかけには答えずにやっさんは正座で頭を下げた。
「初めまして、僕は亜紀さんの弟の友人で実の姉のように慕っています。屋敷一樹と申します」
「弟の山浦智と申します」



嫌な予感がする。

さくら先生も正座して「ご丁寧にありがとうございます。内田さくらと申します」と挨拶をしてくれた。

「ちょっと今から仕事の話するから、隅の方でおとなしくしてて」というと、やっさんと智は「はい」という返事をして隅の方でまた正座をした。

二十分後、さくらちゃんが帰るとやっさんは「かわいい」と叫んだ。

嫌な予感が的中した。

「でもあの子彼氏いるって、写真見たけどイケメンで今東京でコールドマンソックスって有名な外資系靴下企業で働いてるらしいよ」

「亜紀さん、そんなの想定内っすよ!そんな良いところで働いてるなら、他にも女寄ってきて別れる可能性高いッす。俺は別れるまで待ちます」

待ったところで無理だろと思ったがそれは口に出すのはやめた。

「さくらちゃん可愛いな、フレッシュな感じが姉ちゃんと大違いだな」と智までもが言うので「あんた来週奥さんと子供帰ってくるんでしょうが」と言って蹴飛ばした。

そしてこの件により智とやっさんは頻繁に家に入り浸るようになる。



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