第236話 深夜の訪問者

文字数 1,452文字

その週の水曜日のこと、雪がチラチラと降り積もり、校庭のスケートリンクに3センチほど積もった。

今日も無事に放課後を迎え職員室で事務作業をしていた時だった。

急に校長室に呼ばれ中に入ると何故だか校長、教頭、村長、村議会の面々、観光協会の会長と言った村の重鎮達が勢揃いしていた。そして隅っこに斎藤君が申し訳なさそうに座っている。

教頭先生に一席だけ空いているソファに座るように促され「失礼します」と言い座る。校長先生が私が座ったのを見計らって気まずそうに話を始めた。

「秋の四年生の登山にテレビ来たでしょ?」

空気の読めない教頭先生の数々のファインプレーにより校長先生は私が誰と付き合っているのか知っていると思う。

丸山さんと付き合ってるのが村の重鎮にばれて苦言を呈されるのかと焦った。

普通は誰と付き合おうがそんなの個人の自由だけれどもこの村ではそんな理屈は通用しない。

教頭先生が話を続ける

「その時にヒロくんが、丸山さんに励まされながら山登ってたでしょ?それでヒロくんが嬉しくなっちゃってテレビ局に手紙送ったらしいんだよ。なんかもう一回来てくれ、一緒にヒロくんが考えたコントしてほしいって」

そういえばそんなことヒロ君から聞いた。テレビ局にもう一回丸ちゃん来てって手紙出したと自慢気だった。

教頭先生は話を続ける。
「そんなのテレビ局じゃなくて山浦先生に直接言えばいいのにな」
校長先生が「教頭先生」と嗜めると流石の教頭先生も黙った。

村の重鎮達は何のことかわからない顔をしていたので、この年齢層にはまだ私が彼と付き合っている情報は浸透していないのだろう。

場を繕う為に明るくこう言った。
「ヒロくん、あれ以来お笑い芸人になりたいって言ってますもんね。でも何で今それを?」

教頭先生が嬉しそうに話し始めた。
「そう、それでテレビがもう一回来るんだって、2月14日バレンタインデーに」

そんな話は一回も聞いていないけれどと思いながら話を進めた。

「そうなんですね、わかりました。バレンタインデーですね。覚えやすくていいですね」

私がそう言うとみんなが黙り込んだ。というかなぜこれだけの話に村の重鎮が揃っているのか理解ができない。

「また詳しく決まったら教えて下さい。それでは失礼します」

そう言って立ち上がろうとすると校長先生に止められた。

「それでなんだけど、実は折角だから村のPRもしたいって村長さんが」

村長が意気揚々と話し始めた。
「村の特産品のレタス、村公認ゆるキャラのレタスん映して欲しいんだがな」観光協会の会長が「後、村の天然記念物のニホンザルとか、帽子温泉とか」と言った。

「冥土の土産にワシも写りたい」そう言って村長はガハハと笑った。

教頭先生が「山浦先生のクラスでの撮影がメインになると思うから、何とか頼むよ、ほら山浦先生からも丸山さんにも頼んで」と何故か私を拝んだ。

丸山さんにも頼んでとか言うな。
校長教頭先生と村の人達は大きな誤解をしている。
「ちょっと待って下さい、放送内容は私とか丸山さんがその場で考えて適当に進んでいくんじゃなくて、多分担当のディレクターの人がいて、その人が事前にある程度決めておくと思うんですよ。

だから教頭先生、担当者に連絡とって事前にこうしたいってこと連絡しておいたらいかがでしょうか?あっ全部の要求を聞いてもらうのはむりですからね、半分通ればラッキーぐらいに思って下さいね」

そう言ってとにかく重苦しい空気の校長室を振り切って出てくることができた。彼は本当に来るのだろうか、でもそんな予定があるなんて聞いていない。
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