第140話 夜の街で

文字数 1,631文字

「えーっと、それ言わなくちゃいけないの?」
「うん」
困惑顔の彼に向かって笑顔を向けた。
「……何かのプレイみたいになってきた。あーっと確か風俗に初めて行ったのは、芸人として本格的に売れてきた27歳の時です。それからハマっちゃって週一で多い時は週三で通っていました」

「何がそんなにいいの?」
「素人だったら後腐れがあって面倒臭いし、自分のやりたくないこともやらないといけないでしょ、店の人は後腐れないし、俺の好きなことだけをやらしてくれる。女の人のいい所だけを味合わせてくれる、あんな楽しい所ないから」

彼の風俗愛を感じて段々と苛々としてきた。それと同時に一体店の中で何をしているのか細かいことがどうしても気になった。


「ふーん、そんな楽しいところなんだ。じゃあ先週の木曜日行った時は何したの?最初から教えて」

彼の顔が更に引きつってボソボソ何か言っている。
「……これ俺を辱しめるプレイだろ」
「いいから教えて」
強い口調で言うと彼は再び正座して気まずそうに喋り始めた。

「……えーっと最初部屋に入ったら……口で色々されて」
「口でってどういうこと!」
「どういうことって……そういうことです。ごめんなさい」

「それから服を脱がされて一緒にお風呂に入って」

「へぇ、一緒にお風呂入るんだ。他人に裸見せて恥ずかしくないの?」
「そういう段階を通り越して興奮するというか」
「ふーん、じゃあお風呂で何するの?」
「お風呂で……えーっと、これも言わなくちゃダメですか?」
「言って下さい!」
「はい、お風呂でまず……」

彼が聞くに耐えないとんでもないことを言っている最中に私は何か不自然な感じに気がつく、この人何か喜んでない?

「お風呂の後は?」
「お風呂の後は、えーっとベッドで……」
彼が更にとんでもないことを嬉しそうに喋り出した。

「やっぱりもういいや、聞いててムカつくだけだし」
「はい、本当にごめんなさい」
彼は正座したまま深々と頭を下げた。

「ごめんなさいって何に対してなの?じゃあ自分で何が悪かったか言ってみて」

彼はとびっきりの笑顔になった。

「はいっ、僕は亜紀ちゃんと付き合ってるのにも関わらず、欲望に負けて風俗店に行ってしまいました。だから」

何故だか満面の笑みで彼は言い訳をし出している。 

「ちょっと待って、この状況喜んでるでしょ?怒られるのが好きな変態なの?だから私がいいんでしょ!」

「違う、違う、今プレイ内容聞かれて怒られてたら新しい性癖に目覚めそうになった。俺正気に戻れ」

彼は自分で自分の頬を引っ叩いた。

「俺は今日謝罪と反省に来た。陵辱叱られプレイをしにきたわけじゃない。言いたいことがあったら何でも言ってくれ」

「27歳の時から今までずっと通ってたって昔付き合ってた人達は怒らなかったの?」

「怒らないよ、面倒になったらすぐ別れてたから」

「……もう最低すぎる」
「……確かに俺最低な奴だった」
部屋に一瞬だけ静寂が訪れたけれど、気まず過ぎて口が勝手に喋り出した。

「普通の人とは何歳から遊び出したの?」
「高校の時からだよ、俺金持ちのぼっちゃんで背も高くてイケメンでモテたからな」
「自分で言うの?」
「事実だから」


「高校の時からずっと遊んできたの?もうドン引き。女で遊んでなかった時期ないんでしょ?」
「……25歳から一年間はやらなかった、女と遊ぶ気しなかった」

彼がそう呟いたので私は「……そう」とだけ言った。そんなことまで正直に言う必要ないのに。

彼が昔好きだったという女の人を思い出した、私が知ってるのは名前は美咲さんで25歳で他の人と結婚して外国に行ったってことだけ。

誰もが踏み込まれたくない領域がある、彼が前に言ってた言葉だ。踏み込んではいけないような気がしていたけれど、口が勝手に喋ってしまった。

「そんなに25歳の時に別れた人が好きだったの?」
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