第230話 伊豆の踊子
文字数 1,767文字
クロワッサンを齧るとさくっとクロワッサンが裂ける音がした。
「朝ごはんも美味しい!」と言うと隣で「喜んでくれて良かった」と言いながら新聞を見ている。
「夕食はこの世の終わりみたいな顔して食べてたよ」
「どうしていいかわからなかったんだよ」
「亜紀は何でもかんでも溜め込むからな、困ったこととか悲しい思いをしたこととか全部俺に話して」
「そうなんだよね。それが私の悪い所だってわかってはいるんだけれど、気がついたらああやって溜め込んでる」
「どうでもいい事はすぐ言い返してくるのにな。じゃあ俺が溜め込んでるのを吐き出させてやる。どうだった?感想を教えて」
「……これって感想を言わなくちゃいけないの?」
「そうだよ、初めて男に抱かれての感想を聞きたい」
私はこういう時にどう言葉を使うのが正解なのか知らなかった。というかネタを振ってきているのだろうか、例の言葉を重ねた。
「じゃあ……普通、何もかも普通」
笑ってくれるかと思ったけれど
「俺もう立ち直れない」
そう言ってソファに寝転んでしまった。
「違うって、普通って言って欲しいのかなって思ったんだって」
「亜紀までもが普通って思ってんだろ?」
「そういう意味じゃなくて、もっとこう凄くとんでもないことされるのかなって思ってたら、普通だったってこと」
「それもいい意味じゃねぇだろ!」
「そういうことじゃなくて……全部正月に読んだレディースコミックの範囲内だったってこと」
「だからそんなものどこで買ってきて読んでんだよ!」
「オゾンの本屋」
「せめてネットで買って。あーもうさっきまで凄くいい気分だったのに、最愛の彼女にレディースコミックと比べられ普通と言われる俺、可哀想」彼はそう言って目を閉じた。
「ちょっと、拗ねないで。じゃあどういう意図で感想を聞いてきたのか教えて、それに合わせて答えるから」
彼が目を閉じながら言った。
「引きつった顔で気持ちいいって言うな、痛いならちゃんと痛いって言って」
彼にしつこく「痛くない?」と聞かれ申し訳なくて「気持ちいい」と嘘をついていたことはバレバレだったらしい。
「……痛いんだよ、とにかく痛い。これ本当に気持ちよくなるの?これでいい?」
そう強い口調で言うと彼は満足そうにニヤリと笑った。
「それでいいんだよ、それで。他にも俺に言いたいことがあったらちゃんと言ってくれ」
「何でも?」
「そうだよ、何でもだよ」
かと言ってここで結婚の話を持ち出すわけにはいかない。この話をする時は別れる覚悟をした時だ。
「一月四日に役場の人と打ち合わせするって言ってたでしょ?斉藤君と斉藤君の妹さんが来た」
彼が機嫌悪そうにこう呟いた。
「まぁ仕事だから仕方ないな」
「それでその場に何故か奥さんも来て、奥さんと妹さんとで嫁小姑戦争を始めて、妹さんに「あー亜紀先生みたいな人にお嫁に来て欲しかった」って奥さんを煽る道具に使われた」
「またそんな事に巻き込まれたんだ」
彼は笑っている。
「その後校長室前で斉藤君と会って正月の番組見てたって話しかけてきてで「何であんなに大事にしてくれてない人と付き合ってるの?」って言われた。他の人から見てそう思うんだってショックだった」
彼はソファから起き上がった。
「大事にしてるから!テレビの一方的な情報だけ信じやがって。俺がどれだけ亜紀のこと愛してるのか知りもしない癖に」
正月のあの番組を思い出して、私も黙り込んだ。そんな気配を敏感に察知して彼は語り出した。
「これからのテレビバラエティはどうなるかわかんねぇけどキャラを演じなきゃいけない場面ってあるんだよ!台本にこう言えって書いてあることもあるの、そんなの真に受けるな」
でもどこまでが本気でどこまでがキャラかわからないんだよね。「頭がおかしい彼女と結婚しない」ってどういうことなの一体。
けれど私はそれを伝えずに黙り込んだ。こういう所がいけないのだと思う。
「それで、それ何て答えたの?」
「嫁小姑戦争で奥さんの味方しない人にいわれたくないって」
「見事にKO勝ちしたな、あいつ付き合ってもない癖に元カレ面すんな」
彼はそう言って笑った。
とにかく美味しい朝ごはんを食べられるだけ食べて、面倒なことはまた後日考えよう。
今度はバターロールを一口齧って「美味しい」と言うと朝食を食べない主義の彼が「そんなに美味しそうに食べるなら俺も食べよう」と隣に座った。
「朝ごはんも美味しい!」と言うと隣で「喜んでくれて良かった」と言いながら新聞を見ている。
「夕食はこの世の終わりみたいな顔して食べてたよ」
「どうしていいかわからなかったんだよ」
「亜紀は何でもかんでも溜め込むからな、困ったこととか悲しい思いをしたこととか全部俺に話して」
「そうなんだよね。それが私の悪い所だってわかってはいるんだけれど、気がついたらああやって溜め込んでる」
「どうでもいい事はすぐ言い返してくるのにな。じゃあ俺が溜め込んでるのを吐き出させてやる。どうだった?感想を教えて」
「……これって感想を言わなくちゃいけないの?」
「そうだよ、初めて男に抱かれての感想を聞きたい」
私はこういう時にどう言葉を使うのが正解なのか知らなかった。というかネタを振ってきているのだろうか、例の言葉を重ねた。
「じゃあ……普通、何もかも普通」
笑ってくれるかと思ったけれど
「俺もう立ち直れない」
そう言ってソファに寝転んでしまった。
「違うって、普通って言って欲しいのかなって思ったんだって」
「亜紀までもが普通って思ってんだろ?」
「そういう意味じゃなくて、もっとこう凄くとんでもないことされるのかなって思ってたら、普通だったってこと」
「それもいい意味じゃねぇだろ!」
「そういうことじゃなくて……全部正月に読んだレディースコミックの範囲内だったってこと」
「だからそんなものどこで買ってきて読んでんだよ!」
「オゾンの本屋」
「せめてネットで買って。あーもうさっきまで凄くいい気分だったのに、最愛の彼女にレディースコミックと比べられ普通と言われる俺、可哀想」彼はそう言って目を閉じた。
「ちょっと、拗ねないで。じゃあどういう意図で感想を聞いてきたのか教えて、それに合わせて答えるから」
彼が目を閉じながら言った。
「引きつった顔で気持ちいいって言うな、痛いならちゃんと痛いって言って」
彼にしつこく「痛くない?」と聞かれ申し訳なくて「気持ちいい」と嘘をついていたことはバレバレだったらしい。
「……痛いんだよ、とにかく痛い。これ本当に気持ちよくなるの?これでいい?」
そう強い口調で言うと彼は満足そうにニヤリと笑った。
「それでいいんだよ、それで。他にも俺に言いたいことがあったらちゃんと言ってくれ」
「何でも?」
「そうだよ、何でもだよ」
かと言ってここで結婚の話を持ち出すわけにはいかない。この話をする時は別れる覚悟をした時だ。
「一月四日に役場の人と打ち合わせするって言ってたでしょ?斉藤君と斉藤君の妹さんが来た」
彼が機嫌悪そうにこう呟いた。
「まぁ仕事だから仕方ないな」
「それでその場に何故か奥さんも来て、奥さんと妹さんとで嫁小姑戦争を始めて、妹さんに「あー亜紀先生みたいな人にお嫁に来て欲しかった」って奥さんを煽る道具に使われた」
「またそんな事に巻き込まれたんだ」
彼は笑っている。
「その後校長室前で斉藤君と会って正月の番組見てたって話しかけてきてで「何であんなに大事にしてくれてない人と付き合ってるの?」って言われた。他の人から見てそう思うんだってショックだった」
彼はソファから起き上がった。
「大事にしてるから!テレビの一方的な情報だけ信じやがって。俺がどれだけ亜紀のこと愛してるのか知りもしない癖に」
正月のあの番組を思い出して、私も黙り込んだ。そんな気配を敏感に察知して彼は語り出した。
「これからのテレビバラエティはどうなるかわかんねぇけどキャラを演じなきゃいけない場面ってあるんだよ!台本にこう言えって書いてあることもあるの、そんなの真に受けるな」
でもどこまでが本気でどこまでがキャラかわからないんだよね。「頭がおかしい彼女と結婚しない」ってどういうことなの一体。
けれど私はそれを伝えずに黙り込んだ。こういう所がいけないのだと思う。
「それで、それ何て答えたの?」
「嫁小姑戦争で奥さんの味方しない人にいわれたくないって」
「見事にKO勝ちしたな、あいつ付き合ってもない癖に元カレ面すんな」
彼はそう言って笑った。
とにかく美味しい朝ごはんを食べられるだけ食べて、面倒なことはまた後日考えよう。
今度はバターロールを一口齧って「美味しい」と言うと朝食を食べない主義の彼が「そんなに美味しそうに食べるなら俺も食べよう」と隣に座った。