第344話 四月の風
文字数 2,799文字
四月最後の土曜の夜、春子と旦那さんの坂本君と塚田君と私の四人で私の部屋でたこ焼きパーティーをしていた。
春子が急に同級生で飲もうと言い出し、このメンツで飲むことが決まったのが二日前だった。
どこの居酒屋も予約がとれなかったから、私の部屋でホームパーティーをすることにした。
坂本夫妻の家はお子さんの世話の為におばあちゃんが来てくれているらしいし。
「いつ来ても亜紀の家は綺麗に片付いてて気持ちいいわ」と春子が叫んだ。
「家は一歩歩けばブロックが足の裏に突き刺さるからな」と坂本君が笑った。
「子供いるんだから仕方ないだろ」と塚田君は呆れたように言い返した。
四人でたこ焼きを作りながら、大学時代の懐かしい話で盛り上がっていた。
思い出したように春子が言った。
「健君は今度ドラマ出るんでしょ?」
「うん、深夜ドラマだけどね。ゴールデンウィークの最終日に登場するって」
「見る見る!どんな役?」
「最初主人公のことを好きなイケメンかと見せかけて実はゲイで主人公の親友兼ライバルになっていくというニッチな役柄らしい」
腐女子趣味のある春子が興奮した。
「すっごい!いい役!健君かっこいいし、上手くやれば一部のマニアから人気出るよ」
坂本君が「山浦さんの弟が変態の餌食にされそうです」と叫んで怒られていた。
「ねぇ、亜紀はそろそろテレビ買わないの?」
春子は未だに私が昔付き合っていた人が誰かを知らない。
「うん、……夏には買おうかな」
夏休みぐらいにはあの人を見ても何とも思わなくなっていたい、でも今のペースで行くと無理だろうな、一年はかかりそうだ。
「別に無くて困らないよ、俺も親が見てるのたまに見る程度で殆ど見ないし」
塚田君がフォローを入れてくれた、本当に優しい。とにかく話題を変えよう。
「それにしても仲良さそうで羨ましいよ、私まさか二人で焼きまんじゅうのこと調べて発表してるときに結婚するなんて思いもしなかった」
坂本君と春子が笑いだした。二人にとって思い出深い出来事のようだ。
「俺たちはあのパンダの絵を引いたのも運命だったんだ」
坂本君が大袈裟に騒ぎ出した。
春子も「もう、止めてよ」と照れだした。
本当に仲が良さそうで羨ましい。
「でも亜紀だって塚田君と調べてたじゃん、塚田君と一緒になれたって、喜びの舞とか言ってリズム感のない小躍りしてたでしょ?」
春子がわざわざ喜びの舞を再現してくた。
「止めて!それ本人の前で言うの止めて!」
塚田君は気まずそうに笑ってる。
最悪だよ本当に。まさかあの喜びの舞が本人にバレるなんて……恥ずかしくて穴があったら入りたい。
そしてあることを思い出した。
「あっ、私あのグループ決めのくじ引きのコアラの絵まだもってる。ちょっと待ってて」
引っ越しの時にそれを見つけたのだ。塚田君とペアになれた宝物だった。
寝室の押し入れからコアラのくじを出してきて見せると三人は歓声を上げた。
「亜紀はすぐ物捨てるのによくこんな物持ってたね」
「うん、何か持ってればまたいい事あるかなって思って」
当時は私の大切なお守りだった、懐かしい。
坂本君と春子は顔を見合わせて「俺達そろそろ帰るね、後は二人でごゆっくり」とそそくさと帰ってしまった。
塚田君と残された部屋はさっきまでの騒がしさが嘘のように急に静まり返ってしまった。
たこ焼きの焼ける音がよく聞こえてくる。
「まだ半分も食べてないのに」
何だか気まずくてそう呟くと塚田君は唐突にこう言った。
「彼女と別れたんだ」
「あっそうなの?早くない?何ヶ月付き合ってたの?」
「四月の最初に別れたから一ヶ月ぐらいかな」
「怖っ、短すぎない?」
「別れたいって思ったら、すぐに別れた方がお互いのためだろ?」
珍しくはっきり物を言う塚田君を見ながら、もし私が塚田君と付き合っていたら一ヶ月で捨てられていたに違いないと考えていた。
塚田君は体育会系の陽キャで私は文化系の陰キャだ。
「そうなのかな、まぁそうだよね。時間をその分無駄に過ごさせちゃうもんね」
そう相槌を打った。
「それに、もう同じことを繰り返したくないし」
塚田君は何故だか私を見つめていた。
「同じこと?」
そう聞き返した時、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴りインターホンにさくらちゃんが映った。
インターホンに映ったさくらちゃんは何故だか泣いている。確か今日は久しぶりに彼氏が部屋に来ると喜んでいたはず。
部屋に招き入れるとさくらちゃんは号泣した。
塚田君を見て「塚田先生」と更に泣き出した。
何とか事情を聞いた。
「彼氏が他に好きな人ができたから別れたいって言って、私を振り払って帰っちゃって」
やっさんの予想していた通りになってしまった。東京でいい会社に就職して東京の女に盗られる。王道っちゃ王道かもしれない。
「まだ若いんだから、次の出会い沢山あるよ」と慰めると塚田君も「そうだよ、元気出して」と近くにあったティッシュをさくらちゃんに差し出した。
その時、何故だかピンポーンともう一度チャイムが鳴りインターホンにたかちゃんが映し出された。
たかちゃんと何度か面識のあるさくらちゃんは泣きながら「たかちゃーん!」と叫んだ。
塚田君は「誰だよこれ」と言わんばかりにインターホンを見ていた。
「噂のゲイの友人が急に来たんだけど、入れてもいいかな?」
「勿論だよ」
優しい塚田君は快諾してくれた。
たかちゃんは部屋に上がってくるなり、泣いているさくらちゃんに気がつかず「もしかして塚田君?」と大興奮した。
「予想の数倍イケメン!かっこいい!亜紀が大学四年間好きだった人!同じ学校になったら付き合おうって約束果たして」
「それ言うの止めて!!」
塚田君は気まずそうに黙り込んでしまった。今の私と塚田君の間で絶対に口にしちゃいけない話題でしょ。
「それより!たかちゃん、さくらちゃんが彼氏に振られちゃったんだって」
そう言うと恋愛経験豊富なたかちゃんは上手な言葉を並べてあっという間にさくらちゃんを泣き止ませてしまった。やっぱりモテる人は経験が違う。
「亜紀はね、前付き合ってた人と別れ話もして貰えずに、電話切られたんだよね」
「たかちゃんその話今言う?まぁだから別れ話してちゃんと別れただけマシだって」
そう言って笑うとさくらちゃんも「そうですか」と少し笑った。
「でも当初の予定の将来の方向性が違うから別れるっていうのより、こっちの滅茶苦茶嫌いになって別れた方が未練残さなくていいよ」
たかちゃんの言うことはごもっともだ。
「そうなんだよ、最近あの人に対しての怒りが少しずつ沸いてきた」
「じゃあもう少しね!後は新しい恋をすれば完璧」
たかちゃんはそう言って私に目配せをした。
「じゃあ次は村長の息子と許されない恋をした話をさくらちゃんにしてあげて」
たかちゃんのリクエストの通りに少しでもさくらちゃんが元気になればと、村の話も含めて面白おかしく話した。
何で塚田君の前でこんな話してるんだろうと思いながらも話してみんなで笑った。
春子が急に同級生で飲もうと言い出し、このメンツで飲むことが決まったのが二日前だった。
どこの居酒屋も予約がとれなかったから、私の部屋でホームパーティーをすることにした。
坂本夫妻の家はお子さんの世話の為におばあちゃんが来てくれているらしいし。
「いつ来ても亜紀の家は綺麗に片付いてて気持ちいいわ」と春子が叫んだ。
「家は一歩歩けばブロックが足の裏に突き刺さるからな」と坂本君が笑った。
「子供いるんだから仕方ないだろ」と塚田君は呆れたように言い返した。
四人でたこ焼きを作りながら、大学時代の懐かしい話で盛り上がっていた。
思い出したように春子が言った。
「健君は今度ドラマ出るんでしょ?」
「うん、深夜ドラマだけどね。ゴールデンウィークの最終日に登場するって」
「見る見る!どんな役?」
「最初主人公のことを好きなイケメンかと見せかけて実はゲイで主人公の親友兼ライバルになっていくというニッチな役柄らしい」
腐女子趣味のある春子が興奮した。
「すっごい!いい役!健君かっこいいし、上手くやれば一部のマニアから人気出るよ」
坂本君が「山浦さんの弟が変態の餌食にされそうです」と叫んで怒られていた。
「ねぇ、亜紀はそろそろテレビ買わないの?」
春子は未だに私が昔付き合っていた人が誰かを知らない。
「うん、……夏には買おうかな」
夏休みぐらいにはあの人を見ても何とも思わなくなっていたい、でも今のペースで行くと無理だろうな、一年はかかりそうだ。
「別に無くて困らないよ、俺も親が見てるのたまに見る程度で殆ど見ないし」
塚田君がフォローを入れてくれた、本当に優しい。とにかく話題を変えよう。
「それにしても仲良さそうで羨ましいよ、私まさか二人で焼きまんじゅうのこと調べて発表してるときに結婚するなんて思いもしなかった」
坂本君と春子が笑いだした。二人にとって思い出深い出来事のようだ。
「俺たちはあのパンダの絵を引いたのも運命だったんだ」
坂本君が大袈裟に騒ぎ出した。
春子も「もう、止めてよ」と照れだした。
本当に仲が良さそうで羨ましい。
「でも亜紀だって塚田君と調べてたじゃん、塚田君と一緒になれたって、喜びの舞とか言ってリズム感のない小躍りしてたでしょ?」
春子がわざわざ喜びの舞を再現してくた。
「止めて!それ本人の前で言うの止めて!」
塚田君は気まずそうに笑ってる。
最悪だよ本当に。まさかあの喜びの舞が本人にバレるなんて……恥ずかしくて穴があったら入りたい。
そしてあることを思い出した。
「あっ、私あのグループ決めのくじ引きのコアラの絵まだもってる。ちょっと待ってて」
引っ越しの時にそれを見つけたのだ。塚田君とペアになれた宝物だった。
寝室の押し入れからコアラのくじを出してきて見せると三人は歓声を上げた。
「亜紀はすぐ物捨てるのによくこんな物持ってたね」
「うん、何か持ってればまたいい事あるかなって思って」
当時は私の大切なお守りだった、懐かしい。
坂本君と春子は顔を見合わせて「俺達そろそろ帰るね、後は二人でごゆっくり」とそそくさと帰ってしまった。
塚田君と残された部屋はさっきまでの騒がしさが嘘のように急に静まり返ってしまった。
たこ焼きの焼ける音がよく聞こえてくる。
「まだ半分も食べてないのに」
何だか気まずくてそう呟くと塚田君は唐突にこう言った。
「彼女と別れたんだ」
「あっそうなの?早くない?何ヶ月付き合ってたの?」
「四月の最初に別れたから一ヶ月ぐらいかな」
「怖っ、短すぎない?」
「別れたいって思ったら、すぐに別れた方がお互いのためだろ?」
珍しくはっきり物を言う塚田君を見ながら、もし私が塚田君と付き合っていたら一ヶ月で捨てられていたに違いないと考えていた。
塚田君は体育会系の陽キャで私は文化系の陰キャだ。
「そうなのかな、まぁそうだよね。時間をその分無駄に過ごさせちゃうもんね」
そう相槌を打った。
「それに、もう同じことを繰り返したくないし」
塚田君は何故だか私を見つめていた。
「同じこと?」
そう聞き返した時、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴りインターホンにさくらちゃんが映った。
インターホンに映ったさくらちゃんは何故だか泣いている。確か今日は久しぶりに彼氏が部屋に来ると喜んでいたはず。
部屋に招き入れるとさくらちゃんは号泣した。
塚田君を見て「塚田先生」と更に泣き出した。
何とか事情を聞いた。
「彼氏が他に好きな人ができたから別れたいって言って、私を振り払って帰っちゃって」
やっさんの予想していた通りになってしまった。東京でいい会社に就職して東京の女に盗られる。王道っちゃ王道かもしれない。
「まだ若いんだから、次の出会い沢山あるよ」と慰めると塚田君も「そうだよ、元気出して」と近くにあったティッシュをさくらちゃんに差し出した。
その時、何故だかピンポーンともう一度チャイムが鳴りインターホンにたかちゃんが映し出された。
たかちゃんと何度か面識のあるさくらちゃんは泣きながら「たかちゃーん!」と叫んだ。
塚田君は「誰だよこれ」と言わんばかりにインターホンを見ていた。
「噂のゲイの友人が急に来たんだけど、入れてもいいかな?」
「勿論だよ」
優しい塚田君は快諾してくれた。
たかちゃんは部屋に上がってくるなり、泣いているさくらちゃんに気がつかず「もしかして塚田君?」と大興奮した。
「予想の数倍イケメン!かっこいい!亜紀が大学四年間好きだった人!同じ学校になったら付き合おうって約束果たして」
「それ言うの止めて!!」
塚田君は気まずそうに黙り込んでしまった。今の私と塚田君の間で絶対に口にしちゃいけない話題でしょ。
「それより!たかちゃん、さくらちゃんが彼氏に振られちゃったんだって」
そう言うと恋愛経験豊富なたかちゃんは上手な言葉を並べてあっという間にさくらちゃんを泣き止ませてしまった。やっぱりモテる人は経験が違う。
「亜紀はね、前付き合ってた人と別れ話もして貰えずに、電話切られたんだよね」
「たかちゃんその話今言う?まぁだから別れ話してちゃんと別れただけマシだって」
そう言って笑うとさくらちゃんも「そうですか」と少し笑った。
「でも当初の予定の将来の方向性が違うから別れるっていうのより、こっちの滅茶苦茶嫌いになって別れた方が未練残さなくていいよ」
たかちゃんの言うことはごもっともだ。
「そうなんだよ、最近あの人に対しての怒りが少しずつ沸いてきた」
「じゃあもう少しね!後は新しい恋をすれば完璧」
たかちゃんはそう言って私に目配せをした。
「じゃあ次は村長の息子と許されない恋をした話をさくらちゃんにしてあげて」
たかちゃんのリクエストの通りに少しでもさくらちゃんが元気になればと、村の話も含めて面白おかしく話した。
何で塚田君の前でこんな話してるんだろうと思いながらも話してみんなで笑った。