第238話 深夜の訪問者

文字数 1,242文字

その日の夕方七時、疲れ果ててアパートに帰ってくると何故だか部屋の電気が付いていた。智が来ているのかと思ったけれど、重ちゃんが来ているような気がした。
ドアを開けるとやっぱり彼の靴があった。
ウキウキしながら台所から部屋へと続く引き戸を開けると、彼がベッドに寝転がっていた。
「来てるなら連絡してよ、早く帰ってきたのに」
「その前にちゃんと鍵かけろ、危ないだろ?」
「たまたま忘れたの」
彼が眠そうに起き上がったのでテンション高く抱きついた。


外が寒すぎて出かけるのが億劫なので冷蔵庫の残り物で適当にご飯を作り二人で食べた。
家には村人から新鮮な野菜が常に届くので自然と野菜中心のメニューになる。
「亜紀の家来た時しか野菜食べない、好きじゃないし」
「小さい頃お母さん相当苦労しただろうね、可愛い息子に何とか野菜食べさせようと悪戦苦闘したんだろうな」
「あーお手伝いさんがいつも作ってくれてたからな」
頭を後ろから殴られたような衝撃だった。初めてこの単語を思い出を語るときに使用する人を見た。
「お手伝いさん?!」
「俺いい家の坊ちゃんだからな」
「あっ、そうかお母さんも働いてたんだ」
「いや、専業主婦だよ」
「じゃあお母さんは掃除と洗濯担当?」
「いいや、二人お手伝いさんがいるからその人達が手分けしてやる」
「じゃあお母さんは何してたの?」
「似たような近所の奥さん方と毎日どこかでお茶会してマウント合戦だぞ。兄ちゃん姉ちゃんはじいちゃんばあちゃんが健在だったから普通に育てられたけど、俺の時はもう入院してたからマウント合戦の材料として勉強ロボットにされた。嫌いな食べ物も食べなくていい、だから勉強しろって」
「ドラマの中だけかと思ったら、本当にそんな世界あるんだ。お母さんも大変だっただろうね」
「うちの母親は意気揚々とそれに参加していくタイプだからな、顔はいいけど頭と性格がかなり悪い」 
何と言っていいかわからず困っていると「違う話しよう、母親苦手なんだよ」と言うので、今日あったバレンタインデーの件を話した。

彼はスマホを取り出してスケジュールを見始めた。

「俺村に行くなんて聞いてないな、その日は違う番組で地方ロケって書いてあるし。スケジュールが合わなくてカメラだけ行って収録するパターンか」

「そんなパターンあるの?ヒロくんが考えたコント一緒にやってほしいって言ってるけど」

「残念ながらたまにあるよ。でも小学生の考えたコント一緒にやるって大やけど確定じゃねぇかよ。それを免れただけでも良かったかな。あーもしかしたら本当に今度こそ北澤行くのかな」

「北澤さん来たら私何話せばいいの?気まず過ぎる。はじめましてでいいのかな」
「初めましてでいいんじゃない?でもあいつラジオ局の前で俺とキスしてるの見たことあるとか言いそう」
「職場でそんな事言われたら私倒れるから」
「それ想像したら俺もかなり嫌だ」
二人で目を合わせて笑うと、彼は「あーあでもな折角のバレンタインデーなのにな、しかも翌日の土曜は夜まで仕事ないのに」そう残念がっていた。












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