第308話 同窓会

文字数 1,229文字

翌日の火曜午後八時、仕事を終え家に帰ってくると疲れたままベッドに倒れ込んだ。

昨日塚田君から「今付き合っている人と別れて自分と付き合って欲しい」と言われた。

自分が幸せになる為にするべき決断はわかっている。

塚田君の言う通り、重ちゃんと別れて塚田君と付き合えばいい。

けれど今重ちゃんと付き合っていて、彼のことを愛している。これは紛れもない事実だ。

でも自分の幸せを考えた時に、彼とは別れなければならない、それも理解している。

けれど彼のことが好きすぎて、別れる決心がつかない自分もまたいる。

おまけに誰かと付き合ってるときに他の誰かと付き合う算段を考えるなんて卑怯だと罵る極論正論モンスターが暴れ狂っている。

一体どうすればいいんだろう。



重ちゃんからメールが来ていたけれど、見る気が起きない。

お風呂に入ろうとすると電話が鳴った。しげちゃんからだった。

「もしもし、いや昨日の言い訳をすると凄く力持ってる人を紹介されちゃって、仕事もらう立場だから、俺風俗大好きだと思われてるし、どうしても断れなかったんだよ。

それで付き合いで仕方なく行かなくちゃいけなくて、本当にごめん。でも俺は途中で亜紀の顔が思い浮かんで萎えた。我に返って強い意志を持って最後までしてないから」

ペラペラと饒舌に喋る彼に小さな溜息が出た。
「……でも楽しく色々したんでしょ?」

「本当に結構いい感じに酔ってたから、途中まで楽しくしてた。それは事実で、でも店出た後の後味の悪さ半端ない」

「どうしてわざわざ言うの?黙っておけばバレなかったのに?」

「この間の週刊誌みたいに嘘ついたら絶対にバレるんだよ。前に二度とこういう店に行かないと約束したのに申し訳ない、本当にごめん」

お互いに何も喋らず数秒の間が空いた。

私に彼を責める権利はない。昨日彼に黙って塚田君とバーにいってお酒を飲んでこんなことになっている。

それに塚田君のことは置いといても、自分の幸せを考えたらこの人とは近いうちに別れなければならない、だから私に怒る権利はない。


「でもまたそれで仕事貰えそうなんでしょ?じゃあ私は何も言える立場じゃない」

「……いや、言ってくれよ。何でそんな冷たいこと言うんだよ」

「冷たくないよ、仕方ないじゃん」

「ごめん、本当にごめん。そっちに行って直接謝りたいけれど、本当に今週死ぬほど忙しくて、だから土日も会えないし、あーどうしようかな」

「ちょっと私も今週なんかてんやわんやしてて色んなことが起きたりもしてて、だから今週いっぱい考える時間が欲しい」


「何それどういうこと?」「……自分と向き合う時間が欲しいから、今週いっぱいそっとしておいて」

「何だよ、そっとしておいてって、よくわかんないけど、わかった、俺が撒いた種だから言う通りにするよ!」


彼は怒ったように電話を切った。

誰かのことを怒る時はその人にわかってほしいから怒る、愛情表現の一部だ。そのことを知っている彼は私に怒って欲しかったのだろう。

大きなため息を一つ吐いてお風呂へと向かった。

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