第50話 ちゃんとした場所
文字数 1,551文字
土曜日の昼、目の前でカレーライスを食べている丸山さんを見ていた。ちゃんとルーとご飯をきっちり半分ずつとって食べる姿を見て、私と同じで神経質だなと見ていた。
「何?あきちゃんどうしたの?」
「ううん」と慌てて視線を逸らした。こんな神経質な人と付き合ってうまくやっていけるのだろうか。決して人のことは言えないくらい私も神経質だけども。
それに、さっきから細めに鳴る彼のスマホを見て、やっぱり不安な気持ちの方が優勢になってきた。
今ならまだ引き返せるだろうか。あの着信の量は業務連絡ではないと思う。
私は自分を守る事を一番に考えてしまう。
ふと我に帰ると、とにかく目の前にいる彼と何か話をしようと思ってこの間の放送で気になったことを聞いてみた。
「事前にどんな風にロケするか考えてるんですか?」
「そう俺は普通は行く前にどういう所を撮るか、その間こういう場面を撮ってもらってって考えてってるし、現地でも神経張り巡らして最終的な仕上がり考えてる。編集する人達が困るからね」
「登山の時も汚れがって気にしてましたもんね」
「でも稀に何にも考えなくても感覚でやって笑いの神がおりてくる奴もいる」
彼はそう言うと眉間にシワを寄せた。
「天然って呼ばれてる人達ですか?」
「そう、羨ましいよな、神が味方してるって」
悔しそうに丸山さんがつぶやいた。その姿を見て誰しもが人を羨む気持ちがあるんだなと何故だかほっとした。
丸山さんがうちに来るのは今日で三回目になる。初めて会った時は九月の初めだったが、今はもう十月になり学校はハロウィンの準備をし出した。
「放送の後暫く亜紀ちゃんの電話繋がらなかったけど、テレビ出てたねって連絡来てた?」「来てましたよ、連絡先知らなかった小学校の同級生まで来ました」
「その中で俺と付き合えばいいのにって言ってきた奴は?」
「ほぼ全員です、だから「丸山さんのネタだって」と言ったら、全員から「だよねー」って言われました」
「いやー困ったな、ネタじゃないのにな」
丸山さんのふざけてるのか真面目なのかわからない呟きに言葉に詰まる。
思い切って自分が今思ってる気持ちを全てぶつけてみようかと思って丸山さんを見つめたけれど、丸山さんのスマホがまた鳴った。
ふと昨日の美香先生の言葉を思い出す。この人はどういうつもりで、今日ここにいるのだろうか。
私と何かしようと思っているのだろうか。
何故だか急に焦り始めてきた。いきなりそれをするのはハードルが高すぎる。
それにやっぱり信用ならなさそうだし。
用事ついでに彼を外に連れ出すことに決めた。
「あの、丸山さん今日はこの後仕事があるわけでもなく無意味に来たんですよね?」
「うん」と頷いた。「じゃあご飯食べ終わったら、今からダム行きませんか?」「ダム?」と丸山さんが怪訝な顔をした。
私の家は新幹線駅の近くにある、そして車で二十分登ると勤務先の学校がある、さらに十分登るとダムに着く。
「実はダムに社会見学に行く用事があって、その下見に行かないといけないんですけど、一人で行くの怖いんです」
「行くのは全然いいけれど、何で怖いの?」
「言葉で言い表せない恐怖なんです!オカルト的な何かでそうな感じがして」
そう言うと彼はフフッと得意気に笑った。
「亜紀ちゃんそういうの怖いんだ」
「怖いです、丸山さん、ダムのこと舐めてますけど、行ったら本当に驚きますよ。ゾクっとしますよ!」
「いいよ、一緒に行こうよ。楽しそうだし」
私が釘をさしても、気にすることなく明るく受諾してくれた彼の顔を見ていた。私はこの顔をずっと見ていたい、けれど自分も傷つきたくない。
なんて我儘な奴なんだろう。
「何?あきちゃんどうしたの?」
「ううん」と慌てて視線を逸らした。こんな神経質な人と付き合ってうまくやっていけるのだろうか。決して人のことは言えないくらい私も神経質だけども。
それに、さっきから細めに鳴る彼のスマホを見て、やっぱり不安な気持ちの方が優勢になってきた。
今ならまだ引き返せるだろうか。あの着信の量は業務連絡ではないと思う。
私は自分を守る事を一番に考えてしまう。
ふと我に帰ると、とにかく目の前にいる彼と何か話をしようと思ってこの間の放送で気になったことを聞いてみた。
「事前にどんな風にロケするか考えてるんですか?」
「そう俺は普通は行く前にどういう所を撮るか、その間こういう場面を撮ってもらってって考えてってるし、現地でも神経張り巡らして最終的な仕上がり考えてる。編集する人達が困るからね」
「登山の時も汚れがって気にしてましたもんね」
「でも稀に何にも考えなくても感覚でやって笑いの神がおりてくる奴もいる」
彼はそう言うと眉間にシワを寄せた。
「天然って呼ばれてる人達ですか?」
「そう、羨ましいよな、神が味方してるって」
悔しそうに丸山さんがつぶやいた。その姿を見て誰しもが人を羨む気持ちがあるんだなと何故だかほっとした。
丸山さんがうちに来るのは今日で三回目になる。初めて会った時は九月の初めだったが、今はもう十月になり学校はハロウィンの準備をし出した。
「放送の後暫く亜紀ちゃんの電話繋がらなかったけど、テレビ出てたねって連絡来てた?」「来てましたよ、連絡先知らなかった小学校の同級生まで来ました」
「その中で俺と付き合えばいいのにって言ってきた奴は?」
「ほぼ全員です、だから「丸山さんのネタだって」と言ったら、全員から「だよねー」って言われました」
「いやー困ったな、ネタじゃないのにな」
丸山さんのふざけてるのか真面目なのかわからない呟きに言葉に詰まる。
思い切って自分が今思ってる気持ちを全てぶつけてみようかと思って丸山さんを見つめたけれど、丸山さんのスマホがまた鳴った。
ふと昨日の美香先生の言葉を思い出す。この人はどういうつもりで、今日ここにいるのだろうか。
私と何かしようと思っているのだろうか。
何故だか急に焦り始めてきた。いきなりそれをするのはハードルが高すぎる。
それにやっぱり信用ならなさそうだし。
用事ついでに彼を外に連れ出すことに決めた。
「あの、丸山さん今日はこの後仕事があるわけでもなく無意味に来たんですよね?」
「うん」と頷いた。「じゃあご飯食べ終わったら、今からダム行きませんか?」「ダム?」と丸山さんが怪訝な顔をした。
私の家は新幹線駅の近くにある、そして車で二十分登ると勤務先の学校がある、さらに十分登るとダムに着く。
「実はダムに社会見学に行く用事があって、その下見に行かないといけないんですけど、一人で行くの怖いんです」
「行くのは全然いいけれど、何で怖いの?」
「言葉で言い表せない恐怖なんです!オカルト的な何かでそうな感じがして」
そう言うと彼はフフッと得意気に笑った。
「亜紀ちゃんそういうの怖いんだ」
「怖いです、丸山さん、ダムのこと舐めてますけど、行ったら本当に驚きますよ。ゾクっとしますよ!」
「いいよ、一緒に行こうよ。楽しそうだし」
私が釘をさしても、気にすることなく明るく受諾してくれた彼の顔を見ていた。私はこの顔をずっと見ていたい、けれど自分も傷つきたくない。
なんて我儘な奴なんだろう。