第307話 同窓会

文字数 1,976文字

こうなったら開き直るしかない。

「あー最悪だ、塚田君にだけはあんな写真見られたくなかったよ」

そう言ってカクテルを一気に飲み干した。動悸が早くなり段々と身体中にアルコールが回ってくる感覚が襲ってくる。こうでもしないとやってられない。

「俺も見て後悔した」
塚田君はそう言ってビールを少し飲んだ。

「でも、確かにあの人、輪郭とか口と耳の位置とか、色んなもの義政先生に似てるよ」
「でしょ?眼鏡かけたらもっと似てるから」

何だか得意気な気分になった。けれど直ぐにあのキツイ自分も知られてるんだと絶望が襲ってくる。

「面白おかしくネタにしてるから、キツイ女って噂されるし、優しそうなフリして実はあんなキツイ女だってこと知られたくなかった」

酔いに任せてそう呟くと塚田君は穏やかに微笑んでくれた。

「でも弟さん達に対しては手厳しかったから、想像つくよ」

フォローのつもりなのか知らないけれど、この塚田君の言葉にかなりのショックを受ける。

「……想像つくんだ。あの人が過去にあまりにだらしない生活をしてたからさ……」

もう暫く立ち直れない。私は優しそうだと思われていると思い上がっていたのが恥ずかしい。

マスターが新しいお酒を用意するか聞いてきたので力無く頷いた。マスターがお酒を作り始めと塚田君が追撃してくる。

「あの人よくテレビで風俗に行った話してるけど、それはいいの?」

「まぁ、テレビだしね。最初の頃それで喧嘩してもう絶対行かないって約束してくれたから。

あっ、でもさっきメールきて付き合いで風俗店に行かないと行けなくなったって謝ってきた。本当に最低だよ」

そう言って自虐的に笑った。

「俺はもう一つ聞いてみたい事があるんだけど、昨日もテレビで相方に「早く結婚しろ」って言われて「結婚するなら、スカイツリーから飛び降りた方がまし」って言ってたけど」

「あースカイツリーバージョンも出てきたの?本当に嫌になっちゃうよね、人のことネタに使ってさ」

また力無く笑った。マスターが持ってきてくれたカクテルを一気に喉に流し込んだ。マスターも困惑して私を見ている、

塚田君はマスターが持ってきたサワーを一口飲んでこう言った。

「それは話し合って山浦さんも納得してることなの?」

何も答えられない、話し合ってもない。


彼は結婚したくないし子供いらない。私は結婚したいし子供が欲しい。

私達は今までずっとこの問題から逃げてきた。

大きな息を吐いた。


「……話し合ってもないし、納得もしてないから。私はやっぱり結婚したいし子供も欲しいんだけど、あっちがあんな調子だからさ」

「テレビで見る分しかわからないけれど、昔からあんな人じゃん。どうして付き合ったの?」

手厳しい塚田くんの質問に涙が出そうだ。確かにあの人が結婚するなんて思えない。何で付き合おうと思ったのだろう。

「付き合い出した頃は何にも考えてなくて、とにかく突っ走っちゃったんだよね、自分の年齢考えればよかったのに。本当馬鹿」


マスターが気を利かして持ってきてくれた水を一気に飲んだ。アルコールで火照った体が冷やされ次第に現実が襲ってくる。

「俺は山浦さんが幸せそうにしてるんだったら、別に何もいうことはない。けれどそうじゃないから、何であんな大切にしてくれてない人と付き合ってるの?」

そのセリフに聞き覚えがあった。斉藤君からも同じことを言われたからだ。二人からも言われるなんてよっぽど大切にされているように見えないらしい。

「……前も違う人に同じこと言われたことがあるんだ、何でみんなそう思うのかな」

「普通、35歳の女の人と付き合う時は結婚前提だよね?でもそうじゃないなんて、あの人は男から見てもあんまりにも自分勝手過ぎる。

酷いこと言うけど、山浦さんのことそこまで好きじゃないんじゃないの?」

「……そうだよね」

恋に浮かれている見えなくなっていることを、塚田君が引っ張り出してくれた。彼は昔の彼女なら結婚しても良かったけど、私とは無理なのだ。

大きな溜息をついて、窓から外を覗いた。平日なのに大学生達が楽しそうに歩いている。

塚田君は真剣な眼差しで私を見ている。
「あの大昔のお台場の約束覚えてる?」

何故だかまたあの潮の匂いがしてきたので大きく頷いた。

「俺達はこうやってまた出会った。あの時は未熟で若すぎて支える自信がなかった。でも今なら何があっても支えていく自信はある、もう何があっても逃げない」

高熱にうなされるように塚田君をぼーっと見ていた。遠くで留学生達の歌が聞こえる。

「今付き合ってる人としっかり別れて欲しい。俺はそろそろ結婚したいし、こんな仕事してるからわかってると思うけど、子供好きだし自分の子供は沢山欲しい。

だから俺と付き合うこと真剣に考えて欲しい」


その後のことはよく覚えていない。

智の馬鹿な話をしながら、高崎駅まで一緒に歩くと頭が真っ白になったまま、新幹線に乗り込んだ。
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