第329話 別れの季節
文字数 1,073文字
美咲さんは奥に出てきた私に気がついた。
「こんなに地味な女と付き合ってるの?付き合う女のランク下げ過ぎでしょう」
美咲さんは私を馬鹿にしたように笑った。
彼は「何言ってんだよ」と小さな声で言ったきり何にも言い返してはくれなかった。
私は確かに地味だけれどそんな事この女に言われたくない。
十何年前にこの女を見た時はスタイル抜群で綺麗で確かにこの服が似合っていた。
でも今は何だか太っていてお腹の肉が悪目立ちするし、顔も老けている。足もかなり立派な足になっている。
美咲さんは「先月の終わりに日本に帰ってきたのよ、アキはずっと私のこと待っててくれたんでしょ?」と嬉しそうに語りかけた。
重明だからアキって呼ばれてるんだとぼんやり思った。
そういえば登山の時に「アキって呼んでくる人一人だけいたな」と言った彼の言葉を思い出した。
重ちゃんは何にも言わずに黙っている。
美咲さんは「また付き合ってあげるから」と彼の腕を組んだ。
きっと断ってくれると思ったのに重ちゃんは何も言わなかった。ただ黙ってその場に突っ立っていた。
美咲さんは黙っている彼にこう言った。
「別に結婚してるわけじゃないんでしょ?」
重ちゃんは「あぁ」と小さい声で言った。
ついさっき結婚の約束をしたばかりなのに、無かったことにされてしまった。
彼は私じゃなく美咲さんを選んだのだ。
もう駄目なのだろう。
リビングへと引き返した。
指にはめていた指輪をケースの中に閉まい、クリスマスプレゼントにもらったネックレスを外して机に置いた。
そして預かっていたこの家の合鍵もネックレスの横に置いた。
コートを着て持ってきた荷物を手に持つと玄関へと向かった。
玄関ではまだ美咲さんと重ちゃんが何かを話している。
一方的に美咲さんが話して重ちゃんが、相槌を打っているというのが正しいのかもしれないけれど。
私は二人の横をすり抜けた。
「あっちょっと待って」という重ちゃんの声が聞こえた気がするけれど、すぐに美咲さん「もういいでしょう、あんなランクの低い女」という声にかき消されてしまった。
振り返ると美咲さんに「そのド派手な服着たいなら痩せた方がいいですよ」と吐き捨てると玄関の外に出た。
美咲さんが騒ぐ声が外まで聞こえた。
マンションの外に出ると東京では珍しいだろう三月の雪が夜空から降り注いでいる。
地下鉄の駅までどれだけゆっくり歩こうが重ちゃんは追いかけてなんか来ない。そんなことはよくわかっている。
彼がどれだけの長い間あの人が帰ってくるのを待っていたか、私はよく知っている。
一歩、また一歩と歩くたびに大きなため息をつきながら駅まで泣きながら歩いた。
「こんなに地味な女と付き合ってるの?付き合う女のランク下げ過ぎでしょう」
美咲さんは私を馬鹿にしたように笑った。
彼は「何言ってんだよ」と小さな声で言ったきり何にも言い返してはくれなかった。
私は確かに地味だけれどそんな事この女に言われたくない。
十何年前にこの女を見た時はスタイル抜群で綺麗で確かにこの服が似合っていた。
でも今は何だか太っていてお腹の肉が悪目立ちするし、顔も老けている。足もかなり立派な足になっている。
美咲さんは「先月の終わりに日本に帰ってきたのよ、アキはずっと私のこと待っててくれたんでしょ?」と嬉しそうに語りかけた。
重明だからアキって呼ばれてるんだとぼんやり思った。
そういえば登山の時に「アキって呼んでくる人一人だけいたな」と言った彼の言葉を思い出した。
重ちゃんは何にも言わずに黙っている。
美咲さんは「また付き合ってあげるから」と彼の腕を組んだ。
きっと断ってくれると思ったのに重ちゃんは何も言わなかった。ただ黙ってその場に突っ立っていた。
美咲さんは黙っている彼にこう言った。
「別に結婚してるわけじゃないんでしょ?」
重ちゃんは「あぁ」と小さい声で言った。
ついさっき結婚の約束をしたばかりなのに、無かったことにされてしまった。
彼は私じゃなく美咲さんを選んだのだ。
もう駄目なのだろう。
リビングへと引き返した。
指にはめていた指輪をケースの中に閉まい、クリスマスプレゼントにもらったネックレスを外して机に置いた。
そして預かっていたこの家の合鍵もネックレスの横に置いた。
コートを着て持ってきた荷物を手に持つと玄関へと向かった。
玄関ではまだ美咲さんと重ちゃんが何かを話している。
一方的に美咲さんが話して重ちゃんが、相槌を打っているというのが正しいのかもしれないけれど。
私は二人の横をすり抜けた。
「あっちょっと待って」という重ちゃんの声が聞こえた気がするけれど、すぐに美咲さん「もういいでしょう、あんなランクの低い女」という声にかき消されてしまった。
振り返ると美咲さんに「そのド派手な服着たいなら痩せた方がいいですよ」と吐き捨てると玄関の外に出た。
美咲さんが騒ぐ声が外まで聞こえた。
マンションの外に出ると東京では珍しいだろう三月の雪が夜空から降り注いでいる。
地下鉄の駅までどれだけゆっくり歩こうが重ちゃんは追いかけてなんか来ない。そんなことはよくわかっている。
彼がどれだけの長い間あの人が帰ってくるのを待っていたか、私はよく知っている。
一歩、また一歩と歩くたびに大きなため息をつきながら駅まで泣きながら歩いた。