第349話 五月の新緑
文字数 2,073文字
水曜日の夜、たかちゃんが部屋に遊びに来たので、際どいゲームをしながらあの人から手紙を貰ったことを話した。
というか一方的に私が愚痴を言い、たかちゃんが私の気が済むように相槌を打ってくれていた。
「やっぱりあの女と上手くいかなかったんだ、だろうね、昔と今は違うって何でわからなかったの?バーカって感じ」
私が口悪くそう罵るとたかちゃんも同調した。
「よく亜紀に会いたいって手紙渡してこれたよね」
「そこだよ、そこ。そのお陰で本当に溜飲が下がった、目の前の雲がさーっと無くなった感じ。本当に口悪いけれど、そうやって永遠に現実見ないでない物ねだりしてろよバーカって思ってる」
「本当だよね」
「あの人ドMだから、振り向いて貰えない人を好きな自分に酔ってたんだよ。何でそれに気づいてなかったの?」
「男ってみんなそんなとこあるからね」
「あの人、あの女に浮気されまくって元相方さんにアレな写真までとられてたのに、それでも好きだったんだよ。信じられない。
今まではあの人がいなくなってショックしかなかった、けど手紙貰って以降はそれが全部怒りに変わってきた」
「そうよ、もっと怒った方がいいよ」
「あーあ、あの高そうな指輪持ってきて売ってやれば良かった。そしたら恵まれない子供達に少しでも寄付できたのに、今ちょっと寄付しよう」
そう言ってゲームのコントローラーを床に置いた。たかちゃんが驚いて私を見ている。
「今するの?」
「思いついた時には必ず寄付するってマイルール」
今は便利な時代でスマホ一つで何でもできる。
たかちゃんと暫くあの人の悪口を言っていたらふと思った。
ゲームをやる手を止めて窓の外を見た。真っ暗で向かいのマンションの明かりがうっすらと見えた。
「あんなにあの人のこと好きだったのにな、その内この怒りが消えて全部忘れちゃうんだろうな」
「そんなもんよ、あの人と付き合わなかったら塚田くんと付き合えてたのにね」
たかちゃんは最近やたらと塚田君をプッシュしてくる。
「そうなんだよね、付き合えてたかな。でも塚田君と付き合ってたら一ヶ月で「何か違う」って捨てられてたよ」
「何で?初恋の人じゃん」
「塚田君と毎日顔合わせて再確認したけれど、塚田君は陽キャの体育会系で私は陰キャの文化系。人間の性質が違いすぎる。具体例を挙げるとあの人冬は土日共スノボで山に籠るらしいよ」
「そうなの?それは確かに合わないかも」
たかちゃんもそう思うらしい、インドア派の私は冬山なんか行きたくない。
「だから一ヶ月で塚田君に振られて、えっ、まさかの同じ学校勤務って今以上に苦しめられてたから、あの人と付き合ってたことに意味はあった。最悪の事態はこうして免れてるし」
自分でもひどいことを言っているという自覚はある。でもいつかあの人にも付き合ってて良かったなと感謝する日が来るのだろう。
「おまけに、さくらちゃんも今塚田君のこと好きだって言ってるんだよ。これで学校に塚田君好きな人四人いるの、尚更無理になったよ」
「あら」とたかちゃんは悲しそうな顔になった。
「やっぱり違う人探さなきゃ、夏休みになったらもう一回結婚相談所行くしかないかな」
その時チャイムが鳴って、さくらちゃんが来たのでこの話は中断した。
そしてその十五分後、さとしとやっさんが来たのでみんなで人生ゲームをして遊んだ。
やっさんはさくらちゃんが彼氏と別れたと聞いてから何だか張り切っている。
やっさんが一番でゴールした時、彼は意を決したように大きく息を吸った。
「あのっ、さくらちゃん彼氏と別れたんだよね」
まさかここで告白するつもりなのか、
やめろ、絶対やめろ。
多分私とたかちゃんは同じ気持ちで顔を見合わせた。
けれど私達の願いは虚しくやっさんは屋上から告白する高校生のようにこう叫んだ。
「今度俺とデートして下さい!」
さくらちゃんは笑顔でこう言った。
「無理、私好きな人がいるんです」
智が親友が落ち込んでいるのにデリカシーのないことを叫ぶ。
「誰?イケメンなの?金持ち?」
さくらちゃんは恥ずかしそうにでもうっとりと言った。
「同じ学校の先生で塚田先生って言う人」
智が口を押さえた。
「姉ちゃん、じゃあ塚田さんは諦めなよ、さくらちゃんに敵わないよ」
「誰が塚田君狙ってるって言った、もうとっくに諦めてるから!」
そう言うと智が「さくらちゃんがいるんだったら、姉ちゃんには塚田さんは無理だよな。年齢とかビジュアルとか性格とか全てが劣る」と叫んだので蹴りを入れた。
ふと横を見ると、やっさんは口を大きく開けたまま立ち直れていない。
たかちゃんが「やっさん大丈夫?」と心配すると、やっさんが「俺は絶対にデートしてくれる日まで諦めない」と何回もブツブツ呟いている。
ちょっと気持ち悪い。
「でも今は塚田先生命だから絶対無理かな」とさくらちゃんが笑顔で言い切ったのでまた笑ってしまった。
若い頃、こんな風にみんなで集まって、その中の誰かを好きになる恋愛したかったなと今更自分の境遇を後悔した。
塚田君と付き合っていたらどんな感じだったのだろうか。
塚田君と付き合うことは諦めている、でも頭の中で想像するのは自由だ。
というか一方的に私が愚痴を言い、たかちゃんが私の気が済むように相槌を打ってくれていた。
「やっぱりあの女と上手くいかなかったんだ、だろうね、昔と今は違うって何でわからなかったの?バーカって感じ」
私が口悪くそう罵るとたかちゃんも同調した。
「よく亜紀に会いたいって手紙渡してこれたよね」
「そこだよ、そこ。そのお陰で本当に溜飲が下がった、目の前の雲がさーっと無くなった感じ。本当に口悪いけれど、そうやって永遠に現実見ないでない物ねだりしてろよバーカって思ってる」
「本当だよね」
「あの人ドMだから、振り向いて貰えない人を好きな自分に酔ってたんだよ。何でそれに気づいてなかったの?」
「男ってみんなそんなとこあるからね」
「あの人、あの女に浮気されまくって元相方さんにアレな写真までとられてたのに、それでも好きだったんだよ。信じられない。
今まではあの人がいなくなってショックしかなかった、けど手紙貰って以降はそれが全部怒りに変わってきた」
「そうよ、もっと怒った方がいいよ」
「あーあ、あの高そうな指輪持ってきて売ってやれば良かった。そしたら恵まれない子供達に少しでも寄付できたのに、今ちょっと寄付しよう」
そう言ってゲームのコントローラーを床に置いた。たかちゃんが驚いて私を見ている。
「今するの?」
「思いついた時には必ず寄付するってマイルール」
今は便利な時代でスマホ一つで何でもできる。
たかちゃんと暫くあの人の悪口を言っていたらふと思った。
ゲームをやる手を止めて窓の外を見た。真っ暗で向かいのマンションの明かりがうっすらと見えた。
「あんなにあの人のこと好きだったのにな、その内この怒りが消えて全部忘れちゃうんだろうな」
「そんなもんよ、あの人と付き合わなかったら塚田くんと付き合えてたのにね」
たかちゃんは最近やたらと塚田君をプッシュしてくる。
「そうなんだよね、付き合えてたかな。でも塚田君と付き合ってたら一ヶ月で「何か違う」って捨てられてたよ」
「何で?初恋の人じゃん」
「塚田君と毎日顔合わせて再確認したけれど、塚田君は陽キャの体育会系で私は陰キャの文化系。人間の性質が違いすぎる。具体例を挙げるとあの人冬は土日共スノボで山に籠るらしいよ」
「そうなの?それは確かに合わないかも」
たかちゃんもそう思うらしい、インドア派の私は冬山なんか行きたくない。
「だから一ヶ月で塚田君に振られて、えっ、まさかの同じ学校勤務って今以上に苦しめられてたから、あの人と付き合ってたことに意味はあった。最悪の事態はこうして免れてるし」
自分でもひどいことを言っているという自覚はある。でもいつかあの人にも付き合ってて良かったなと感謝する日が来るのだろう。
「おまけに、さくらちゃんも今塚田君のこと好きだって言ってるんだよ。これで学校に塚田君好きな人四人いるの、尚更無理になったよ」
「あら」とたかちゃんは悲しそうな顔になった。
「やっぱり違う人探さなきゃ、夏休みになったらもう一回結婚相談所行くしかないかな」
その時チャイムが鳴って、さくらちゃんが来たのでこの話は中断した。
そしてその十五分後、さとしとやっさんが来たのでみんなで人生ゲームをして遊んだ。
やっさんはさくらちゃんが彼氏と別れたと聞いてから何だか張り切っている。
やっさんが一番でゴールした時、彼は意を決したように大きく息を吸った。
「あのっ、さくらちゃん彼氏と別れたんだよね」
まさかここで告白するつもりなのか、
やめろ、絶対やめろ。
多分私とたかちゃんは同じ気持ちで顔を見合わせた。
けれど私達の願いは虚しくやっさんは屋上から告白する高校生のようにこう叫んだ。
「今度俺とデートして下さい!」
さくらちゃんは笑顔でこう言った。
「無理、私好きな人がいるんです」
智が親友が落ち込んでいるのにデリカシーのないことを叫ぶ。
「誰?イケメンなの?金持ち?」
さくらちゃんは恥ずかしそうにでもうっとりと言った。
「同じ学校の先生で塚田先生って言う人」
智が口を押さえた。
「姉ちゃん、じゃあ塚田さんは諦めなよ、さくらちゃんに敵わないよ」
「誰が塚田君狙ってるって言った、もうとっくに諦めてるから!」
そう言うと智が「さくらちゃんがいるんだったら、姉ちゃんには塚田さんは無理だよな。年齢とかビジュアルとか性格とか全てが劣る」と叫んだので蹴りを入れた。
ふと横を見ると、やっさんは口を大きく開けたまま立ち直れていない。
たかちゃんが「やっさん大丈夫?」と心配すると、やっさんが「俺は絶対にデートしてくれる日まで諦めない」と何回もブツブツ呟いている。
ちょっと気持ち悪い。
「でも今は塚田先生命だから絶対無理かな」とさくらちゃんが笑顔で言い切ったのでまた笑ってしまった。
若い頃、こんな風にみんなで集まって、その中の誰かを好きになる恋愛したかったなと今更自分の境遇を後悔した。
塚田君と付き合っていたらどんな感じだったのだろうか。
塚田君と付き合うことは諦めている、でも頭の中で想像するのは自由だ。