第62話 ちゃんとした場所

文字数 966文字


「丸山さんが話せって言ってきたんでしょ?だから、誰にも言ってなかったこと無理して話しました」と笑った。

「斉藤君はそのまま結婚したんでしょ?」

「そうです、その年の十一月くらいに隣の市の大きな結婚式場で何百人と呼んで盛大な式挙げてました」

「まさかその式呼ばれたの?」

「学校の職員も参列してという話があったんですけど、校長先生が頑張って職員は不参加にしてくれたんです。多分私に気を遣ってだと思うんですが」

「校長先生ってあの登山にいた校長先生?」
「そう、優しいですよね」

急にあの時の惨めな気持ちが思い出されて懐かしくなった。どんなに辛いことでも人は時間と共に忘れてしまうのだ。

「でも式後に学校に結婚式の写真集の回覧が来たんです。一人一言お祝いのメッセージもって色紙付きで」

「それ書いたの?」

「書きましたよ、ご結婚おめでとうございます。末長くお幸せにっていう定型文ですけど」

「写真も見たの?」
「写真集は校長先生が気を利かせてどこかに持ってってくれましたけど、あの表紙になってた奥さんのウェディングドレスの純白の眩しさは強烈でしたね」

そう笑うと彼も何故だか笑った。
「俺も同じ体験したことある。昔付き合ってた女が突然他の奴と結婚するっていなくなったんだけど、数ヶ月後に共通の友人が非常に申し訳なさそうに、彼女からって盛大な結婚式の写真数枚とお祝いメッセージ書く紙持って来たからな」

「それ書いたんですか?」
「俺、亜紀ちゃんみたいに性格良くないからな。写真ごと突き返したよ」そう彼は笑った。

「いや私は職場だから書かざるを得ないけど……凄く天真爛漫な方だったんですね」

「あーそうだよ、よく言えば天真爛漫で悪く言ったら頭が悪かったからな。俺が祝ってくれるとでも思ってたの?って脱力したよ」

そう言って彼はまた笑った。

前にテレビでみた丸山さんが好きな女の人の条件であげていたことをふと思い出した。
天真爛漫だとか頭が悪いこととか、やけに具体的だった。その人のことだったのだろうか。

今までの話に出てきた女の人達ではなくて、多分彼が本当に好きで付き合ってた人なんだろう、そんな気がした。

彼がこの話をこれ以上広げないように、村のことを聞いて来た。

「じゃあ村は今どうなってんの?」
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