第341話 四月の風
文字数 1,264文字
おそらくこの二人は誠子さんのご両親だろう。
お父さんがいきなり誠子さんの胸ぐらをつかみ頬を思いっきり叩いて「この恥さらしが!」と怒鳴った。
校長先生と教頭先生が慌てて間に入った。
「お父さん、落ち着いて」
お母さんはわざとらしいくらいに「誠子、どうして」と号泣している、自分が家にいないことはバレてないと思っているのだろう。
お父さんはお母さんの方を向き直り「お前がしっかり見てないからだろ!」と怒鳴った。
お母さんは「あんたこそ家に寄り付きもしないくせに偉そうなこと言わないでよ!あんたのせいだから!」と泣き叫んだ。
両親の醜い喧嘩を見た誠子さんが寂しそうに下を向いた。
そんな誠子さんを察して校長先生が「ですから先程お話しさせて頂きましたが、今日は三人で家に帰って三人でご飯食べて三人で寝てください」と優しく語りかけた。
が、お父さんは無言で校長室を出て行った。
お母さんはお父さんと比べると愛情があるようで、誠子さんと一緒に校長室を出て帰っていった。
お母さんと一緒に帰る誠子さんは心なしか嬉しそうに見える。
玄関まで見送ると、校長先生と教頭先生はまだ車の前でお母さんと誠子さんと話をしている。後は超ベテランにまかせておけばいい。
さくら先生は先に職員室に帰っていたので、玄関から職員室までの暗い渡り廊下を塚田君と二人で歩いていた。
「週一回くらい家庭訪問するか」
「うん、それがいいかも。でも何か冤罪を着せられても困るし、必ず私かさくら先生どっちか一緒に行くから」
「本当に助かるよ」
春の少し冷たい夜風が私達の前を吹き抜けた。塚田君がまた口を開いた。
「何か言いたくないような事まで赤裸々に語ってくれてありがとう、誠子さんの心に響いたように見えたよ」
「……塚田君はいないものとして話してたから全部忘れて」
そう言うと塚田君は「わかったよ」と少し笑った。
暗い廊下の先に職員室の灯りが見えてきた。まだ七時半だから誰か残業をしているらしい。
塚田君が渡り廊下の右横にあるプールを見てすぐに私を見つめた。
「山浦さん、一人じゃないよ、俺がいるよ」
思わずときめいてしまった。
大学生の頃、塚田君のこういう優しい所が好きだったし、嫌いだった。
「塚田君、今大学時代と全く同じ気持ちになった。いい意味じゃなくて悪い意味で。大学時代に言えなかったこと言ってもいい?」
塚田君は頷いた。
「彼女いるのに他の女に優しさ振り撒くのやめなさい!今なら塚田君は優しいからって笑って済ますけれど、当時の私は凄く惨めな気持ちだった」
塚田君が何かを言おうとした次の瞬間、職員室から島田先生が「例の件どうなりました?」と顔を出した。
島田先生に「どうもこうもないよ」と言いながらも、頭の中では大学時代を思い出していた。
塚田君と度々会ったスーパー、探検した夜の大学、二人で行ったお台場
せめて今隣の学校に勤めていたら、同窓会がもっと早くに行われていたら、あの時お母さんが下に降りてこなかったら
もっと運命がうまく転がってたら、塚田君と付きあえていたのかもしれないのになと、自分勝手な妄想を繰り広げていた。
お父さんがいきなり誠子さんの胸ぐらをつかみ頬を思いっきり叩いて「この恥さらしが!」と怒鳴った。
校長先生と教頭先生が慌てて間に入った。
「お父さん、落ち着いて」
お母さんはわざとらしいくらいに「誠子、どうして」と号泣している、自分が家にいないことはバレてないと思っているのだろう。
お父さんはお母さんの方を向き直り「お前がしっかり見てないからだろ!」と怒鳴った。
お母さんは「あんたこそ家に寄り付きもしないくせに偉そうなこと言わないでよ!あんたのせいだから!」と泣き叫んだ。
両親の醜い喧嘩を見た誠子さんが寂しそうに下を向いた。
そんな誠子さんを察して校長先生が「ですから先程お話しさせて頂きましたが、今日は三人で家に帰って三人でご飯食べて三人で寝てください」と優しく語りかけた。
が、お父さんは無言で校長室を出て行った。
お母さんはお父さんと比べると愛情があるようで、誠子さんと一緒に校長室を出て帰っていった。
お母さんと一緒に帰る誠子さんは心なしか嬉しそうに見える。
玄関まで見送ると、校長先生と教頭先生はまだ車の前でお母さんと誠子さんと話をしている。後は超ベテランにまかせておけばいい。
さくら先生は先に職員室に帰っていたので、玄関から職員室までの暗い渡り廊下を塚田君と二人で歩いていた。
「週一回くらい家庭訪問するか」
「うん、それがいいかも。でも何か冤罪を着せられても困るし、必ず私かさくら先生どっちか一緒に行くから」
「本当に助かるよ」
春の少し冷たい夜風が私達の前を吹き抜けた。塚田君がまた口を開いた。
「何か言いたくないような事まで赤裸々に語ってくれてありがとう、誠子さんの心に響いたように見えたよ」
「……塚田君はいないものとして話してたから全部忘れて」
そう言うと塚田君は「わかったよ」と少し笑った。
暗い廊下の先に職員室の灯りが見えてきた。まだ七時半だから誰か残業をしているらしい。
塚田君が渡り廊下の右横にあるプールを見てすぐに私を見つめた。
「山浦さん、一人じゃないよ、俺がいるよ」
思わずときめいてしまった。
大学生の頃、塚田君のこういう優しい所が好きだったし、嫌いだった。
「塚田君、今大学時代と全く同じ気持ちになった。いい意味じゃなくて悪い意味で。大学時代に言えなかったこと言ってもいい?」
塚田君は頷いた。
「彼女いるのに他の女に優しさ振り撒くのやめなさい!今なら塚田君は優しいからって笑って済ますけれど、当時の私は凄く惨めな気持ちだった」
塚田君が何かを言おうとした次の瞬間、職員室から島田先生が「例の件どうなりました?」と顔を出した。
島田先生に「どうもこうもないよ」と言いながらも、頭の中では大学時代を思い出していた。
塚田君と度々会ったスーパー、探検した夜の大学、二人で行ったお台場
せめて今隣の学校に勤めていたら、同窓会がもっと早くに行われていたら、あの時お母さんが下に降りてこなかったら
もっと運命がうまく転がってたら、塚田君と付きあえていたのかもしれないのになと、自分勝手な妄想を繰り広げていた。