第124話 勿忘草

文字数 748文字

私の左頬を撫でながら「何もしなくてもいいから十秒だけ目瞑ってて」と言った。

続きをされるのはわかっていたけれど、言われるがまま目を閉じた。

した事ないのバレたかも、でもバレたらもっと揶揄ってきそうな雰囲気だったけれども、何にも言ってこないし、バレてない可能性が高い。

絶対バレてない、バレてない、バレてない!

困った私はとにかく数を数えた。

案の定頭が真っ白になって全く覚えていなく、数字の8を数えた時に急に体がぽーっとした感じが止んだ。

「まだ8秒しか経ってない」そう口が勝手に喋ると「これ以上すると仕事行きたくなくなるだろ?あーあ時間が欲しいな」と言って今度は私の頬にキスをした。

彼が言った言葉の意味を頭でしっかり処理すると私がもっとキスをして欲しくて体の関係を求めてるエロい女みたいだ。

冷や汗がでた。

けれども35歳としたら、キスのやり方が分からなくて頭が真白になっているこの現状より、体の関係を求めている方が女としてよっぽどましだ。

愛想笑いして誤魔化そう。

駅の構内に新潟行きの新幹線が間もなく到着するというアナウンスが流れた。

彼は「あーあ、もう行くよ」と言い、私の右頬を触るとまたキスした。

どうして数えていたのか自分でもわからないけれど、今度は五秒間だった。

立ち尽くす私の髪を撫でて「今度はもっと長くしよう。何とか時間作るから」と言うと改札口に切符を通し行ってしまった。

……長くするって一体どういうこと?

この先のことを想像すると正直ゾッとした。

別に彼のことが好きだから嫌な訳じゃない、ちゃんとしなきゃいけない病にかかっている私は年相応にちゃんとできるのだろうかという心配が三メートルぐらいの影になって襲いかかってくるのだ。





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