第170話 師走の夜

文字数 1,046文字

机を退かせば布団二枚引ける。部屋は田舎なだけあって何気に広いのだ。

「何でお前が真ん中なんだよ」
「夜中に何かあったら気まずすぎるから。姉ちゃんが抱かれてる声なんか死んでも聞きたくない」

私も彼も何も言えなくなり気まずい間ができた。

「あーもう寝るから、おやすみ」
この気まずさを打ち消す為に電気のスイッチを消してベッドに入った。

その五分後グーグーと大きないびきが聞こえてきた。

「寝ててもうるせぇな、本当に」彼が布団を被った。私は慣れてるけれど、他の人に申し訳ない。

「ごめん、寝れないよね?何かあったかいもの飲む?」「うん」と答えたので豆電球をつけて二人で部屋の隅に追いやられた机に座った。

智のいびきをバックにココアを飲んだ。「このココア甘くない」「甘いの嫌いでしょ?今甘くない大人のココアがでてて眠れない夜とかに飲むといいんだって」

そう言うとまた一口飲んだ。

「明日は何時から仕事なの?」「明日は始発に乗ってけば充分間に合う。明後日はダム紀行の収録初日だよ」
「えーっ、凄い本当にやるの?」
「ずっとダムの勉強してる、明日も新幹線の車内で勉強するから、ダム好きの俺のキャラを守らないとな」
「そっかじゃあ社会の時間に見るね、きっとみんな喜ぶと思う」

そう言うと彼はココアを一口飲んだ。


「ねぇしげちゃん、ちょっとベランダでない?」
「ベランダ?外ってこと?ここは東京の百倍寒いから劇的に寒いぞ」「いいから、ちょっとコート着て」嫌がる彼に無理やりコートを着せると自分もコートを羽織ってベランダへ続く窓を開けた。

ベランダのスリッパを履くと空を指さした。予想通り特に冷える今夜は満天の星空だった。
彼が感嘆の声を上げた。

「すごいな、東京の百倍は綺麗に見えるな。なんか空も近い」
吐く息が白く凍った。

「一度見せたかったんだ、こんなクソ田舎にもいい所あるから」
「すごく綺麗だよ」
「でしょ?あれが北極星だよ。アルファベットのwの形をひたカシオペヤかあって、あれがオリオン座で」

私が理科の授業ばりに熱心に星の説明をしているのに、彼は空を見ずに私を見つめて微笑んでいた。

「何?」「いや、あきちゃんと付き合ってると高校の時思い出すよ」
「言うこと幼いってこと?」「違うよ、ピュアラブってことだよ」

思わず笑ってしまった。
「ピュアラブって歯の浮くような言葉何?」

そう言うと、彼に背後から抱きしめられた。さっきと違って今度の抱きしめ方は優しい。
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